↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/55

お告げの声

「クリフよ。貴方が今ここにいるのは、神の御心によるものです。貴方は、その忠義と熱心さの故に、神に選ばれたのです」


 その若者の姿の天使は、そう言ってクリフを静かに見つめました。


「しかしながら、あなたは気を付けなさい。そこにいる呪われた罪人、キーンについて、あなたは先だって、彼を怒りに任せてナイフで刺し殺しました。その事については咎めはしませんが、これからはもう彼に対して復讐しようとはしてはなりません。彼は今、勇者ガンマにとって必要な人間なのです」


「……! わ、分かりました……天使さまがそう仰るならば……」


 天使からもう私に危害を加えないよう言われ、クリフは多少納得行かない様子ではありましたが、何を言い返すでも無く、彼は天使の言葉に従いました。


「よろしい……。クリフよ、あなたもまた勇者ガンマに付き従い、彼を守りなさい。そして彼に、礼法、そして勇者としてふさわしい立ち居振る舞い、言葉遣いを教えるのです。忠実であれば、神の助けがあなたにあることでしょう」


 そして、次に天使はマーレの方に顔を向けました。


「マーレよ。貴女はその優れた見識、判断、そして魔力の素質のゆえに神から選ばれました」


 その言葉を聞き、マーレは暫し黙り、少し考えたかと思うと、天使を興味深げに見つめながら、ゆっくり口を開きました。


「ふーん……じゃあ、あたしがガンマ様の護衛を申し出たのも、神様の思惑通りって事なのかねえ……神様っていうのは何処まで先を読めるものなんだろうね……」


「神の御心というものは、人間にはその全てを推し量ることは出来ぬものです」


 そのマーレの言葉に、天使はにっこり笑って答えました。


「しかしながら、貴女は求め、よく学び、思い図る事により、神の御心の一部を知るに至る見識の持ち主です。勇者ガンマに付き従い、彼を守りなさい。そして彼に魔法を教え、さらに貴女の持つ見識について、彼に伝えなさい。勇者である彼の知恵が増し加えられるためです。良いですね?」


 天使からそう言われ、マーレは少しフンと鼻を鳴らすと、腕を組んで背筋をピンと伸ばし、天使に向かって言いました。


「勿論、そのつもりだよ。言われなくたってガンマ様はあたしがしっかり守るさ。そして、元々あたしはガンマ様の教育係。しっかりガンマ様にはあたしの知識、経験をお勉強してもらうつもりさ」


 マーレのその言葉を聞き、天使は静かに頷いたあと、今度は私に顔を向け、口を開きました。


「そして……呪われた罪人、キーンよ。あなたもまた、勇者ガンマに付き従うよう、神に選ばれました。常に彼の傍らにあり、彼の身に危険が迫る時には、彼を守り、助けなさい」


 そして、更に彼は続けました。


「さらに、あなたに命じます。あなたは、彼が高ぶり、高慢に陥ることのないように、彼にあなたの犯した過ちについて語り、彼が誤った道に進むことの無いよう、常に勇者を見守りなさい。あなたの経験は、彼にとっては知識となり、教訓となるからです。分かりましたね?」


「……はい……。分かりました」


 そう答えつつ、その時、私はこう思っておりました。


 果たして私の過ちなんかを聞いて、それがガンマ様にとって役に立つものだろうか。


 体を張ってガンマ様を守るのは、死ぬ事のできない私にとってはちょうど適任かも知らないが、かつて彼の母親であるセレスティアを蔑ろに扱った私の言葉に、彼は聞く耳を持つものだろうか。


 しかしながら、とにかく私はこの天使の言葉に従い、自らの犯した罪の償いを、少しでもしなければならない。


 そんな事を考えておりました。もとより、不逆(さからえず)の呪いを受けた私でございますから、天使の命じた事に逆らうなどという事は、出来ないのではございますが。


 私がそう答えるのを見て、天使は静かに私に言いました。


「あなたが自らの犯した罪を償うのには、更にまだ苦難を経ねばなりません。しかし、あなたがそれにしっかりと耐え続けるならば、必ずその苦難には終わりが来ることを約束しましょう」


 その時の私には、それがどういう意味なのかが全くわかりませんでした。


「そ、それは……いったい……」


 私がその天使に尋ねようとしますと、天使のまわりから、光が周りに散らばるように、キラキラと光り始めました。


「あっ……」


 それが、天使の立ち去る時の兆候である事を知っていた私は、咄嗟に手を彼に向かって伸ばそうとしましたが、勿論その手が届く事はなく、その天使は周りに光を放ちながら、以前と同じように、すうっと消えていったのでございます。


 そして、天使は去っていきました。


 遠くから、闇の迫る夕暮れの中、王都からの兵士達がやってくるのが見えたのは、ちょうどその直後の事でございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。