新しい命令
馬を急がせ、私を連れたシーレン副隊長率いる騎兵は、次の日の夜には城までたどり着く事が出来ました。
私が城の門で待たされている間に、シーレン副隊長以下6名の兵士は城内に報告を済ませ、そしてシーレン副隊長だけは、また私のもとに戻って来ました。
シーレン副隊長は、城門にいる私の所に来ると、不機嫌な顔で私にこう言いました。
「……王に直接報告した。城内では動揺してる者が多かったようだ……。まあ、一小隊送り込んで勝てなかった訳だから、厄介な事になったって事だ……」
彼はかなり背が高く、私より頭一つほど大きいのですが、このときの彼は意気消沈していたのか、心なしか少し小さく見えました。
彼は、下を向いて小さくつぶやきました。
「ガラン隊長……無事に逃げおおせていると良いが……」
私は、そんな彼を黙って、ただ見つめておりました。
その後、程なくして捜索隊が組織され、部隊を捜索に向かったところ、逃げてくる数人の兵を保護できたとの事でございました。
逃げてきた兵の話では、残った部隊は私達を逃がした後、しばらく戦って時間を稼ぎ、その後はガラン隊長の指示により、散り散りになって逃げたとの事で、その後の捜索で、更に逃げてきた多くの兵を見つけ、保護する事ができました。
ただ、その中にはガラン隊長の姿は無かったそうでございます。
逃げてきた兵の話では、彼は最後まで戦い、敵を引きつけていたとの事でした。
捜索隊が帰って来て、その結果をシーレン副隊長が私に知らせてくれるまでの間、私は門の外で過ごしておりましたが、一応待機するよう命じられていた事もあってか、城門の詰め所で衛兵と一緒に過すことが出来、食事や毛布を与えられておりましたので、私にとっては待つ間は苦ではございませんでした。
衛兵の態度や悪口などは、私にとってはいつもの事であり、暴力を振るわれないだけましでございました。
シーレン副隊長が私に捜索の結果を伝えに来てくれた時、私はガラン隊長が恐らく死んでしまったであろう事を、残念に思いました。
彼は、私に個人的な恨みが無かったせいもあり、私に敵意を向けてきませんでした。また、彼のおかげで、私は無事にここに帰り着く事が出来ました。
私がガラン隊長の事で悲しそうな顔をいたしますと、シーレン副隊長はそれが気に入らなかったようで、私に向かって怒りを発しました。
「何だ、お前は……今まで散々悪事を重ねて来たんだろうが。何を人の心があるみたいな顔をしてるんだ? 悪魔のくせに」
シーレン副隊長は、少しばかり体が震えていました。それが怒りから来るものなのか、それとも何か他の感情から来るものなのか、私には分かりませんでした。
「お前なんかより、俺の方がよっぽど悲しいんだ! どうせお前には大事に思う人をなくす気持ちなど分からないくせに、何を分かったふうに悲しそうな顔をしてやがる! このっ!」
そう言うや否や、彼は私に向かって、強烈な蹴りを食らわせました。
ドスッ……と、鈍い音がして、私の脇腹に彼の足が入りました。
「ぐっ……くっ、はあっ……」
彼に蹴られ、私は、その痛みでその場にうずくまってしまいました。そんな私を上から冷たい目で見下ろしながら、彼は私に向かって言いました。
「お前は、また元の場所に繋がれることになった。そして、俺がそこまで連れて行くことになっている。立て」
「は……はい……」
不逆の呪いを受けている私でございますので、私は何も言い返せず、逆らう事もできず、痛む脇腹を押さえ、立ち上がりました。
その時でございます。
私とシーレン副隊長のいた城門の詰め所の部屋の中に、突如として白い光の塊が姿を表したのでございます。
時は昼間でございましたが、その光の玉はその中でも眩しいほどに光を放っておりました。
ちょうどその時、詰め所の中に居たのは私、シーレン副隊長、そして衛兵二人の四人でした。その場にいたものは皆、突如部屋の中央に現れた白い光の塊に驚き、その場に立ちすくんでおりました。
光の塊は、輝きを放ちながら、徐々に人の姿を取り、私の方を向きました。その姿に、私は見覚えが有りました。
その光こそ、女神アタナスフィアでございました。彼女は、また何故か私のもとに突如現れたのでございます。
彼女は、私に向かい、私に向かって言葉を発しました。その声は、まるで金属かガラスでも打ち合わせたかのような、澄んだ声でございました。
「呪われた大罪人、キーンよ。お前は今まで罰を受けてきたが、尚もこの先、罪の償いとして苦しみをその身に受けなければならない」
彼女はそう仰ると、更に言葉を続けました。
「嘗て魔王の居た谷に現れた魔物は、魔王のうちの残り一匹の竜である。魔王は二匹の竜であり、キーンよ、お前はそのうちの一匹のみを倒したのである。今や残りの一匹は力を付け、強くなり、世に自らを現した。お前はその魔王を倒す為、その身を犠牲にして働かなくてはならない」
私も、シーレン副隊長も、衛兵の二人も、皆その言葉を確かに聞きました。
魔王は、二匹の竜。
かつて私が倒したのは、そのうちの一匹のみ。
女神のその言葉は、私にとっては衝撃でございました。
なんか長くなってしまっている……




