時空の狭間
精神力は自然に徐々に回復。精神力が0になると3割で気絶。体力は戦闘から離脱しない限りまたは治癒魔法や特殊スキルを使用しない限り回復しない。魔力は精神力が満タン状態なら徐々に回復。
どうやら私は眠っているようだった。意識が夢と現実の狭間を彷徨う。
「起きて下さい」
ーーうるさいなぁ。もうちょっと眠らせて。
この女の声が不愉快な人の声に似ていた。私は無視して寝た。
「起きて下さい」
ーー絶対に目覚めてやらん。もうこりごりだ。人生色々ありすぎて疲れた。
また私は無視して寝る。
すると、
「起きんかこらーー!!」
とほっぺたをビンタされた。強制的に目覚めさせられた私の目の前にピンクの長い髪を下ろしたエミリーがいた。
「へ? あってめえ!! 私に殺されたいのか!? こちとらあんたの所為で散々だったわ!!」
仇敵に叩き起こされた私は悪態をつきまくった。エミリーは白い聖職者の格好だった。いつも編み込んだ髪はゆるくウェーブがかかって背中にながしていた。対して私は、真っ裸だった。シャーロットであるその姿は長い紫の髪も縛ってなかった。
「ぎゃーーー!?」
慌てて起き上がり胸を隠した。エミリーは呆れてため息を吐いた。
「騒がしい人ですわねー。私しかいないのですから、隠す必要ありませんよ」
周りを見渡した。色んな色が混ざり合うここは亜空間だった。確かに私とエミリーしかいなかった。
「ここはどこよ? また私死んだの?」
「ここは時空の狭間。あなたは死に、世界もまた消滅しました」
「は?......何言ってるの?」
ーー世界がなんだって?
このエミリーは何か違う。雰囲気が何だか神々しい。
ーー本当に同一人物か?
そして、私はあの女神の声と一緒だったことに気づいた。
「もしかして、世界から逃げた時に声をかけたのはあんた?」
「そうです」
ーーだとすると、エミリーの所為で追い詰められたのに、エミリーによって別の世界、日本に飛ばされた訳だ。
滑稽な話だ。そして、この女の正体に薄々気づいた。
<アルカナストーリー〜愚者の微笑み〜>の真のエンドで主人公エミリーは闇の神と光の神を倒して、運命の女神へと器を昇華する。しかし、私が殺された状況のうえに、世界は滅んだとこの女は言った。真のエンドでは世界は滅びない筈だ。
「......運命の女神。貴女は私の知っているエミリーなの?」
エミリーと思われるその女性は優しく微笑む。その表情はあのエミリーとはまるで別人。
「違いとも言いますし、同じとも言えます。私は貴女が逃げ出した世界の延長上に発生した存在。日本でいうパラレルワールドのようなものです」
説明しよう。
アルカナストーリーの世界
断罪イベント→シャーロットが逃げた→エミリー神化
断罪イベント→シャーロットが戻ってきた→世界滅びる
今いるのはその2つの時空の狭間。
ーーこんな感じ?
「え? 私が日本に逃げずに断罪イベントを続けていたら、真のエンドだったってこと!?」
「......まぁ、そうなりますね〜。真のエンドって言いかた笑えますわ」
「世界滅ぼしたの私!?」
「......それはまぁそうともいいますし、違うとも言えます」
「え? どっち?」
「貴女にはこれから運命を変えてもらいます。世界を滅亡から救って下さい。そして、哀れな私を救って下さいお願いします」
ーー私はエミリーに殺された様なものだけどね!?
「哀れなって......それは私を殺したエミリーか今目の前にいる貴女なのかどっちよ」
「結果的にはどっちもです」
「......貴女は哀れなの?」
ーー女神なのに?
女神はピンクの瞳を伏せた。
「私は今すごく孤独です。ここには神様が私しかいないのです」
「え? 天使いるよね? 私とダークがいるよね?」
真のエンドでは、主人公エミリーと共にシャーロットとダークが神様と戦う。神様と相討ちとなったシャーロットと元天使があるが故に神と共に消滅するダーク。この2人を運命の女神と化したエミリーは己の天使として復活させるのだ。
ーーストーリー思い出して泣けてきた。悪役令嬢が死なないんだよ!? すごくない!?
女神は仄暗い笑みを浮かべた。
「あの2人は私の元から去りました。私も止めませんでした。イチャイチャする2人を見ていたくなかった」
「え! ちょっと! 折角良いエンドなのにそのオチはやめてよ!?」
ーー真のエンド気に入ってたのに!
確かにそのダークはシャーロットを想っていたから、予想はつく。つくのだが、やめてくれ。
「現実はそんなものです」
何とも言えない気持ちになった。
私は今更ながら関係ないことを要求した。
「......服やっぱり着たいんですけど、女神様って服出したり出来ない? 後、鏡ってない?」
女神は、「全く関係ない話ですわね〜」とため息を吐く。
私はこの身体に戻ってきてから1度も自分の顔を見たことない。牢屋に入ってからも鏡を見る機会なんてなかった。記憶にはあるが、自分の顔がものすごく気になった。
女神は右手を上げて、何やらステイタス画面でも見ている様だった。私からは何も見えない。
ーーあの画面の見方ってわかんないのよねーっ。
女神の動作を真似して右手を上げた。すると、▼操作不能。と表示された。
ーー死んでるからか。
女神はタッチする動作をして、紫のワンピースと手鏡を私の手元に出現させた。感激した私は「ありがとう!」と礼を言った。女神は「さっさと着替えて下さい」と億劫そうだった。急いで着替えて、手鏡を見る私。
ーーすっげぇ。
自分の顔を見て驚いた。
紫の睫毛は長く、つり気味の紫の瞳。肌は白くて頰はほんのりと赤い。艶々の真っ赤な唇。小顔で鼻筋が通っており、紫の眉はキリッとして細い。まさに悪役令嬢に相応しい綺麗できつめの顔だった。
「もう、思い残すことはありませんね?」
女神のその言葉に焦った。久々に人心地ついたところなんだから焦らせないでほしい。
「まだよ! だいたいどうやって運命なんて変えるの?」
「貴女を過去に飛ばします。こっちの世界に戻ってきた瞬間に戻します。いわゆる断罪イベント時です」
ーーまたあのハードな戦闘になるのか!?
「もうちょっと前に戻せないの?」
ーーエミリーがいじめの証拠を集める前か、いじめる前に戻りたい!
「無理です」
女神は無慈悲にきっぱりと言った。
ーーそっちの私がダークとイチャイチャしてたから、八つ当たりしてない?
「今ものすごく不愉快なことを考えましたね? すぐに飛ばしてあげますよ?」
「ま、まさか、そんなことないわよ。戦闘に向けて作戦を練ろうと思ったのよ」
「ほお。それは大変結構。よければ役に立てて下さい」
冷たい目をした女神はステータス画面をタッチして、1枚の紙を出した。渡されたそれを見ると、私の技や魔法、スキル、装備について詳しく載っていた。女神は5人の敵(?)の情報も出してくれた。
「......何とかなるわね」
ゲーマーだった日本の記憶を思い出して、私は作戦を練った。
「準備はいいですか?」
「オッケーよ!」
6枚の紙の両端を揃えて女神に返した。女神は画面をタッチして魔法を唱える。
「運命の歯車」
私はまた浮遊感を感じて気持ち悪くなりながら、過去へと飛ばされた。
断罪イベントで悪役令嬢の悪行の証拠の入手分、悪役令嬢の精神力を削れる。→ランダム気絶状態+体力半分に削れ、有利に戦闘になる。実は悪役令嬢はコルセットやピンヒールのせいですでに体力が4減っている。状態異常系が多いのでヒロイン及びヒーローは眠り状態を防ぐ目覚ましを携帯している。