エンド
タロットカード 技
●スート(火風水土の魔法をランダムで発生させる。威力もランダム)
魔力5精神力3消費
頭痛が止み、私の意識はハッキリしてきた。全身に滞っていた血が巡る。腹部の解放感と共に現実に意識が引き戻された。
パチリと長い睫毛の瞳を開くと、いやらしい目つきの男の顔がドアップだった。
ーーッッちかっ!?
ゴツンッ!
私は条件反射でその男に頭突きを食らわした。
「いたーーい!」
「うおぉぉ!?」
たんこぶができた頭の涙目の私。いやらしい目つきの男は頭突きされた顎を手で抑えて呻きながら後ろに下がる。
ーー何!? 一体誰!?
痛さも相まって大混乱中の私。周りを涙が溢れる目で必死に見渡す。そこは石造りの壁が剥き出しの牢屋だった。男は他にも2人この部屋にいた。黒地の立ち襟の服を着た3人。3人とも私の姿をいやらしく見ている。
自分の姿を見て驚いた。紫色のドレスを脱がされ下着一枚の姿だった。コルセットも外されていた。そんなあられもない姿を見て男達は鼻の下を伸ばした。
ーー以前の身体ならまだしも、このセクシーな身体では危険すぎる!!
貞操の危機を感じた私は脱がされて床に落ちていたドレスで胸元を隠した。男達は何やらひそひそと相談し始めた。
「どうせ処刑されるなら、俺たちで美味しく頂いてもよくない?」
「そうだな。身分も下民に落ちたし、いいんじゃない?」
「大賛成だ」
ーーくそったれどもめ! どうせ、いやらしいこと考えてるんでしょ!?
さびれた牢獄の具合から、私は相当重い罪を着せられたことがわかる。貴族であれば綺麗な部屋で監禁されるだけだが、私はどうやら貴族の身分も剥奪されたようだ。悪役令嬢が断罪イベントで負けると絶望してドラゴンになる。ドラゴンになる過程は知らないが、相当酷い扱いを受けて絶望したのだろう。
そしてそれはそのまま私に降りかかってくる。処刑というワードが気になるが、まずこの状況をどうにかせねばならない。
ーーぶっちゃけさっさとドラゴンになりたい!! 絶望したくない!!
頭を抱えてどうするべきか考えた。
ーーどうやってドラゴンになろう!?
見当違いのことを考えていると、1人の男が私を羽交い締めにしてきた。
「何すんの離しなさい!!」
ジタバタと抵抗した。ドレスが床に落ちた。男達はいやらしく私の身体に触れてきた。嫌悪感で吐き気がした。
ーーまた気を失いたい!! ぶっちゃけ私を殺してくれー!!
そんな願いも虚しく、されるがままで、救いのドラゴン化もしなかった。
* *
晴れた空を忌々しく見た。綱で身体を縛られた私。白いワンピースのような囚人服。紫の長い髪はぼさぼさ。響く怒号。
処刑台に私は立っていた。柵の向こうでは観客がうるさく叫んでいる。
ーー私が一体何をしたっていうのだ!?さっさとこの人生終わらしたいわ!?
たかだかエミリーに嫌がらせしたぐらいで処刑されそうだ。体も犯され、地獄にしか思えない。
世界は私に厳しい。排他される絶望感。何故この世界に戻ってきてしまったのだ。
ーー私を受け入れない世界が憎い!! エミリーが憎い!! 見捨てたダークが憎い!!
はたして私の存在を認めてくれる者などいるのか?私がいなくとも勝手にこの世界はまわる。何事もないように進む。
それが何より屈辱だった。存在意義を見出せない私。
ーー両親もそうなのか?
私を大切に育ててくれた両親なら、きっと私を見捨てたりしない。光の聖女ことエミリーを止めてくれるかもしれない。
私は柵の向こうから両親がいないかと探した。
だが、いなかった。何だか悲しくなった。身体から黒いもやが出てきた。落ち込んで顔を伏せる私はそれに気づかない。
ーー「闇を抱えし我がしもべよ。我を受け入れよ。さすれば汝に力を与える」
低い男の声が聞こえた。頭に響くその声はあの女神の声ではない。
ーー「もう一度問おう。我を受け入れよ」
「なんだっていいわよ。こんなくそみたいな人生を終わらせてくれるなら何だって受け入れてあげるわよ!」
突然叫びだす私を皆狂ったやつだと思っただろう。叫ぶ私を黒いマスクの男が引きずり首を吊る輪っかの綱を首に結ばれる。下の板が外れれば私はまたあの世へいけるだろう。
ーー死ぬのは経験済みだから、怖くない。いや、嘘だ。めちゃくちゃ怖い。こればかりは慣れない。
震える私に先ほどと一緒の声が聞こえた。
ーー「了承した」
身体中が熱くなった。焼かれるような痛み。痛すぎて声にもならない。
私の背中から悪魔のような黒い羽が生える。うちから突きやぶれるように私の身体は原型をなくして、5メートルはあるドラゴンへと変化した。綱を引きちぎり、処刑台を踏み潰す。
ドカーーンッッ
「ば、化け物だーー!!」
辺りは大混乱となった。逃げ出す人々。私はそれに構わず空へと飛んだ。
ーーあいつだけは、エミリーだけは絶対に許さない!!
黒いドラゴンは怒りで猫の様に縦に長い瞳孔を細めた。金色の虹彩の瞳はギラギラと光った。
* *
王宮の入り口にたどり着いた私は口から火炎を吐き出した。大きな扉はメラメラとよく燃えた。
「ひぃぃぃ!!化け物!?」
門番達は蜘蛛の巣を撒き散らすように逃げた。愉快な気分の私は燃えた入り口から王宮へと入る。
ーー人間なんて本当馬鹿みたい! 楽しい! 痛快ね!
いかれた私はエミリーが預けられた王宮を破壊していく。立ち向かって来る者もいたが瞬殺してやった。そこにヒーローの様に登場するエミリーにダーク。今日は黒いドレスを着たエミリー。相変わらずピンクの髪は編み込まれてくるんと2つの輪っかになっている。ピンクの大きな瞳。エミリーはドラゴンを見ながら優雅に微笑む。
「あらあら、誰かと思えばシャーロット様ではないでしょうか。ついに本性を現しましたね!」
ーーなんでこいつ私だってわかるの? まるで予想していた様な口ぶりね。
「シャーーー!!」
喋ろうとしたが、残念ながら咆哮となる。執事姿のダークは私を哀れむように眉尻を下げる。整いすぎた顔つきの彼は天使のように美しい。
ーー元天使だったわ。
「おいたわしや。言葉も喋れないのですね。せめて、私の手で楽にして差し上げます」
ーーダーク見損なったわ! あんたゲームの方が優しいキャラだった!
少なくともゲームではもう少しシャーロットを思いやっていた。殺そうとはしなかった筈だ。
私達の戦闘がこうして始まった。
▼戦闘が開始されました!
と表示が出た。
▼選択して下さい。
●鉤爪
●防御
技 ●火炎●緊縛
魔法 ●闇の羽衣●闇のゆりかご
※この戦闘は逃げられません。
と表示が出た。
ーーまた出たな!?
体力:◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇
魔力:◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
精神力:◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
↓
と表示を確認した。精神力がまたしても0。体力は以前よりは4増えた。
私は鉤爪をとんがった爪で選択した。
▼選択して下さい。
●エミリー ●ダーク
もちろんエミリーを選択した。
エミリーを爪で引き裂いた。ドレスのスカートの一部を裂いて転ばせるだけだった。エミリーの頭上に1と表示される。尻餅をついたエミリーは「何すんのよ!?」と私を睨む。
▼選択して下さい。
●鉤爪
●防御
技 ●火炎●緊縛
魔法 ●闇の羽衣●闇のゆりかご
※この戦闘は逃げられません。
とまた表示される。今回はターンが早い。
火炎を爪で選択。大きな口から炎のブレスをエミリーとダークに吐いた。服の一部を焦がす。
エミリーに1が1回、ダークに1が3回表示される。ダークの頭上に状態異常無効と表示された。
火炎は5割の確率で混乱状態にする筈なのにダークは混乱状態にならなかった。
ーーダークはハイスペックなキャラクターなんだよねぇ。堕天の翼を持っているから状態異常効かなかったわ。すっかり忘れてたわ。目覚まし時計しか警戒してなかった。
体力:◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇
魔力:◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
精神力:◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
↓
と表示が出る。体力2減って精神力2増えた。
「ふふふふふふ。あっはっはっはっ!! これで終わりよ!!」
悪役のように高笑いをするエミリー。ゲームでは主人公はこんな奴ではない。もっと心優しくて慈悲深い。
ーーこいつも狂ってやがる!! ゲームとは違いすぎる!! まさかこいつら本当に寝やがったのか!?
主人公ことエミリーは光輝き身体を変形させる。光が収まると、床に突き刺さった聖剣があった。ダークは剣の柄を掴み、床から剣をやすやすと抜いた。その姿を見て私は怒り狂った。
ーーこいつらーー!! もう許さん!!
「シャーーーッ!!」
ダークは怪しげな笑みを浮かべて、聖剣の力を解き放つ。
「聖なる鉄槌」
光り輝く剣は大剣となり私の身体を真っ二つにした。
ーーこれでハッピーエンドかちくしょう。
私は死ぬ間際に悪態をついたのであった。残念ながら声には出なかった。
装備
●コルセット(大ダメージ、及び睡眠、混乱、魅了、麻痺、火傷を防ぐ。装備者体力ゲージ−3。敵への魅了、攻撃時1割)