闇の神
目覚めたシルフと契約を結んだ私達は精霊とダークの案内で、神様の元へ向かう。サラマンダーにアーダルベルトとニクセを乗せ、シルフはオットーを運び、残りの3名は私の大きな背中に乗せて空を飛ぶ。私の背中ではエミリーが「すごい!! 高ーい!!」と感動して、ファビアンは「ひぃ〜〜!? 怖いいい!!」と顔面蒼白だ。
雲ひとつない夜空だった。星とか月はこの世界にない。ビューーと気持ちいい風を受けながら飛んだ。
ーー神様の問題が無ければ良かったのに、そしたらドラゴンの姿も楽しめた。
「そうですね。神様など無視して、このまま世界を周りたいですね」
空を飛べるならドラゴンも悪くない。敵に回ったうるさい教会の事も今は忘れそうだ。
しばらく空を飛んでいた私は大きな入道雲に向かって飛ぶ光り輝く白い鳥の様なものに気づいた。
「皆さま気をつけてください。天使がいます」
ダークが注意を促す。光り輝く白い鳥の様なものはよくよく見ると白い翼の生えた人、天使だった。雲の中には黒い鳥型の魔物が群れになり1人の天使に襲いかかる。天使は稲光を呼び魔物を蹴散らす。何度も稲光が魔物達に直撃し、死んだのか気絶したのか地上に魔物が落ちていく。直撃を免れた魔物が天使に突進し身体に尖った嘴で穴をあけていく。血だらけの天使は治癒魔法を使い自身の傷を癒す。一進一退の攻防に見入ってしまった。
ーーダーク。私達はどうすれば良いの?
「天使と魔物達は戦いで忙しい様ですし、バレないよう迂回しましょう。サラマンダーとシルフも良いですね? 決して騒がずに雲に向かって飛んで下さい」
「……ふむ。わかった」とサラマンダーは頷き「シルフちゃん空気読めるから大丈夫! 安心して!」とウインクするシルフ。
ーー……読めてない気がする。
シルフに不安しかなかったが、私達は天使と魔物達を避けて迂回して雲へと向かう。雲間にドラゴンである私よりひとまわり大きな紫色の魔導石が浮いていた。大小様々な魔導石がくっつき闇の影を纏う。
「あの魔導石が闇の神ですよ」
ーーあれが闇の神……。ねえ足場無くない?
戦闘になるには足場が必要だ。じゃないと水の精霊と土の精霊を何処に立たせれば良いのだ。このメンバーのブレーンであるダークは顎に手を当てて考える。
「何も四属性の精霊全員で戦う必要はないのでは? 火の精霊と風の精霊で先ずは戦ってみて残りは光の神と戦ってもらいましょう。天界には足場はあります」
ーーそれしか無いわね。
作戦というほどでは無いにしろ、ある程度策を練ったところで魔導石にだいぶ近づいた。魔導石がぼろぼろと端の方が崩れる。小さな魔導石が闇を帯びて鳥型の魔物へと変形してこちらにビュンッと迫ってきた。
「来たぞ!? 頼むサラマンダー!!」
「ふむ。フレイムバースト!」
アーダルベルトの指示によりサラマンダーは口から火の玉を魔物達に向かって吐く。それは魔物に当たると勢いよく爆ぜた。
ドカーーーンッ
魔物が身体が粉々になり魔導石になると地上へと落下した。
ーー「何しに来た。お前の敵は此処にはいないぞ。お前の背中にいるのは光の聖女ではないか。何故お前達が一緒にいる。何がお前を変えた。憎しみは何処へ消えた。何故だ。何故……」
「シャーーーッ!!」
頭に響く低い声に私は叫んだ。頭に響く声が不愉快であった。私以外の全員がギョッと私を見つめた。
ーー何故だって!? そりゃ断罪イベント時はムカついてたよ!? でもねそもそもの話、お前らが喧嘩してるのが悪いんだよ!!
頭に響く声に聞き覚えがあった。これは闇の神様だ。
ーー「……我に逆らうのか闇の魔女。我を殺せば世界は灼熱の光によって生命が死に絶えるぞ。良いのか?」
ここには宇宙とか太陽が無くてその代わりが光と闇の神ってことだと思う。だとしたら、必要不可欠な存在だ。闇の神がいなくなれば陽の光が強くてみんな焼け死ぬという事だ。
ーー私かエミリーが死んだらどっちにしろ滅びるんでしょ!? だったら少しでも生きる可能性が高い道を選ぶわ!!
ーー「……知っていたのか。なるほど精霊の力を借りるのか。面白いやってみろ!!」
大きな紫色の魔導石は闇に覆われ形状を変える。5つのドラゴンの首をもつヒュドラへと変化した。私より大きなヒュドラは蝙蝠の様な大きな翼で飛び上がる。私たちはヒュドラの風圧で飛ばされかけた。
「くっ!? なんだあの禍々しい化け物は!?」
「人間が倒せる段階を超えているな」
アーダルベルトとニクセは風に耐えるサラマンダーにしがみつく。
「ひゃあああ。こわ〜〜い〜〜☆」
「気持ち悪い……うぷっ」
シルフとオットーは風でくるくる回り後退した。
私は翼を高速に動かして風圧に耐えた。
▼戦闘が開始されました。と表示された。
ヒュドラは「小賢しいのは無しだ!!」と叫ぶ。すると、
▼戦闘が中断されました。と表示される。
ーーどういうこと!? 何をしたの!?
何で中断されたのかダークが説明する。
「戦闘画面は王様と神様は中断させられるんですよ」
戦闘画面と説明するダークに戦慄を覚えた。違和感半端ない。断罪イベントは王様の登場で戦闘を中断させられた。光の神が憑依したエミリーとの戦闘も中断された。
ーーどっちにしろ倒すから良いわよ!
ヒュドラは5つの口で闇の玉をそれぞれ生み出す。私は闇のムチで首を固定しようとしたが出来なかった。
ーー魔法が使えない!?
闇の玉が私に3つ飛んできた。ダークが1つ羽を飛ばして消して、エミリーが「光の波動!」と光を放ち2つ消した。残りの2つはサラマンダーとシルフが魔法を使って消した。
ーー魔法が使えないのは私だけ?
「元々は我の力だ。我の意思に背けば使えないのは当然だ」
闇の神さまが懇切丁寧に説明してくれた。
「フレイムバースト!」
「ア〜あーっ♪ テスとナノにべン強しテない〜♪」
サラマンダーが火の玉を吐き、シルフが音痴な歌を歌う。オットーが珍しく「人の耳元で歌うな」と怒っている。歌声は置いておいて火の玉がヒュドラの首の1つに命中して気絶させた。
「ゴめんヨ先せイー♪ デモわたしハメゲないヨ〜♪」
「……耳障りだ。消えろ!!」
シルフの歌声にキレた闇の神様はシルフに向かって飛ぶ。
「ぎゃー♪ !」
ーー気持ちは分かるがさせない!!
私はヒュドラの胴体に体当たりした。




