表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

風の精霊 (大人しい奴ほどキレると怖い)

 



「はい。じゃあ次いきまーす」


 オットーが怠そうに手を挙げて一振りの長剣を取り出した。地面に長剣を突き刺すと緑の魔法陣が地面に描かれた。魔法陣から竜巻と共にアゲハチョウの様な羽を背中から生やした幼児が現れた。くるんと跳ねる金髪は艶やかで緑の瞳は宝石のエメラルドの様に美しい。


「みんなのアイドルシルフちゃんだよー! みんな元気ー? はーい!」


 元気はつらつな女の子なシルフに私達は気圧される。オットーに至っては「怠いわ」と答える。


「怠いだってー!? たいへーん! シルフちゃんの元気わけてあげるー!」


 ▼戦闘が開始されました。と表示された。


 ーー今の流れで何で戦闘になるんだよ!?


 シルフは下手くそな歌を歌いだした。


「きょウモ〜仕ゴトーイえ〜い♪ かエリたーイ〜ー♪」


 脱力した歌は私達の精神力を0にする。エミリーは「音痴ー!!」とクレームを出す。アーダルベルトは気絶していた。ニクセは「全く歌になっていない。 勉強し直せ」と顔をしかめる。オットーはゴミを見るようにシルフを冷たく見ていた。ダークは「……なかなかいいセンスですね」と感心している。ダークは異常状態にかからないから精神力そのままだろうな。私は生暖かい目で熱唱するシルフを見守った。


「オコラれルー♪ イやっハ〜……」


 私は、いやエミリーもすっかり忘れていた。精神力0の上にヒロイン(エミリー)との好感度がMAX状態で訪れる現象を。その少年は始めは静かであった。次第にクスクスという笑いが聞こえてきた。やけに耳につくその声に私達はその声の発生元を見る。


「なんダー♪ ?」


 シルフも歌うのをやめて私達が見る人物を見た。ファビアンが楽しそうに笑っていた。


「クスクス。ああ可笑しい。ねえぇ? みんなもぉ 可笑しいとおもわないぃ?」


 いつもと違い舌足らずなしゃべり方だった。


 ーー酔ってるのか?


 ファビアンを訝しむ私達。ファビアンは「そうだよねぇ。みんな僕のことがぁ嫌いなんだよねぇぇ」と突然シュンと落ち込む。


「わ、私は大好きよ!!」


 エミリーが顔を真っ赤にして愛の告白をする。


 ーーエミリー。勇気あるわね〜。でもこの状況何かが引っかかる。何だったっけ?


 シルフが「うひょー!! 熱いねぇ!! 今度は愛の歌を歌っちゃうよーー!!」と迷惑なテンションを上げた。


「うるさいなぁぁぁ。みんな殺しちゃうよぉぉ?」


 ファビアンが発した殺気にぞっと鳥肌が立つ。ニクセが「落ち着け。どうした?」とファビアンの肩に手を乗せると一瞬で地面に転がされた。背負い投げをお見舞いされたニクセは背中を打ち付けて息を飲んだ。ニクセに5ダメージ与え▼戦闘不能。にした。


「僕に触らないでよぉぉ。 殺しちゃうよぉ?」


 ーーああああああ!? 思い出したー!?


「どうしましたか?」


 内心叫ぶ声が聞こえたようで、ダークが何事かと聞いてくる。


 ーーあれは、ブチギレスキル!! 無敵状態!! シルフ以外を近づけちゃダメ!! 死ぬ!!


 私は保身の為にファビアンから距離をとった。ダークは「ブチギレスキル? ほお。良く分かりませんが、遠ざければいいのですね」と私に確認した。私はうんうんと何度も頷く。


「みなさん。ファビアンさまは今危険な状態です。離れて下さい」


 ファビアンの近くに倒れたまま動けないニクセと気絶したアーダルベルト以外は距離を置いた。シルフは「良く分かんないけど、歌っちゃうわ〜!!」と謎のテンションを上げて愛の歌を歌い始めたが途中で中断させられる。


「うるさいって言ってるだろぉぉぉ!?」


 シルフは顔面を鷲掴みされ、だらんと宙吊りになる。「ふうぉぉっ」と抵抗してファビアンの腕に爪を食い込ませるシルフ。それに気に留めないファビアンは冷たい表情で地面にシルフの頭を打ち付けた。シルフは16ダメージを食らい▼戦闘不能。になった。辺りは静かであった。


 ーーあれはアイアンクロー!? 怖いんだけどおおおおお!?


 私が断罪イベントで食らいそうになった技だ。その時はミスしていたが、ブチギレスキル中はきまる様だ。


「おやまあ。素晴らしい。可愛らしい見た目からは想像つかないほどお強いですね」


 私は震えて、ダークは感心してパチパチと拍手を送る。


「ファビアン? 貴方はファビアンなの?」


 エミリーは戸惑っていた。シルフはピクピクと痙攣して倒れている。ファビアンは静かに佇んでいたが、エミリーの声に気付くと「へ? 僕はファビアンだよ。どうしたの?」と通常状態に戻った。


「ファビアーーン!!」


 エミリーは駆け出してファビアンを抱きしめた。


「良かったー!! もう戻ってこないかと思ったのー!!」


 ファビアンは泣き出したエミリーに戸惑いながら頭を撫でた。


「よくわかんないけど、ごめん。……あれ? 何でニクセとシルフ倒れてるの?」


 ーーあんたがやったんだよ!!


「主人があんたがやったんだよ!! と言ってます」


 ーーダーク。何気に訳すの楽しんでるよね?


 !! まで訳すとは思わなかった。ダークは「そんなことありませんよ」と笑う。ファビアンは「え? 嘘……」と顔を真っ青にした。オットーが「どうするんだよ。シルフが目覚めないぞ」とファビアンを眠そうな垂れ目で見つめる。


 ファビアンだけは敵に回すまいと私は小さく心に誓った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ