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大司祭さまとは相容れない

 




 空を黒から青に染める陽の光。ぼんやりとした光を目が覚めた私は眺めていた。


 ーードラゴンって風邪ひかないし、お腹も空かないのね。


 布団も雨風を防ぐ屋根や壁のない状態で一晩過ごした。いくらダークが寄り添っているとはいえ、普通なら体調を崩しそうだ。それが全然平気なのだ。おまけに昨晩から何も食べてないのにお腹も空かない。人間ではない証拠のようでなんだか嫌だった。


 私にもたれかかって座っていたダークは「私にとってはそれが普通です」と大したことないように言う。


 ーーダークもそうなら、まあいいや。


 とりあえず2度寝をしようと目を瞑る。恋人同士になったとはいえ私がドラゴン姿では何も起きない。はい。実はちょっとだけ期待しました。本当に何も起きなかった。残念ではない。うん。


 ダークは眉をひそめ「何か来ます」と辺りを警戒した。


 ガサゴソ


 草木を掻き分ける音が響く。複数の足音が聞こえた。


「シャーロット様!! 逃げて下さい!!」


 私達の前に現れたのは髪をぼさぼさにしたファビアンだった。ラフな格好であった。私はファビアンに視線を向ける。


 ダークは立ち上がり私を庇う。


「……全く。厄介な人を引き連れてきましたね」


 ダークはファビアンを睨む。ファビアンは「ご、ごめん。大司祭様なら分かってくれると思って君達のことを話したんだ」とたじろいだ。


 私は信じられない気持ちになった。よりによって大司祭に知られた。嫌な予感しかしない。


 魔導石を赤く光らしたランタンを持つ鋼の甲冑を着た兵士が森から現れた。兵はドラゴンを見て叫ぶ。


「いたぞーー!! こっちだーー!!」


 兵士達が駆けつけて私とダークに槍の先を向けて囲う。緊張した空気に包まれた。ファビアンは「やめて下さい!! そのドラゴンはシャーロット様です!!」と兵士を止めようとする。


 ーーそれを言ったらアカン。正体ばれる。


 まずい状況だ。大司祭がゆっくりと現れた。


「闇の魔女。それは我らの敵だ。ドラゴンという醜い魔物の姿がそれを物語っている。神の敵は我らで撃たねばならぬ。その黒髪の男も同罪だ。やれ!」


「やめて下さい!!」


 ファビアンが止めるが兵士達は槍で私を突き刺そうと動いた。私は兵士達を尻尾でなぎ倒しコウモリのような翼で上空へと飛び上がった。ダークは私の背中に飛び乗った。


 大司祭は「逃げきれると思うな!!」と叫ぶ。


 上空に飛んだ私は恐ろしさにぶるりと身体を震わした。




 * *




 太陽が昇り空は明るい。


 ビュー


 雲の上を飛んでいた私に近づいてくる風の音がした。背後を振り向くと空を飛ぶサラマンダーがいた。それにまたがるアーダルベルトは私に手を振る。赤い髪は風圧でオールバックになっていた。


「待ってくれーー!!」


 私はサラマンダーと並行して飛ぶことにした。止まると地面に落ちる。ダークが私の代わりに喋る。


「大司祭に知られたのはご存知ですか?」


「ああ知ってる!! お前達を処刑するつもりだ!! 俺とファビアンで陛下に直談判すればどうにかなるかもしれないが、今は時間が惜しい。さっさと残りの精霊と契約する為にニクセ達と落ち合う!! 今から案内するから付いて来てくれ!!」


 私は処刑に随分と縁がある。全く嬉しくない。早く残りの精霊と契約して神を倒さねば先に私が殺される。


 ーー解った。


「了解だそうです」


 私はサラマンダーの後を追った。流石、物語のメインヒーローは仲間だと頼もしいとアーダルベルトを見直した。




 * *




 国境沿いの山の上にある廃城に私達は降り立つ。城が半壊して瓦礫だらけの地面。大きな身体のドラゴンである私の足場はあまりない。ダークが私の背中から軽やかに瓦礫の上に飛び降りる。


 ーー背中に乗っている時に思ったんだけど、ダークって軽いね。


 まるで羽のように軽かった。嘘じゃないよ。


「ああ。それは堕天の翼を持ってますから。ご覧になります?」


 ーー堕天の翼見たい!


 子供の様にわくわくしてきた。そんな私の姿にくすくす笑うダーク。


「我が主人が望むのなら喜んで見せましょう」


 執事服を突き破り灰色の鳥の様な翼がダークの背中から生えた。人の身長よりも横幅が広いふわふわな翼は私の翼と違い触るときもち良さそうだ。そして優美で綺麗だった。私は触りたい欲求と戦うことになった。手を震わして鼻息が荒くなった。ダークは「満足して頂けましたか?」とにっこり微笑んだ。


 ーー人間に戻ったら、触らして!!


「もちろんです。私も触らせて下さいね」


 その言葉の意味に顔が茹で上がりそうなぐらい熱くなった。わかったと恥ずかしくて答えれない。頭を抱える私に「お前ら俺のこと忘れてるだろ」と近づいてきたアーダルベルトが飽きれた。いい加減にしてくれという目線に、キスされそうになった時もいたなと少し申し訳なくなった。


「ああ。いたのでしたね。忘れてました」


 翼を背中にしまうダークは全く動じなかった。アーダルベルトは「もういいよ。ニクセ達がきたからこっちきて」と疲れた様に半壊した城の内部を指差す。私には狭そうだ。


「我が主人の大きさではそちらに行けませんよ。こっちに呼んで下さい」


 アーダルベルトが「確かにな。呼んでくる」と仲間を呼ぶべく半壊した城へと走った。




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