きもち
光の神様は生を司る。闇の神様は死を司る。この2つの神様がいることで生命が成り立つ。
今の光の神は生まれたばかりの頃闇の神に育てられた。光の神は拙い力で天使ダークを生み出した。親子のような関係は光の神が大人になり一変する。光の神は闇の神が生み出した魔物に襲われる。ダークが救い出して一命をとりとめた光の神。闇の神を恨み天使を差し向けるが、魔物があまりにも多く反撃すらままならない。そこで人間界に魔物を落とすことにした。人間を犠牲にすることで光の神は闇の神に勝つことができた。
新たな闇の神を育てることになった光の神は自分に逆らわないように厳しく育てた。光の聖女様は正義だというデマを人間界に流しておいた。子供のうちは従順な闇の神であったが、大人になると反発して魔物を差し向けてきた。人間界にまたしても魔物を落として勢力を削いだ。それでも決着のつかない戦いに、光の聖女と闇の魔女を自分の肋骨から生み出した神々。人間界で決着をつけることにした。
「精霊を使って神を倒して器を昇華させ、新たな神を生み出す。それが我が主人の考えです。4属性の力があれば、人間は滅びない。何でこんなことを思いついたのかは知らないですが、無理ではないです」
あたりはすっかり暗かった。赤く光る魔導石を焚き火がわりに地面に置きそれを囲う。魔導石が魔物を遠ざけ、暖にもなった。エミリーはアーダルベルトの上着を枕にして寝そべっている。5メートルある私は大きすぎて距離を置いた。
ーー神々の話は初めて聞いた。親子で戦っているものか。
ダークの話は私にとっても興味深いものであった。ドラゴン姿のままで元の姿に戻れない私では喋れなくてアーダルベルト達に説明などできない。代わりにダークに説明してもらった。
ーー当然だが私より詳しいわよね〜。
ダークの艶気のある目つきに見惚れてた。
アーダルベルトは「全くわからん」と眉を寄せる。ニクセはある程度わかったようで「我が国が信仰していたのはその光の神と闇の神なんですね」とぶつぶつ言いながら考え込んでいる。オットーは器用に立ったまま寝ていた。
ーーアーダルベルトの反応が普通よね。ニクセは流石、頭が良い。オットーめ。少しは話聞けよ。私の感動返せ。
私はドラゴンの姿で眠るオットーを睨む。アーダルベルトがギョッと驚いた。
「……お前の姿怖いんだから睨むなよ」
ギロッとアーダルベルトを睨んでやった。ダークが私を「その姿でも素敵ですよ」と宥めた。
ーーまじか。
ダークに言われると悪い気はしない。鼻先をダークに向けると、撫でられた。それが気持ちよくてゴロゴロと喉を鳴らした。
「お前らお似合いだな」
アーダルベルトが若干引いていたが、私は気にしなかった。私に目を細めて笑うダークはニクセに「それで協力してくれるのですか?」と問う。
眼鏡の真ん中を押し上げたニクセは「危険過ぎる。正直言って断りたい」と答える。
私は息をのんだ。神様と戦うのは確かに危険だ。だが、アーダルベルト達の協力がなければ、勝てないと思う。それに闇の神を倒さない限り私は一生ドラゴンのままかもしれない。
不安気な私を見て、「大丈夫ですよ」とダークは頭を撫でて励ましてくれた。
「だが、結局我々が動かなければ滅びるだけ。なら、足掻いてみてそれでも駄目なら滅びるのを受けいるまでだ。俺はシャーロット嬢に協力したいと思う」
ニクセの真剣な表情に私は安堵した。アーダルベルトは「神様倒さないと滅ぶってのはわかった! ニクセの言う通り俺もお前に協力する!」と頷いた。それに私は頷き返す。
ーー後は、オットーとファビアンだけど、大丈夫かしら……。
ガサゴソ
眠るオットーをじとーと見てると制服姿のファビアンが慌ててやってきた。
「ねえ? エミリー見なかった? あっいたいた。良かった〜。急にいなくなるから心配しちゃったよ。……ってぇ!? ドラゴン!?」
私を見て慌てふためくファビアン。茶色の髪がところどころはねている。アーダルベルトが「落ち着け。あれはシャーロットだ」とファビアンの肩を叩く。
「嘘だ〜!? え? 本当にシャーロット様?」
目を丸くして私を見つめるファビアンに頷いた。
ーー驚くのも無理はないわよね。ドラゴンって魔物の親玉だし。
ファビアンは口をぽかーんと開く。
「何でドラゴンになっちゃったの!?」
ーー闇の神の手先だからかな?
光の神が天使を操り、闇の神が魔物を操る。闇の魔女である私が魔物の代表格のドラゴンになったのはその影響かもしれない。エミリーは天使になれたりしてね。
「……また説明するのですか。はあ」
ダークがめんどくさそうにファビアンに説明しだした。
* *
ファビアンと後で目覚めたオットーにも説明する羽目になったダークは疲れて箱座りした私にもたれた。私とダーク以外は家に帰った。ドラゴンになった私は家に帰れないからここで野宿だ。私の家族にはアーダルベルトが私は城に滞在することになったと嘘の事情を伝えることになった。
「何で私がこんな目に遭うのでしょうね。慰めて下さい」
ーー偉い偉い。
頭を撫でて労ってあげたかったが、鋭くて大きな手では怪我を負わせかねないのでやめた。
ーー言葉が通じないって不便ね。
赤い魔導石の光が私達を照らす。ダークは穏やかな表情を浮かべていた。
「通じてます」
その言葉に私は大きな金の瞳を丸くした。
ーー聞こえてたの!?
ふふっと笑うダーク。
「はい。きっと愛の力ですね」
ーー調子が良いのね。
「それはそうと私はまだ返事をいただいていないのですが?」
寂しそうな瞳に、心当たりがない私は戸惑った。
ーー何のこと?
「私は貴女のことを愛している。ということです」
顔がぐわっと熱を帯びた。心臓が早鐘を打つ。
ーー……でも、こんな姿になっちゃったし、覚めたでしょ?
というか何で私のこと愛してるのだ。やはり見た目が美少女だったからかな。
ダークはため息をついた。
「……何を勘違いしてるのです? 私は容姿などという下らない理由で好きになりません。貴女の素直な心に惚れたのです」
艶を帯びた瞳に見つめられた。頭がぼーとするが冷静な私が「弱い私をダークは見捨てた! エミリーを選んだ!」と叫ぶ。過去にダークに殺されたことを思い出した。心臓が嫌な音を立てる。落ち着け。
ーーダークは弱い人は嫌いなのよね?
「……そうですね。嘆いているだけで周りのせいにする人は嫌いです」
ーー私は自分の運命に嘆いていた。何もかもをエミリーのせいにしていた。でも、今は全部受け入れた。エミリーはかけがけのない仲間だ。
ダークはなるほどと笑った。
「貴女の心は成長して強くなったのですね。何か私にも想像がつかないような力が及んだ結果が今の貴女ですか」
何もかもを見透かされてるようで落ち着かない。日本に逃げて、セフィロトに戻り3回死んだ。そんな通常では起こりえない状況はいくら元天使のダークにも想像できないだろう。
「いつまで焦らすつもりですか? 私のことを愛してるのですか?」
そういえば返事してなかった。もう気付いてるかもしれないが
ーー…………愛してるわよ。
黒い瞳は驚きで見開き、口も開く。いつも澄ました大人で余裕ある姿からは想像できない表情。何か間違ったことを言ったように思えて私は顔を逸らして俯いた。恥ずかしかった。
ダークは私の顔に歩み寄り、分厚い黒い皮の頬っぺたに手を当てた。金色の目を向けると頰を赤らめたダークが優しく微笑んでいた。
「良かったです」
胸を焼くような熱い気持ち。それはきっと恋というどうしようもない病である。




