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涙脆い人達

 




 私のことを下校のためにいつものように迎えにきたダーク。黒い瞳は私のことを優しく見つめていた。悲しい気持ちが溢れてくる。失うのではないかという不安に胸が潰れる。震える手がダークの手を握った。


「どうしたのですか? 誰かに虐められたのですか?」


 大きな手は私の手を優しく握り返した。そこにある存在に落ち着く。


 残念ながらシャーロットは虐める方である。


 ーー光の神様を倒したら貴方は消えるの?


 私はそれを聞く勇気もなかった。黙り込む私をダークは抱きしめた。頭を撫でられ、子供のように泣きじゃくった。




 * *




 モグラことノームと契約したファビアン。その戦いを一部の生徒が目撃した様で、ファビアンと精霊が契約したと学園内で噂がたつ。それは先生の耳にも入り、学園長へと伝わり、ついには陛下が知ることになった。


 放課後に城へと呼び出されたファビアンとエミリーと私。……下僕3人は呼ばれなかった。


 私は数日前にきたばかりだが、シミひとつない白い壁が目立つ壮麗な王宮内に圧倒させられた。王の間に通され、数段の階段の上に玉座はあった。当然王様はそこに座っている。鋼の鎧を着た近衛兵が部屋の壁に沿ってずらりと並んでいる。何とも重々しい空気に私は唾を飲む。


 部屋に通された3人の中で身分が一番上の私を先頭に玉座の前の階段の下に跪く。赤い絨毯を見ながら、私とエミリー、ファビアンの3人は声がかかるのを待った。


「面をあげよ」


 低い声に従い顔を上げた。今日は王冠をかぶっている王様の格好であった。


 ーー私達は制服だけど、ある意味一番の礼服だから失礼にあたらないわよね。


 王様の様子からは格好は気にしていなさそうだ。赤い瞳は真っ直ぐ私を見ていた。その真剣な視線に緊張した。シャーロットという公爵令嬢をしていた私だが、日本人をしていた記憶の方が鮮明に覚えている。川崎 愛をしていた私は引っ込み思案で鈍臭い女であった。偉い人の前に立つ機会などなかった。


 ーーよく直談判なんてできたわ。


 あの時は勢い任せだった。こうして、待たされるのは好きじゃない。きっと大司祭の「大罪人である!」という発言がトラウマにもなっていた。また、処刑されるのではないかと身構えていた。


「急に呼び出してすまなかった。少し噂を耳にしたからな。ハインリッヒよ。精霊と契約したのは誠か?」


「は、はい。誠でございます」


 ハインリッヒとはファビアンの家名だ。ファビアンは緊張しながらもきちんと受け答えができていた。


 ーーノームを呼び出す場所を人に見られないように気をつけるべきだった。闇の魔女とか結構連呼してたわね。やばいかも。


 私は顔をしかめた。王様は顎の髭を撫でながら思案していた。


「そうか。モグラだと聞いたがそれはノームか?」


「はい。精霊ノームです。ご命令とあれば召喚しますがいかが致しましょう?」


「ふむ。頼んでも良いか?」


「わかりました」


 私達の後ろにいた陛下と同い年の宰相が「ノームが襲ってきたら、危険でございます!」と陛下に注意した。


「……危険なのか?」


「ノームは穏やかな性格なので大丈夫です。……髭を切るとわかりませんが」


 ーー髭きったら怒ってたな。


「髭か……。それだけ気をつけていれば大丈夫なのだな?」


「はい」


「わかった。なら頼もう」


 ファビアンは立ち上がりステイタス画面を開いた。


「いでよ精霊ノーム!」


 ファビアンの背後に茶色く光る魔法陣が広がった。辺りを一瞬照らすと、光は収まり2メートル程の巨大なモグラが立っていた。首を傾げる姿は愛嬌があって可愛らしい。


「もぐもぐ〜? 戦闘じゃないのかもぐ〜? 何か用もぐ〜?」


 その姿に私とエミリー、ファビアン以外は驚き固まる。陛下は玉座から降りて跪く。兵達もガシャッと音を立てて跪く。宰相も跪いた。


「ノーム様!! お会いできて光景でございます!! 」


「「「光栄でございます」」」


 陛下の言葉に続き、兵士達が復唱する。その光景に私は目を丸くして驚いた。口も開いた。


 ーー……そういえば、精霊って神様の次に偉かったわ。


 可愛い見た目で完全に忘れてた。王様より偉いらしい。ノームは「何だもぐ〜。おいらも光栄だもぐ〜」と王様に手を振る。王様は感極まって泣いた。兵士もつられて泣いた。


 ーー泣くほどなのか!?


 大の大人が大勢むせび泣く光景に私は引いた。


「おいらって、人気者もぐ〜。握手ぐらいしてやるもぐ〜」


 調子に乗ったノームは陛下の元へ短い足を運ぶ。差し出された巨大な手を恭しく握る陛下。


「有難き幸せ」


 ノームは陛下の肩を軽く叩き、「達者で暮らせよ」と意味不明な言葉を残しボンっと消えた。


 周りは何事も無かったように姿勢を元に戻した。


「して、ファビアンよ。お主に王位を譲りたい」


「「「はぁ!?」」」


 私とエミリー、ファビアンは思わず叫んだ。


 ーー何故にそうなった!?


「……というのは冗談で、次期大司祭に任命しようと思う」


「「……ああ」」


 私とエミリーは納得した。大司祭ならいいだろう。


「そっちも無理ですよ! 何2人とも納得してるの!?」


 ーーしまった。王位とか言ってたから、大司祭ぐらいならとか思っちゃった。充分偉い人だった。


「それは精霊が召喚出来るからですか?」


 私は陛下に確認すると「そうだ」と頷く。


 ーーこれから後3人ほど、召喚させるんだけどね〜。


「光の聖女が婚約者というのも大きい。ファビアンほど大司祭に相応しい者はいないだろう」


 大司祭というワードにいい思い出はない。正直に言うと反対だ。しかし、大司祭というのは誰しも憧れる職業だ。ファビアンもそうかもしれない。


「ファビアン。大司祭になりたい?」


「……なりたいって言ってなれるものじゃなかったから考えたこともないよ」


 ーー確かに。努力でどうにかなるレベルじゃない。


「突然なことだったな。すまない。まずは見習いからだから、安心してくれ」


 その言葉に安心したような複雑な表情をするファビアン。


 ーー本当にここは異世界なんだ。色々と現実離れしている。





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