土の精霊
次の日の学校にて。オリヴィアとアーダルベルトの進展具合を確認した。ニーナとミアは「順調です!」と報告してきた。
教室の端ではオリヴィアがアーダルベルトにくっつき。中央ではファビアンとエミリーが談笑してる。
ーー私の計画は順調か。あとは婚約自体を解消できるように、陛下に働きかけるか。
* *
休日明けの学校の廊下でばたりとエミリーに出くわした。私はエミリーに軽蔑されてます。心当たりがない私は戸惑います。
「あ、あんた陛下を懐柔したわね。信じられない。私がファビアンの婚約者になったわ。一体何やらかしたの?」
どうやら、正式にエミリーとファビアンを婚約者にできたようだ。私は学校が休日の間に、陛下に直談判しに行った。アーダルベルト王太子にはオリヴィア嬢はどうかと勧め、ファビアンにはエミリーを勧める。私は純粋にこのカップルの幸せを願っています。とか言って良い人を演じた。陛下は、「そうか! 他ならぬシャーロット嬢の頼みなら叶えよう」と感動していた。
ーー感謝されこそすれ、文句言われる筋合いはないのだが……。
「いいじゃないの。これからは堂々とイチャイチャできるわよ」
「感謝してるけどさ、普通はそんな簡単に婚約解消できないわよ!?」
ーー……知ってる。
家同士の取り決めだから、普通は当人でもなかなか解消できない。お国のトップならではの荒技だ。そしてそれを動かした私も凄い。
ーー不幸な目に遭いすぎて、幸運しかやってこなくなったか。
自分でも恐ろしいと思った。
* *
放課後のグラウンド場にて私とファビアンとエミリー、下僕の3人が集まっていた。
ファビアンが私に「精霊に話があるんだよね?」と緊張しながら聞いた。私は微笑みながら頷く。エミリーとファビアンをくっつけた事により、ファビアンから信用を得た。私は精霊と対話がしたいとお願いしたら、了承してくれた。
ファビアンは金色の神秘のコインを取り出すと指で空へと弾いた。
キイーーンッ
ファビアンを中心に茶色の魔法陣が地面に描かれた。魔法陣が光り輝く。眩しくて目を閉じた。
光が収まり魔法陣が消えると2メートルはある巨大モグラがいた。目がつぶらで可愛らしい。首をかしげるモグラ。
「何か用かもぐ〜? げ。光の聖女と闇の魔女がいるもぐ〜。関わりたくないもぐ〜」
地面を掘って逃げようとするモグラこと、ノームを私は引き止めた。
「ねぇ。あなた光の神と闇の神を倒して神様になろうと思わない? 人類を救ってほしいな〜」
モグラは長い鼻先をぴくぴく動かす。
「神様……。いい響きだもぐ〜。協力してやらないことも無いが1つだけ条件があるもぐ〜」
ーー話が早くて助かるわ〜。
「条件って?」
「おいらを倒すのもぐ〜」
▼戦闘が開始されました。
と表示された。
ーーまたか。しかし、今回は仲間がいるし、体力も精神力も満タン。勝てる!
エミリーはタロットカードを構えた。ファビアンは「エミリーが戦うなら僕も戦うよ」と拳を構えた。3人の下僕達もそれぞれの武器を構えた。私はガーターベルトに付けたムチをスカートがめくれないように気をつけて構える。スカートをめくってムチを取り出す事が恥ずかしのでガーターベルトに付けるのをやめようと思ったが、ポケットやカバンだと邪魔の上いざという時になかったりするのでやめる事は出来なかった。
「きなさい。相手になるわ!」
ムチで地面を叩きパシリと鳴らす。
ーー素で自動モードみたいな事しちゃったよ。もう開き直るか。
悪役ヅラしといて片隅には冷静な日本人な自分がいたのであった。
「もぐ〜。おいらの特大技食らうがいいもぐ〜。大地を揺るがす大いなる力!!グラウンドクエイク!!」
ノームがドカッドカッと足踏みする。次にゴーロゴロと寝っ転がる。
足元の地面がドーンッッ!と突起しシャーロットやエミリー、ファビアンと下僕達が弾き飛ばされた。
「「何だと!?」」
「くっ!?」
「「「ひぃえ〜〜ん」」」
各々叫びながら、地面に墜落した。ファビアンとオリヴィア以外の頭の上に4と表示された。ファビアンとオリヴィアは2である。
ーーコルセットがないのが仇となった! ファビアンとオリヴィアは同じ土属性だからダメージが半減されたか。
「へっへーん。どんなもんだもぐ〜」
流石精霊。見た目可愛くて間抜けに見えるが強敵だ。
制服のスカートについた砂をはらいながら起き上がる。背中も砂だらけだった。
ムチを構えて私は●闇のムチを選択した。
「闇のムチ!」と叫ぶ自動モードの私。ノームに地面から生えた何十本もある黒いムチが巻きついた。体力を1奪いとった。ノームは「ぬおぉぉぉもぐ〜。闇の魔女めぇぇもぐ〜」と足掻いた。
「おっほっほっほ〜。私達の勝ちね〜」
勝ちを確信した私は高笑いをした。エミリーはタロットカードをシャッフルして一枚引く。水を纏ったカードをノームめがけて飛ばす。ノームは4ダメージを食らった。
ーースートか!! ランダムなのに弱点属性になった凄い!!
「エミリーナイス!!」
「ふふん♪ 幸運値をなめないでほしいわ!」
神社でもらえそうな御守りを得意げに見せるエミリー。
「そ、それは幸運のお守り!? セフンの予約特典のアイテムじゃない!?」
ゲームアルカナストーリーの予約特典の幸運のお守り。それは装備者の幸運値を上げるものだ。日本にいた頃を思い出した。
「私が綾の頃にママが予約でセフンで買ってくれたの。それがこの世界にも影響してるかも?」
ーー別の時空の私が予約で買ったのか……。
アルカナストーリーが大好きな私ならあり得る。リメイクでも予約特典は幸運のお守りだったようだ。
ファビアンがノームに背負い投げをおみまいする。巨大なモグラを闇のムチごと
投げ飛ばす姿は圧巻であった。味方の攻撃なら闇のムチはいい具合に伸びるようだ。エミリーは「カッコいい〜」と頬を染める。モグラは3ダメージを食らった。
ーーかっこいいかも。エミリーが惚れるのも分かる気がする。
「ゆ、許さないもぐ〜!!」
シャーロット達の足元から砂が湧き上がり足を捉えた。
「う、うごけない……」
「どうだもぐ〜。捕まっても砂は変幻自在に操れるもぐ〜」
さらさらな砂に足が埋まり身動きが取れない。私は断罪イベントでよくとった行動を思い出した。
「みんな靴をぬぐのよ!!」
私とその仲間たちは砂から足を抜く。靴と一緒に靴下も脱ぎ捨てる。裸足になりエミリーはファビアンに見られ恥ずかしそうにしていた。
ーーこんな事で恥ずかしがるなんて可愛いわね〜。
黄緑色の髪に垂れ目の女ニーナは弓矢を構えて風が纏う矢を飛ばした。
「風の矢!」
矢はモグラの長い髭にかすめて数本ぱらりと地面に落とした。残念ながらダメージはなかった。ノームは地面に落ちた自分の髭を目を点にして見た。しばらく呆然としてた。どうしたんだと見守っていると、突然ノームは頭から湯気が出るほど怒り出した。
「おいらのチャームポイントに何てことしやがるもぐ〜!?」
ーーダメージ無いのに今までで一番怒ってる!?
「ニーナ!? 何してくれてんの!? ノームめちゃくちゃ怒ってる!?」
私はニーナに目を吊り上げて怒った。ニーナは涙を溜めて「ひえーん。ごめんなさいぃぃ」と謝る。
ニーナはとろくて鈍臭い。うっかりしている為、婚約者であるがオットーは隠密暗殺部隊隊長である秘密を言えないでいる。オットーの気持ちが少しだけわかった私は舌打ちした。
次は紺色の髪につり気味の紺の瞳の女、ミアの番だ。レイピアを握りしめてノームへと斬りかかる。
「私はニクセ様の婚約者ですよ!!」と叫びながら、ノームの足をレイピアで突き刺す。ノームは2ダメージを受けた。
ーーニクセの婚約者なら何!? 意味わからない自慢をするな!
ミアはニクセの婚約者である事を誇りに思っている。逆にそれしか自慢が無かったりする。そんなミアにニクセは飽きれている。私もちょっと飽きれた。
橙色の髪に大きな瞳のオリヴィアは斧を構えるが、怒り狂うノームに怯えて私の背中に隠れた。
「オリヴィア戦いなさい!!」
「いやーーん怖ーい! 私では勝てっこないですーー!」
ーー斧を持つお前のが怖いよ!!
甘えん坊で根暗な元ファビアンの婚約者。甘えん坊過ぎてファビアンを疲れさせたとか。私はめんどくさくなり諦めた。
ノームが「うおおぉぉぉ!!」と咆哮した。鼓膜に響く振動。音が聞こえなくなった。ファビアンとニーナに混乱と表示された。
▼選択して下さい。
●たたかう
●防御
●逃げる
技 ●乱れ打ち●愛のムチ
●しびれ打ち●緊縛
と表示された。魔法が耳の影響で使えなくなった。耳が使えないと呪文が上手く言えないからだと思う。
●愛のムチを選択。
ーー初めて使うな。どんなんだろ。
ムチをしならせノームに叩きつける。終いに投げキッスを放つ。ハートがノームに飛んでめろめろにした。
「闇の魔女たんサイコーもぐ〜」
私に声は聞こえなかったが、ノームは魅了に掛かったようだ。3ダメージで、闇のムチの効果で更に体力を1奪う。
エミリーのターン。タロットカードをシャッフルして一枚引く。カードをノームに投げて2ダメージを食らわした。ノームは▼戦闘不能。になった。戦闘状態が解除され闇のムチがさらさらと砂のように崩れて消えた。聴覚も元に戻った。
ノームは地面にしばらくのびていたが、すくっと起き上がる。私はノームの側により顔を見上げた。ヒゲが不揃いの部分があり「ぶっふーっ」と笑けた。眉をひそめるノーム。
「失礼なやつもぐ〜。でも、約束は守るもぐ〜。神秘のコインを持ったやつ、ちょっとこっちにくるもぐ〜」
靴を履いていたファビアンが「え? 僕?」と慌ててノームの元にきた。
「コインを見せるもぐ〜」
金色のコインを取り出すと淡く白く光っていた。ノームは可愛い手をコインにかざす。突然白い光が辺りに広がる。光が収まると
▼ノームを召喚できるようになりました。とファビアンの頭の上に表示された。ファビアンは「何が何やらわかんないけど、これで良かったんだよね?」とエミリーに確認する。エミリーは「もちろんよ!」と笑顔で答えた。
ノームを手に入れたのは良いが聞きたいことは沢山あった。
「ねえノーム。あなただけでも、神様になれば世界は救われるの?」
ノームは首を横に振る。
「おいらだけじゃバランスはとれない。水火風の精霊とも契約して神化して、ようやく世界のバランスが整い生命は生きられるんだ」
ーー水火風の精霊とも契約がいるんだ。ならニクセとアーダルベルト、オットーにも協力してもらわないといけない。めんどくさいな。
「光の神様と闇の神様の喧嘩ってどうにもできないの?」
そもそもそれが止めれたら、世界は滅びない。
「あの神様達の確執は今に始まったことじゃないもぐ。セフィロトは喧嘩が始まる度に、崩壊と再生を繰り返してきたんだもぐ〜。前回勝ったのは光の神様だったと思うもぐ〜。まさか闇の魔女が神様倒すとか言い出すとは思わなかったもぐ〜。人間って成長するんだなもぐ〜」
「え!? 何度も崩壊してたの!? 再生もできたの!? どちらかが消滅するなら無理でしょ!?」
「わかってないなもぐ〜。光と闇の神様は器を昇華してできた存在ではないもぐ〜。元々必要だから、いる存在なんだもぐ〜。だから、消滅しても新たに生まれるもぐ〜」
そうだったのか。じゃあ、消滅してもまた新しい光の神か闇の神が現れるんだ。
「堕天使の仲間がいるんだけど、消滅に巻き込まない様に出来ない? あなた達の天使に生まれ変わらすとか?」
「救えるかはその時にならないとわからないもぐ〜」
ーーそ、そんなぁ。もしも救えなかったら手遅れじゃない!?
もしも精霊達が失敗すればダークは消滅する。私はこの計画自体実行する勇気がなかった。
「たかだか天使1人ぐらい良いじゃないかもぐ〜。それで世界が救われるのなら良いじゃないかもぐ〜」
頭に血が上った。
ーーたかだかですって!?
私にとっては何者にも変えられない大切な存在だ。精霊にはわからない感情かもしれない。温かくて、激しくて、痛くて、でも心地よい。その感情の名前はもうわかっていた。
ーー落ち着け。ここで取り乱しても、何にもならない。
冷静になった私は深呼吸して、早くなる鼓動を落ち着けた。エミリーが私の手を握ってくれた。心配そうなその顔を見て笑みが浮かぶ。
ーー私のこと心配してくれたんだよね。エミリーが優しい子だって、セフィロトに戻った直後は思いもしなかったな。
「……大丈夫よ」
ーー大丈夫だよね。きっと。




