作戦
シャーロットとダークは校庭のベンチに座っていた。3人の下僕に食堂に誘われたが断った。
ーー食堂は人がうじゃうじゃいるし好きじゃないのよ。お弁当あるし。
昼食は出来立ての弁当を届けてくれたダークと共に食べようとしたが、ダークは全然食べない。食べてと促しても「いいです」と断る。
ーー昔は、別に気にしなかったが、もしや天使ってご飯いらない? 食べたところを見たことない。
「……ダーク。貴方はご飯を食べれないの? ……元天使だから?」
ダークが堕天使だと本人から聞いた事がないから緊張した。
ーーとぼけられたらどうしよう。
ダークは僅かに驚いたが、「流石でございます」と微笑んだ。
「私は確かに元天使の堕天使です。ご飯は食べれないこともありませんが、味覚がないのです。だから、砂を食べているようにしか感じません」
ーーすんなり認めた。そっかあ。味がしないんだねー。何だか損してるな〜。私だったら耐えれないかも。運命の女神もそうだったのかなあ。この世界を救ったところであの女神は救われるのかしら?
「味覚がないのって寂しくない?」
「私の場合は元々味覚がありませんから寂しくはありません。ああ。でも、人間は味覚やら空腹感や満腹感、痛覚があるから喜怒哀楽といった感情が豊かなのですかね」
「ダークそれってもしかして、貴方には感情がないの?」
ダークは静かに笑った。
「ありますよ。死という絶対的な概念がある限り感情はあります。ただ、人間よりはないと思います」
天使も死ぬ事があるんだ。
ーーそうだよね。ダークは光の神様が消滅すると一緒に死んじゃうんだよね。精霊達にきちんと頼まないとな。
「私ね。知ってるの。私かエミリーが死ぬと光と闇の神様が世界を滅ぼすって。だから、私は神様を倒そうと思うの」
ダークは目を見開いた。
「貴女は、私の知るお嬢様ではありませんね。貴女はダンスパーティーの一件から何かが違う。まるで大人になったようだ」
ーーぎくう!? 8年は年取ったのだが、おばちゃんに見えたかな!? 外見は老けてないが、中身からおばさん臭が漂ったりして……。
「ようは老けてみえる?」
「失礼。例えが悪かったですね。神に近づいたと言った方が良いですね。神を倒すと言った時点でそうですが……」
ダークは少し寂しそうだ。私の頰を両手で包み、目を覗いてきた。
「私は貴女が好きです。愛してます。キスをしても良いですか?」
私は目を見開いた。頰が熱い。漆黒の瞳が少しずつ近づいてきて、目を閉じる。
暫くまったがいつまでも、まっていたものがこない。
ーーんん? おかしいな。
そろーと目を開けると、ダークは別のところを見ていた。少し苛ついてる。そっちの方を見ると、赤い髪に瞳の生徒アーダルベルトがいた。私達を見てわなわなと震えている。
「……婚約解消直後に男といちゃついてんじゃねぇぇ!? お前こいつと出来てたのか!? ふざけるなー!?」
ーーお、おう。何という事だ。よりによってアーダルベルトに見つかるとは最悪だ。 今日は来ないんじゃなかったのか?
ダークは眉間に皺を寄せて、アーダルベルトを睨む。
「何を言っているのです? 貴方から解消したのでしょう? 貴方と我が主人を一緒にしないで頂きたい」
「そうよ! 大体、解消したのだから貴女には関係ないでしょ!?」
「お、お前ら、俺がどんな目にあったか知らないからそんなことを言えるんだ!くそう! 」
アーダルベルトはご機嫌斜めのままズカズカと足を鳴らして去っていった。
ーーどんな目にあったんだよ!? あっ!! てか、私は何をまっていたんだ!! は、恥ずかしい〜!!
真っ赤な顔になった私は弁当を食べることに集中して、余計なことを考えないようにした。
ーー鳥の唐揚げ美味しい。お米美味しい。シェフ素敵。
* *
放課後、周りの生徒は部活に行ったり、帰ったり、お喋りしたりと各々の時間を過ごしていた。青い短い髪に眼鏡の男ニクセは短い赤い髪の男アーダルベルトに心配そうに話しかけている。
ーー仕掛けるなら今か? オリヴィア頼んだ!
私は2つ右隣の席に座るオリヴィアにウィンクした。オリヴィアは力強く頷いた。すたっと立ち上がりアーダルベルトに駆け寄るオリヴィア。涙を浮かべながら「で、殿下助けてくださ〜い!」と腕に縋り付いた。アーダルベルトはギョッとして身体を仰け反らす。
「な、何だ。ど、どうした?」
顔を青くして狼狽えるアーダルベルト。オリヴィアは胸をアーダルベルトの腕にくっつけて、うるうると見上げる。
「せ、先日のあの件でシャーロット様が、私のことが許せないって言って、わ、私にお仕置きと言って、荷物持ちにしたり、教科書を破いたり、靴に画鋲まで入れられたり、土下座までさせられました!? もう限界です。助けて下さい!?」
その叫びに「何だと!?」と私を睨むアーダルベルト。
ーーうふふ。そうよねー。物語の王子様は正義感が強いの。だから、弱ってる子を助けたくなるのよねー。
「だが、俺よりも、ファビアンに頼りなさい。婚約者だろ?」
オリヴィアはふるふると首を振る。
「ファビアン様は何というか、その……頼りにならないので……男らしい殿下しか頼れる人はいません」
その言葉に照れて頭をかくアーダルベルト。ファビアンも聞いていたようで教室から飛び出した。
「ファビアン!?」
エミリーはそれを追って教室を飛び出した。
ーーすまん。ファビアン。世界のためだ。許してくれ。
私は心の中で謝った。
アーダルベルトは仕方ないなと満更でもない様子で、私の元へと来た。
ーーいらっしゃい。憐れな子羊。
「お前はまたいじめをしたのか!? いい加減にしろ!? いくら公爵令嬢だからって調子にのるな!?」
私はそれを嘲笑った。悪役スマイルだ。……身体に馴染んでました。
「おっほっほっほー。下僕を好きに扱って何が悪いんですの〜? 」
目を吊り上げて、バンッと私の机を叩くアーダルベルト。
「下僕だと? 人のことをコケにしやがって、お前は何様だ!? オリヴィア嬢に謝れ!?」
ーー俺様だって言いたいが、我慢。
「私には王家の血も入っているのですよ〜? 殿下もご存知ですよね〜? オリヴィアってたかだか伯爵ですもの。殿下がわざわざ庇う必要はありませんよ?」
アーダルベルトはため息をついて私に背を向けてオリヴィアの元に歩いていく。オリヴィアに「あいつは駄目だ。いこう」と一緒に帰るように促した。
周りの生徒から、注目を集めたシャーロット。だが、「またか」という空気になり、通常に戻った。
ーー慣れたものだな。さてさてオリヴィアとアーダルベルトは無事くっつくかな〜? てか、オリヴィアってアーダルベルトの事普通に好きらしいな。良かったよ。じゃなきゃ可哀想だったわ本当。
オリヴィアをファビアンから離して、アーダルベルトにくっつけよう計画は好調なスタートを切ったのであった。
ーー下僕ってのは本当だしな。私って本当に悪役令嬢だわ。
* *
豪勢な邸宅の自宅に戻ると、怒ったエミリーがやってきた。
ーーファビアンの事だろうなぁ。一応言っといたでしょ。
「エミリー。私はファビアンを傷つける事を言うから、それを慰めてって事前に言ったよね? 怒らないでよ」
そう。私はオリヴィアと共に演技をしたのだ。それもエミリーとファビアンをくっつけるためだ。
エミリーはだされた紅茶を見つめながら「わかってるわよ」と呟く。
暗い表情で「ファビアンが可哀想だった。頼りないことないのに、いつも私を元気づけてくれたのに……」と落ち込む。
ーーうん。まあ。私も気分は良くなかったな。ファビアンは優しくていい奴だから。
「それで、仲はどうなの? ちょっとは進んだ?」
エミリーは俯いたまま黙り込む。
ーー駄目だったか。あちゃ〜。やり方が悪かったか。
作戦を練り直そうとしたが、エミリーがぼそりと呟いた。
「……手を繋いで帰ったわ」
「それって進んだ?」
「……進んだ」
予想外にうまくいった様だ。
ーー流石、私だ。
恋愛なんて苦手だったくせに私は得意げににやりと笑った。
『私は貴女が好きです。愛してます。キスをしても良いですか?』
ダークの言葉を唐突に思い出して、机に頭を強くぶつけた。
ーーあ、あれは、本当なのかな? うわぁぁ。嬉しくて死にそう〜。私も好きだよ。返事するべきかなぁ。
「急にどうしたのよ? 頭いかれた?」
エミリーは失礼な事を言うが、私は顔がにやけた。幸せで死んじゃいそう。
「……これがママだと思うと、複雑だわ」




