学園
残り1年の学園生活が始まった。周りの生徒は挨拶や受け答えはするものの自ら私に話しかけることはなかった。先日のダンスパーティーでの騒ぎのせいだ。私は罪人にはならなかったが、王太子と婚約破棄をして立場を悪くした。公爵令嬢という肩書きは魅力的の上、陛下が直々に謝った態度から、無下には扱えないという感じだ。触らぬ神に祟りなしってやつだ。
私は1人が元々好きなタイプなので、とりまきがいなくて清々した。昔は王太子妃になるべく頑張って人脈は広げてた。王太子の婚約者の立場を守るべく色々と計略をめぐらした。いじめだって何だって立場を守る為に何だってした。肝心のアーダルベルトの事は好きでもなんでもなかった上にほかっていた。向こうも私が誰をいじめようが気にもしなかった。エミリーのことだけは別だったが。
教室に入るとクラスメイトが「御機嫌よう」と顔色を伺うように挨拶してきた。私は「御機嫌よう。先日はお騒がせしてごめんなさい」と笑顔をはりつけて返事をしといた。
断罪イベントで意味不明な台詞を連発したのに、それをなかったように振る舞う周りに感心した。
アーダルベルトと同じクラスなので、その姿を捜したがいなかった。新学期だが、クラスのメンバーは3年間一緒だ。当然のように攻略キャラ4人とエミリーとは一緒のクラスだ。もうすぐ始業の鐘が鳴る。ニクセとオットー、ファビアンが一緒になって話しているので、声をかけた。
「殿下はいらっしゃらないの?」
オットーが気怠げな視線を寄越した。
緑色の垂れ目は眠そうだ。
「まだきてませんよ。貴女の件で陛下にだいぶ扱かれてましたからね。今日はこないと思います」
ーーさすが。王家の事に詳しいな。
ニクセが「何か殿下にご用ですか? まさか文句を言いにきたのですか?」と眼鏡の中央を指であげて冷たく言い放つ。
「いいえ。今後のことで相談したかっただけです。邪魔をしたわね」
ーー私もサボって城にいけば良かった!
ファビアンの婚約者の件で相談があったのだ。あわよくばファビアンとエミリーをくっつけようと思っている。ファビアンの意思はどこいっただと? 私は外堀から埋める派ですよ。ファビアンの気持ちはエミリーに頑張ってもらうしかない。
席に座ると3席ぐらい斜め前の位置に座るエミリーがちらちらと視線を寄越してきた。私は任せておけと親指を立てた。
キンコーーンカーーン
* *
お昼の休憩になった。食堂へと向かう周りの生徒。私の前に髪が紺色、黄緑色、橙色の3人の女が申し訳なさそうに現れた。ニクセとオットー、ファビアンの婚約者の3人だ。私は内心にやりと仄暗く笑った。顔には優しい笑顔をはりつけておいた。
この3人の後ろではエミリーがファビアンを昼食に誘っていた。私にファビアンの婚約者の視線が向いているので好都合だ。手を組み3人ににこりと笑い話しかけた。
「あらあら皆様お揃いでどうされたのですか?」
黄緑色の髪に垂れ気味の瞳のニーナが話し始めた。ちなみにオットーの婚約者だ。
「そのう。先日の件で謝りたくて、そのう」
「「「ごめんなさい」」」
私を裏切って、エミリーについたこの3人。どうやら思ったよりも良い人だったようだ。
ーーちえっ。良い人だとやり難いわ。性格悪ければ容赦なく婚約を解消させたってのに!
「あらあら、私には何のことかわかりません」
私はわざととぼけた。罪の意識をもっと持ってもらうのだ。3人は顔を蒼白にした。
ーー私からの仕返しが怖いんでしょ? 謝らなかったら、当然やり返すがな。
黙り込んでいた3人だったが、紺色の髪につり気味の目をしたミアが話し始めた。ちなみにニクセの婚約者だ。
「えっとそのう。エミリーさんを私達も一緒になっていじめていたのに、全部シャーロット様に押し付けました」
私はわざとらしく「まあ!」と驚いた。
「あらあら! そうだったの! それは確かに酷いわ! でも、そんなことをしといてただ謝るだけで済むと思っているの?」
私は3人をにやりと見上げた。
橙色の髪に大きな瞳のオリヴィアが頭を下げた。ファビアンの婚約者だ。私は内心よっしゃー!とガッツポーズをした。
「何でもします! だから許して下さい!」
「「許して下さい」」
3人に頭を下げられ愉快な気分になった。
ーーあっ。やっべぇ。完全に悪役だわ。ま。楽しいからいっか。
「……そこまで言うのなら仕方がありません。過去のことは流して差し上げます」
「本当ですか!?」
ミアががばっと頭を上げた。他の2人もそろーと頭をあげる。
「ただし私の言うことをきちんと従うこと、良いですね? 返事は?」
「「「はい!」」」
こうして3人の下僕を得た。
ーーこの3人が逆らうのをねじ伏せたかったのに、シャーロットよ。どんなけ恐れられてたんだよ。




