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帰りたい家

 



 馬車から降りて豪勢な邸宅に着いた。


 ーーうわあ。久しぶり過ぎて新鮮だわ。相変わらず豪華だな。


 扉をダークに開けてもらい入ると大勢の使用人が待ち構えていた。


「お帰りなさいお嬢様」


「「「お帰りなさいお嬢様」」」


 一斉にお辞儀をする使用人達。


「ただいま」


 気後れしたが、表面には出さないように笑顔で答えた。


 ーーああ。日本でのアットホームな暮らしに戻りたい。靴がいらない自宅に戻りたい。こたつに入りたい。ジャージに着替えたい。ピンヒール脱ぎたい。


 葛藤しながら私は自分の部屋へと笑顔で向かう。部屋を身体が覚えていたので良かった。メイドに扉を開けてもらう。


 ーーお嬢様って自分で扉も開けないものなのか?


 部屋に入るがまだメイドがくっついてきた。


 ーーとりあえず、このドレスの脱ぎ方知らないから手伝ってもらうか。


「着替えるから手伝って」


「はい。かしこまりました。まずは服を選びましょう」


 丸々一室がクローゼットとなった部屋に入る。そこには服屋が開ける程あるドレスやワンピース、靴、装飾品があった。


 ーーこんなにいらねー! 売ってしまいたい。


 私は適当にシンプルなワンピースを選ぶ。メイドが丁寧にそれを受け取った。


 ーージャージ欲しい。


 靴はペタンコ靴を選ぶ。


 ーー裸足になりたい。


 隣の部屋に戻り着替えさせてもらう。コルセットを外した瞬間の解放感を私は多分忘れない。


 * *


 そんなこんなで私はふわふわのソファに座りくつろいでいた。メイドは部屋の外に出てもらった。昔の私なら気にしなかった。だが、日本での暮らしに馴染んでしまった私は視線が気になるのだ。


 ーーシャーロットってある意味凄かったんだな。運命の女神がいた場所のが寛げた。


 窓からは木々や遠くの街並みが見えた。すっかり暗くなり部屋は魔導石の光に照らされていた。この世界には電気の代わりに魔導石が使われている。魔物を殺すと魔導石になる。鉱山でも魔導石はとれる。魔導石のぼんやりと優しい光を見つめた。


 ーー魔導石必要なものよね〜。そうなると魔物も必要。人を襲わなきゃ気にしないのにね。


 光の神、闇の神を倒せばおそらく魔物はいなくなる。魔法もなくなるのだろうか。


 ーー世界救うってなかなかハイリスクだわね〜。


 そんな事を考えていると突然部屋の扉が開く。私はもたれていた背中をスーと伸ばした。


「シャーロット!!」


 こげ茶の短い髪につり目の青年が現れた。兄、ハンスである。


 ーー口やかましいのがきた。


 ずかずかと部屋に入ってきたハンス。何やら怒っている様子だ。


「お兄さま。レディの部屋にノックなしで入るなんてどうかしてるわ」


「うるさい!!」


 ーーおまえがな!!


 ハンスは宮中で尚書官を勤めている。尚書とは国王陛下の文書の管理をつかさどる秘書官の役である。国王の証でもある国璽を管理する。重要な役職に勤めているくせに頭が残念な兄だ。


「お前王太子から婚約解消されたのか!? あれほど足元すくわれるなと言ったのに、おっちょこちょいにもほどがあるぞ!?」


「私は解消されたのではありません。解消したのです」


「一緒だろう!! ……お前から解消だと言ったのか!?」


「そうとも言います」


「本当にお前というやつはどこまでもアホだなぁ!! お前、王太子と婚約解消して次がすぐに決まると思っているのか!? 少しは父上の苦労を考えろ!!」


「…………」


 ーー兄がまともな事言った。返す言葉もない。耳栓ないかしら?


 ギャーギャーうるさい兄をどうやって黙らそうかと考えた。


 ーーああ。これだけは言っとこう。


「婚約を軽んじて悪かったと陛下が直々に謝って下さったわ。婚約を続けていたら、私の存在は軽んじられていた。あの王太子に未来はないわね」


 兄はパクパクと口を開いたり閉じたりして驚いてた。


「陛下自らだと......。お前案外高く見られてたんだな。てか、お前の未来もないぞ……?」


「私結婚とかどうでもいいのです」


 ーー兄よ。結婚を重要視しすぎである。日本では独身はザラにいる。


「はあ!? 男ならまだしも女は嫁ぐのは当たり前だろ!? お前だってわかっていただろ!? お前変だぞ!?」


 両肩を掴まれ正気を疑われた。多分兄の常識では変なのだろう。昔の自分でもありえない選択だっただろう。だが、私は本当に色々と経験した。常識よりも自分が何をしたいのか、どう生きたいのかが重要なのだ。常識に囚われても結局どうにもならない事は沢山ある。なら自分の好きなように進むべきだろう。


「変で結構。ダークこの常識ぶったアホをつまみ出して」


「はい。かしこまりました」


 どこからともなく現れた執事は兄を易々と持ち上げて部屋から出て行った。外から「離せ貴様〜!? 執事の分際で〜!?」と叫んでいた。


 ーーあースッキリした!



 * *



 私は夕飯を家族と共にとっていた。横長の四角いテーブルを5人で囲う。うるさい兄も一緒だ。紫色の短い髪につり目の瞳に髭の父、ヴィリバルトは兄を見て顔をしかめた。


「ハンス。家はどうした? 嫁が寂しがるだろう。ただでさえ仕事で帰れないのに、浮気されないか?」


 ーーお父様もっと言ってあげて! 兄よさっさと帰れ!


 ハンスはすでに既婚者である。同い年の妻と屋敷を構えている。


「……俺のことは心配しないでください。妻とはラブラブですから浮気などするはずがない。そんな事よりもシャーロットのことです。王太子と婚約解消を自ら望んだとか。父上。この馬鹿を叱ってやって下さい。貴族としての自覚がなさすぎる」


 ーー馬鹿はお前だ。私のが歳上だぞこの野郎。ラブラブだからって油断して浮気されても後悔するなよ。


「……話は陛下から伺った。解消になって残念だが、シャーロットが正しいと仰っていた。光の聖女を神聖視しすぎたのが原因だ。教会でも再検討するようだ」


 ーーそうよ。光の聖女様だからって4人のうち誰を選んでも良いなどとふざけてるだろう。まあゲームの設定のせいだろうが。


 光の聖女様は世界を救うという伝承。勇者と共に魔王を倒し、魔物の脅威を退けた。しかし、それでは世界が滅びるのではなかったのか。


 ーーまあそれは置いといて、私は父にぜひ伝えたいことがある。


「お父様。私、婚約とかもうこりごり! 私は一生1人で生きていきます!」


 ーー婚約とか疲れる。というかこの世界の危うさ的にそんな場合ではない。本当は家族に説明したいが、絶対に信じない。


 兄は私を見て目を吊り上げた。


「また馬鹿なことを!? 俺の方でも相手を探してみるからお前はとっとと婚約を結べ!」


「家を出た人には関係ありません! ちょっと黙ってて下さらない!?」


「家を出たって言っても俺が次期当主だぞ! もっと敬え!」


「そういうことを平然と言う時点でアホっぽいのよ!」


「誰がアホだ! この馬鹿!」


 父がおっほんと咳をする。ギャーギャーと口やかましい私と兄は父の咳で黙った。


「ハンス心配するな。シャーロットは賢い。婚約の重要性なぞとっくに理解している。そこまで言うからには何か理由があるのだろう。シャーロットの意思を尊重しよう」


「ありがとうございますお父様」


「……父上がそう仰るのなら仕方がありません。シャーロット。後で泣きついてくるなよ」


 ーー泣きついてほしいんだろう。残念ながらそうはならない。


 一見優しい父だが、兄の方がよっぽどシャーロットに優しい。まさか、娘の処刑にも来ない上に味方にもなってくれなかったとは思えないな。


 ーー全く。このアホのがよっぽど信用できるわ。


「お姉様。結婚しないの〜? ラウラも結婚しないでいーい? ずっとお姉様とお家にいるの〜」


 紫色の髪に焦げ茶色の瞳の12歳の妹ラウラはうふふと笑った。天使の微笑みに騙されてはいけない。


「ラウラはダメよ〜? カミル様のこと好きでしょ〜?」


 焦げ茶色の髪に瞳の母、ドーラがラウラの我儘を優しく叱った。


「うん。好き〜。でも他国の王子様だもん。嫁いだらお姉様達に会えないわ〜。ラウラ寂しい〜」


 公爵という血筋だけでなく、実力で他国の王子を射止めた強者だ。可愛らしいのに強かだ。


 ーー要領が悪い私と大違いね。私なんて婚約者に好きだなんて言ったこともないし言われたこともない。外堀を埋める作業に徹していたわ。


「ラウラごめんね〜。でもまだ結婚は大分先だしそれまで沢山遊びましょ〜」


 私はにこっとしてラウラに笑いかけた。ラウラは「もちろんよ〜」と可愛らしく頷いた。


 ーーか、可愛い。カミル王子が惚れるのもわかる。


 こうして家族団欒の時を過ごしたのだった。







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