運命のいたずら
「また、へんなこと言わないでよ?」
「ここセフィロトには神様の次に偉い精霊がいるじゃない。精霊様に神様になってもらうのよ。それには神様を倒す必要があると思うのよ。エミリーが運命の女神になるにも倒す必要があったのよ」
「でも、それだとダークが消滅するって言ってなかった? 大体どうやって精霊に頼むのよ?」
ーーあー痛いところをついてくるな!!
「精霊についてはあの4人に頼めばいいのよ。神器を宿しているから声が聞こえるのよ。精霊にダークの事はお願いしましょう」
「流石、ゲーマーね」
ーー褒めてないなこれ。
「でもさ、他の人って世界滅びるって知らないよね? 4人にどうやって説明するの?」
ーーあーしまった。エミリーと4人は好感度が0だから信じてもらえないかもな。ぬかった。神様倒すとか教会が許さんしな〜。
教会の大司祭は国王並みの権力がある。神様を倒すって言えば、大司祭が権力を振りかざして私はまた処刑かもしれない。
「ねぇ。とりあえずさ、エミリーは誰が好きなの?」
好きな人から好感度を上げて信じてもらうのだ。そうしよう。
「ダーク」
ーーダークは世界滅ぶって知ってるでしょ!? 好感度上げる必要はない。てかこいつ別に好きじゃないとか言ってなかったっけ? 私はエミリーが誰が好きか気づいている。
「嘘よね? ファビアンでしょ?」
「っっ!?」
エミリーの顔が真っ赤になる。図星だったようだ。私はほっとした。
ーーうん? ほっとした?
「ファビアンと仲良くなりなさいよ。そしたら、世界がどうのこうの言っても信じてもらえるわ」
「無理よ! 好感度イベント全部終わっちゃった! あんたがいれば攻略できただろうけど、終わったものは取り戻せない。それに陛下が婚約を軽んじるべきではないって言ってたじゃない。ファビアンには婚約者がいるでしょう!」
「あらあら、私は結婚しろとは言ってないわよ?」
「っっ!?」
エミリーは顔が真っ赤なままキッと私を睨んだ。からかいすぎた。少しだけ反省した。
「ごめんごめん。もちろん結婚するほど仲良くしてほしいって思っているわ。私に任してちょうだい」
「…………どうするのよ?」
「1人好条件な物件を私が今日ふったじゃない。それをファビアンの婚約者に押し付けるのよ」
ーー私の仲間だと思っていた裏切り者の女。まさか私の言うことを断らないわよね。
私は暗い笑みを浮かべた。エミリーは寒そうに震えた。
「悪役令嬢って頼もしいわ。てかあんたは4人のうち誰か好きな人いるの? ファビアンならごにょごにょ」
「安心して、4人とも嫌いよ!」
「ニクセも?」
「…………嫌いよ」
「今の間は何?」
実は2番目にニクセが好きでした。ダークのルートをやらなかったらニクセが1番だった。
「私は国王様に信用してもらおうと思う。なんかすまなそうにしていたし、弱みに漬け込もうと思う」
「うわっ。サイテー」
ーー褒め言葉として受け取ろう。
「あのさ日本人だった頃の名前聞いてもいい?」
ーーあーそうねー。教えても良いかもねー。
「私の名前は 川崎 愛 よ」
「……嘘でしょ!? そんなまさか!?」
エミリーは顔を青くして取り乱した。
「え? どうしたのよ? 顔色悪いわよ」
ちょっと心配になった。
ーー私の名前って変か?
「……私のママの名前も愛なのよ」
「愛って名前は珍しくないわよ」
同級生によく愛って子いた。
「違うの。旧姓も川崎だったの!!」
ーーお、おう。そこまでくるとすごいな。偶然なのか?
「でも私結婚してないし、子供もいないし、たまたまでしょ」
「あんた別の時空の神様になった私に会ったのでしょ? 別の時空のあんたが私のママでもおかしくないでしょう」
ーーそんな!? そんなことってある!? まてよ。女神が言ってなかったか? エミリーが転生したのは時空の歪みの所為だって、私の所為だって。
私は己の罪の深さを知った。このエミリーはもしも 川崎 愛 が死ななかったら生まれた存在だ。いや、もしも私が日本に逃げなかったら生まれた存在だ。
「……貴女の名前は?」
「七海 綾」
ーー七海か。聞いたことないわね。ああ。でも綾と私って似ているわね。
『......世界が滅びようが知るもんか!? 私は私のしたい様に生きる!!』
ーーあの時に誰かに似てるって思ったのよね。まさか私だったとは思わなかった。会えない筈の子供に会えてラッキーかしら。
私はにこっと笑った。エミリーは泣きそうだった。
「私ね。ここに飛ばされて怖かった。1人で秘密を抱えて生きていくのが怖かった。でも、もう1人じゃないんだよね?」
「そうね。寂しかったよね。でも、これからは私が一緒よ」
頭を撫でてあげるとエミリーは号泣した。
ーーああ。そっか。私にとっての運命の女神が綾にとっての私か。
憎らしいと思っていたのは同族嫌悪ってやつだったのか。
ーー運命のいたずらってやつだな。
「綾。これからよろしくね」




