誰がおばちゃんだ
「少し話があるのだけどいいかしら? 貴女も私に話があるわね? ファビアンは少し外してくれない?」
茫然と佇むエミリーと寄り添うファビアンに私は声をかけた。エミリーは視線をゆるゆるとこっちに向けた。ファビアンは「でも......」とエミリーの身を案じていた。
「ファビアンありがとう。私は大丈夫だから、先に行ってて」
エミリーは上手く笑う事が出来ないようだ。ファビアンは益々心配していたが、自分ではどうにも出来ないと悟ったのか私に「どうか。彼女を傷つけないでください」と釘を刺してゆっくりと出入り口に向かった。
ーーこの2人いい感じになれるかもな。 ファビアンなら応援してもいいな。キレると恐ろしいが……。
ファビアンは通常状態は心優しい少年だ。戦闘で精神力を0にするとランダムでブチギレスキルを発動させる。そのスキルは体力と魔力、精神力を全快させ、2ターン無敵状態になるのだ。その状態になれば最強の悪役令嬢である私も勝てない。
ーーまあ。それは置いといて、問題はこの女だ。
「貴女は運命の女神になる気はないの?」
アルカナストーリーのゲーム経験者なら、運命の女神を当然知っている筈だ。エミリーは「は? えっともしかして、中の人おばちゃん?」ととんでもない爆弾落とした。
ーーズッドーーンッッ。 やっぱりこいつとは相容れない!! あと中の人ってまるで声優みたいだからその言い方やめなさい!! ムチどこいった!?
ムチで叩いてやろうと見回すが、どこにもなかった。怒りに染まる表情からエミリーは「あ。ごめんごめん。私はリメイクだったから、無印の方はプレイしてないの」と宥めた。
リメイクだと!? 私が日本人として生きている時にはなかった!! とするとこの子は私より未来からやってきたのか!?
「無印の何年後に発売したの?」
「うーん。27年前の作品のリメイクって書いてあったと思う」
「どんなけ後に出たのよ!? え? 貴女何歳? てか日本人?」
「昔の作品のリメイクがバンバン流行っていたのよ。私は17歳よ。日本人。おばちゃんは?」
ーームチどこいった? ファビアンすまん多分この女殺すわ。
「私は25歳の日本人よ。おばちゃんではないわ」
エミリーが驚いた。何を驚いたのかは聞きたくなかった。
「それで、リメイクのダークルートのエンドはどうなるの?」
ゴゴゴゴゴ と闇のオーラが噴き出してきたが、私は笑顔でそれを抑えた。
「バットエンドが貴女が闇落ちして魔物の軍勢を操り人類が滅びる。ハッピーエンドが貴女が牢獄に入りドラゴン化して、私がダークと一緒にドラゴンを倒して、世界は光の神さまのものとなり、人類が私とダーク以外滅びる。だったわ」
ーーハッピーエンドがハッピーじゃねぇぇぇ!! どっちにしろ人類滅びるんかいぃぃぃ!?
「......破綻してるな」
「え? そういうものでしょう?」
エミリーはそのエンドは普通だと主張する。
ーーこういう人がいるから破綻したストーリーが生まれるんだ!
「……ママも破綻してるとか運命の女神はどこいったとか言ってた。ねぇ運命の女神って何?」
私はしぶしぶ知りうる限りのことを自分が出会った運命の女神を含めて話した。
「ーーーーという訳で私は別の時空の貴女に助けられて今に至るの。わかった?」
「私がこの世界に転生した時点でおかしいけど、貴女の方がおかしかったのね」
ーー何やら語弊がある気がする。誰がおかしいって?
「貴女はいつからエミリーだったの?」
「ゲームのプロローグから」
私はゲームのプロローグを一生懸命思い出した。
ヒロインは平民の出身だったが、17歳になったヒロインはスキル欄に聖剣の乙女と表情されている事に気づく。魔力持ちのうえ、光属性だった。教会に両親に連れて行ってもらうと、大司祭様のご神託により、世界に平和をもたらすという伝説の光の聖女だと判明し。魔法学園に転入するヒロインに課せられた使命。4人の祝福を受けし者から、1人を選び、愛し合うというものであった。そうして、魔法学園に転入したヒロインのはらはらドキドキな学園生活が始まる。
だったな。シャーロットとしてはなかなかに腹立たしい始まりだな。
「私はダークルートしかやってないから、それしか進み方を知らなかったの。条件は4人の好感度を0にすること」
ーーなるほど、だから好感度が低かったのか。無印だと友情エンドになるが、この世界はリメイクに沿っているらしい。
「なるほどねぇ。貴女世界救いたい?」
「……でも、私が女神になるんでしょう? 私には無理よ」
「実はもう一つ方法があるの。絶対に嫌なんだけどね」
私は再びゴゴゴゴゴと闇のオーラが噴き出してきたが笑顔で抑える。
「そんな方法があるならさっさと教えなさいよ」
ーーほほほほほほ。私より年下の癖に生意気ね。
「友情エンド。2チャンでいう百合エンドよ」
エミリーは顔を引きつらせた。首を振る。すっごく振る。
「無理無理無理無理無無理無理!?」
ーーめちゃくちゃ読みにくいな!? 何気に無が余分についてるし! 心配しなくても私もめちゃくちゃ嫌だ。
「ふふふふふふふ。嫌でしょ〜? 嫌でしょ〜?」
「何であんた楽しそうなのよ!?」
「貴女の嫌がる顔大好きだもん」
私はふふん♪とご機嫌になった。エミリーは「性格破綻してるわね」と顔を引きつらせた。
「でもこの世界はバットにもハッピーにもならなかった。世界を救う方法はあるわ」
「……救う気あったんだ。あんた知っててバットエンドにする気だったでしょ」
「バレたか」
「バレるわ!? 断罪イベントで悪役楽しんでたでしょ!?」
「……楽しかった」
頬を染める私を軽蔑するように見るエミリー。
「あんた何回も死んで気が狂ったんじゃない? あー怖いわーー」
そう言われても、その通りだと思うので何とも思わなかった。
「それでここからが本題。私たちは誰とも結ばれてはいけない。または戦ってはいけない。うん。まあ私が闇落ちしなきゃいいと思うんだけどね」
ーー勇者や魔王が出てくると世界破滅するんじゃね? ということ。 戦ってどちらか死ぬと世界破滅するんじゃね?ということ。
「でもそれは断罪イベントでの話でしょ? こうして私たちが話し合っている時点で回避されたんじゃない? あとは魔物をどうするか。あんたか私が死んでも滅びない様にするにはどうすればいいかを考えるべきよ」
そうなのです。セフィロトには魔物がうじゃうじゃいる。人間の脅威である。この魔法学園は特殊なバリアで守られているのだ。私が闇落ちして招き入れたりしたけどね。
ーー流石、光の聖女さま頼もしいわ〜。
「何感心しているのよ! あんたが一番詳しいんだから、打開策を考えなさいよ!」
ーー本当偉そうだな!
「あるっちゃある」
ーー私、運命の女神よりかは世界に詳しい気がする。




