最後の断罪イベント
ざわめく会場。刺さるような視線。きついコルセット。初めこそ息苦しかったが、5度目にもなると余裕が生まれる。私は背筋を伸ばして悠然と微笑んだ。
目の前のエミリー達はそんなシャーロットの姿に戸惑う。短い青い髪に眼鏡の男、ニクセは眼鏡の真ん中を指であげて眉をひそめる。
「何がおかしい?」
冷淡なその声はよく会場に響いた。私は益々笑みを深めた。
「ふふふ。おかしい訳ではありません。ただこれで皆さんとお別れだと思うと嬉しくて嬉しくて、つい笑ってしまいました」
一応淑女らしく終わっときたいので丁寧な口調にした。アーダルベルトが前に出てきて私を睨む。
「どういう事だ?」
ーー何回も処刑しやがったくせにこいつは何が怖いんだ?
私は忌々しくアーダルベルトを見上げた。
「そのままの意味です。このままでは人類は死にます。セフィロトは死の世界に生まれ変わる。私にはどうすることもできない。エミリー。貴女の所為よ!」
私は最後にエミリーを睨んだ。エミリーはびくっと怯えた。そんなエミリーをアーダルベルトはシャーロットから守るように抱き寄せる。
「戯言を言うな! 婚約破棄されたからって、エミリーを恨んでいるだろうが、お前が数々の嫌がらせをした所為だろう。自業自得だ。エミリーの所為にするな!」
私はその言葉に笑った。くすくす笑う私を周りは気でも狂ったのかと訝しげに見る。
ーーあー面白い。この王太子様は自分との婚約に価値があると思ってるんだ。私は全く興味がなかったのに笑ける。ただ節操がないエミリーがムカついていただけなのにね。
「殿下。私と婚約破棄をなさって次は誰と婚約するのですか?」
アーダルベルトとエミリーはたじろいだ。この2人は多分婚約しない。ダークを狙うエミリーはアーダルベルトとそこまで仲を深めていない。なのに公爵家のシャーロットが庶民のエミリーをいじめただけで、婚約解消に踏み切った。感情任せなその行動に私は飽きれた。
「まさか、次を考えてなかったのですか? 陛下はこの事をご存知ですか?」
このダンス会場には生徒と先生しかいない。途中で大司祭が現れるが、少なくとも陛下は最初から最後まで現れない。
「......お前には関係ない! お前はとっとと牢獄に入れてやる!」
誤魔化すように剣を構えたアーダルベルト。
ーー……無許可で婚約破棄したなこいつ!? まあ私には関係ないか。
私たちは恋仲だから婚約した訳ではない。互いの親が決めた政略的なものだ。陛下はアーダルベルトとエミリーが婚約するなら喜んで受け入れただろうが、しないなら婚約破棄の意味がわからないだろう。
ーー大司祭の発言で私は牢獄いきだし、それだと陛下も納得する。あーあ。アーダルベルトの良いように結局ことはおさまるのか。
肩をくすめてムチを私は構えた。エミリーは何かを言いかけたが、ぐっと黙ってタロットカードを構えた。ニクセとオットー、ファビアンも杖と短剣、拳を構えた。
こうして最後の断罪イベントの戦いは始まった。




