序章
ムチ技紹介
●乱れ打ち(全体の敵にランダムで4回攻撃&混乱確率5割)
体力または精神力を2消費
電灯がジジジ……と点滅する。今は夜。電灯された大きな橋の歩道橋と車道。自動車が時折サーーと風を起して去っていく。
モカ色のコートを着た私は、橋の手すりの外側にいた。半分ほどしか足が地面についていない。すぐ下は真っ暗な川だった。50メートルは下に川が流れていた。私は真っ暗な川をじっと見つめた。
ーーああ。やってらんない。今日も鈍臭いって言われた。
仄暗い笑みを浮かべる私は死と生の狭間の世界に興味を持った。
ーージェットコースターが好きな人ってそれが好きなのかしら。
「ふふっ」
ーー私はジェットコースターは苦手だわ。
「おい!! 何してんだ姉ちゃん!?」
ーーへ?......あっ。
「あっ」
私はその野太い声に驚いて足を滑らしてしまった。まるでフリーホールに乗ったように浮遊感を感じて
ズドーーーーッン!!
水しぶきを上げて、私は水面に叩きつけられた。全身に激しい衝撃を受けたが、一瞬で私の意識はふっとんだ。
* *
目覚めるとあたりは真っ白だった。水の香りがする。モカ色のコートのままの姿で私は地面に倒れていた。地面と言っていいのかもわからない。透明なガラスの上にいるような感じだ。とにかく辺りは深い霧に覆われた様に、上も下も右も左も真っ白だった。
ーー私は一体どうしたの?……確か、川に落ちたのよね? ここは流された先? それとも川の中は......ありえないわね。
キョロキョロと周りを見渡して、誰かいないのか、ここはどこなのか、少しでも情報がないかと思ったが、何も白くて見えなかった。
しばらく見渡したが、私は諦めて地面に仰向けに寝そべった。
ーー夢よね。きっと。
寝れば、目覚める。そう思った私は目を閉じた。
「……これ。寝るな」
おじいさんの様にしわがれた声が聞こえた。私は無視して、寝た。
「相変わらず、いい度胸してるじゃないか」
腕に鈍い痛みが走る。思わず顔をしかめてしわがれた声の方向を見た。もやもやと白く霧がある中でツルピカの禿げのおじいさんのシルエットが見えた。先がぐるりと曲がった木の杖も持っている。顔が良く見えない。何度も瞬きをするが見えない。
ーー眼鏡がいるかもな。
自分の視力を疑った。
「ふぉふぉふぉふぉ!おぬしはまだ死ねぬぞ!生きておる!」
目の前の老人の言葉に私は首を傾げた。
「おじいちゃん。仙人のコスプレでもしてるの?」
ーー私も昔はコスプレしてたな。つい最近までだけど、魔法少女やったな。似合ってなかったな。
自分の黒歴史を思い出して頭をぶん殴りたくなった。そんな心の葛藤を知ってか知らずか目の前の老人は唾を飛ばして怒鳴る。
「アホ!違うわたわけ!儂のこの装備を人間が真似したんじゃ」
ーーそんなに恥ずかしがるなら、その格好やめればいいのに。
疑いの目を老人に向けるが相変わらず、顔が見えない。
ーー老眼か。
私はがっくりと落ち込んだ。まだ老眼には早い年齢だ。私はまだ25だ。
「おぬし。この状況で随分と見当違いなことを考えているだろう!まあよい。おぬしには元の世界に戻ってもらおう」
ーー元の世界? ここはどこ?
「ここはどこですか?」
「ふぉふぉふぉふぉ。言えぬ。だがな、死後の世界とだけ言っておこう」
その言葉に私は驚いた。
ーー私は死んだんだ! 死ねたんだ! やった! あのブラック企業から私は抜け出せた! 面倒な人間関係から抜け出せた! 私はもう鈍臭いって言われない!
笑顔になる私に老人は呆れた。
「おぬし。そっちの世界でもダメだったのか。鈍臭いな」
「はぁ? 今何つった?」
鈍臭いというワードに私の頭は怒りで真っ白になった。同僚や上司、部下にも言われた言葉だ。最高にムカついて老人を睨んだ。
老人は飽きれてため息を吐く。
「……おぬし。やはり成長してないなあ。まあよい。ここからはおぬしの人生をやり直すのじゃ」
ーーあのブラック企業の世界で、やり直せって!?
私は首を振った。
「絶対ヤダ」
老人は嘲笑った。その姿にムカついた。
「これは決定事項じゃ。そして、世界を救え」
「私は死に
たい と言う前に目の前が太陽を見た様に眩しくなった。また浮遊感を感じた。吐きそうだ。死んだ時よりも、気分が悪かった。
●愛のムチ(敵一体に特大攻撃&魅了確率5割)
魔力2と精神力2消費