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帰ってきた人  作者: 陸 なるみ
第五章 親というもの
33/42

それぞれの父

本章は、長い次章への助走です。短めです。


 数日後、お社でだった。

 法子は深く考えてドキドキするよりも、楽しく一緒にいようと考えていた。

 子供っぽい信ちゃんなら何ともなく傍にいられるのに、大人っぽい信也さんだと、自分が急に意識して赤くなったりしてしまう。目の前に立たれるだけで落ち着かない。


 父と話す年相応の信也さんを見たせいか、独り、部屋で涙を流す姿を見てしまったせいか、どちらだろう? 

 本当に不思議だった。信也さんの心の持ちようが違うだけ、立ち居振る舞いがほんの少し違うだけで、自分の反応がこれ程に変わる。


 普通におしゃべりしたかったから、父をサカナにすることにした。

「信也さん、私のお父さんって物足りない?」

「何それ、知らないよ、僕のお父さんじゃないし。物足りる必要があんの?」


「何かこの間、完璧にやりこめてたから」

「やりこめて? 違うよ、のり子があんな恥ずかしい点取るからごまかしたんじゃん」


「煙に巻いてましたよね」

「そうとも言うけど。克也さんは僕の知らない世界を知っている。頼りにしてるのもほんとだよ」 


 信也さんが結構真面目に返事をしたので、ツッコミを入れてみることにした。

「ただ、ヨイショしただけじゃない?」


「うわぁ、ひどいの。のり子、クールもいいけど、分析も程々にしないと。のり子がそんなだから、認めてもらえてないのかもって克也さん焦っちゃうでしょ」


「え? 私のせい?」

「もっと褒めてあげてもいいんじゃない?」


「大人なのに? 男の人なのに褒めて欲しいの?」

「とーぜんじゃん。僕見ててわからないの? 男のほうが子供っぽいんだよ、そうでしょ? いっぱい褒めてその気にさせるのがコツだよ」


 一筋縄でいかない信也さんというか、神官大得意の信也さんが戻ってきているみたいだと思った。

「どうも信也さんのすること為すこと、下心とか、思惑とかありそう」


「失礼だねー。信ちゃんじゃ対処できないから無理して大人の振りしてあげたのにぃ」


「あの、信也さんはどうしてそんなにお父さんのこと好きになれたの?」

「お父さんだから。一生会えないと思ってたお父さんが見つかったんだよ? そりゃ好きになるでしょ?」


「それだけで?」

「それだけじゃないよ。いつお別れが来てもおかしくないんだよなって毎日傍にいたら、好きだなあ、愛しいなあって気持ちがどんどん湧いてくるの。歩けなくてもおしゃべりできるだけでいいって思ってたら、だんだん笑ってくれるだけでいい、次は僕のほう見てくれるだけでいい。目が開いてるだけでいい。そして、肌が温かいならそれだけでいいって思うようになった。それだけで好きなの」


「ある日、ひっついていてももうお父さんの身体が温かくならなかった」と言っていた。そして、本当のお別れ。


 ――ああ、こんな質問するんじゃなかった。信也さんがそのまま答えるとも思わなかった。ご逝去の話ではなくて、子供のときの話がいい。そのほうが幸せな思い出だろうから。


 お祖父ちゃんは何て言ってた? 

「お父さんが誰か知ったとき、信也は大声で泣いて、全てのジグソーパズルがぴたっとハマった気がしたらしい」と。

 そのときのことを聞こう。


「青山さまはどんな風にお父さんだよって言ってくれたの? ずうっと黙ってたんでしょ? どんなきっかけで?」


「何か根掘り葉掘り訊くね? そんなこと知りたいの? すっごい劇的だよ」


「やだ、それならよっぽど聞きたい」

「え〜、どうしよっかなあ。とっておきの話だもんなあ」

「話して下さい」

「のり子の頼みじゃしょうがないかなあ」

 そう前置きして信也さんは長いお話を始めた。


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