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帰ってきた人  作者: 陸 なるみ
第五章 親というもの
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電話


 信也さんが座りなおした。話題が変わるらしい。


「今日はね、水曜日でしょ? お電話の日なの。もう随分長くしてないから、今日から再開しようかなって」


「お電話、(あき)(ふみ)さんにですか?」

「ちーがーう。お母さん。ちっちゃいころから水曜日八時がお電話の時間だったの。東京にいても京都にいても」


「あ、お母さま、それは是非お電話しなくっちゃ。いつぶりですか?」

「それが、僕悪い子だったからお父さん独り占めしたくて、丹沢に来ないでって言っちゃったし、静香ちゃんいなくなってからずうっとご無沙汰。丹沢での僕たちだけのお葬式には来てて、でもお話できること何もなくて。怒ってるかな?」


「お母さまは怒ってるんじゃなくて、心配してるんでしょ?」

「かもね。でもしゃんとしとかないと、奈緒ちゃん飛んで来ちゃうんだもん」

「やっぱり、心配だからだ」


「声の感じとかでバレるの。うまく隠せたと思っても『歌って』とか『あの曲の出だしどうだった?』とかワナに嵌められて、声が震えたりするんだよ。だから、ちゃんとできるまでお電話できなくて」


 ああ、お母さまとはそんなふうに心を通わせてきたんだ。音楽家同士、離れていてもわかることがたくさんあるのだろう。


「信也さん、携帯持ってますか?」

「あ、そうか、社務所で掛けたくないならケータイだ。えっと、教団に持たされてるのがどっかにあると思う」


「充電してないんじゃ?」

「そっか、じゅーでんして試さなきゃ」

「そうです、ついでに彬文さんにもお電話して下さい」

「何で?」


「声聞きたくないんですか?」

「聞きたくない」

「この間、祭壇の中に入ったとき、悪口言ってましたよ」

「彬文が? 僕の悪口? そんなのいつもだよ」

「きっとどこかで眠りこけてるって」


「僕、眠ってなんかなかったよ? なかったでしょ?」

 急にムキになって可愛いらしいと思ってしまった。


「はい、信也さんはちゃんと起きてました。だから彬文さんに、『間違ってたよぉ』ってお電話して下さい」


 本当は「ご明察のとおり祭壇にいました」って言って欲しいくらいだ。せめて元気な声を聞かせるだけでも。

 もちろん、伯父さまはあの後、お礼の電話を入れているだろうけれど。


「じゃ、僕今日はこれからじゅーでんで忙しいから、のり子はバイバイね」

 携帯を充電している間、じっと眺めているつもりだったら、ちょっと怖い。


 でもこれはきっと、「勉強しなくちゃ」と言った法子を早めに帰宅させようと考えた、大人の信也さんからの発言だ。


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