登録完了!お、おう……女の人って怖いよね
「ガキはママのおっぱい飲んで、ねんねしなぁ〜!! ヒャハハハハハハ!!」
チンピラ共は、そんな感じのことを何が可笑しいのか笑い転げるように言っていた。そんな彼らに受付嬢は少し怒ったように注意する。
「またですか! ほんとにあなた達は! 今は登録の邪魔です! 外に出ているか大人しくしてもらえますか! ……それともなんかお仕置きがほしいですか?」
「お、おう。ねーちゃんがいうならしゃーねーな、おいお前ら行くぞ!」
「ヒャハハハハハハ! いいのかよ! いつものやつやんなくて!」
「馬鹿野郎、あのねーちゃんはやべーから辞めとくんだ」
そう言って出ていってしまった。
あ、あれ? 素直に引き下がった? 若干納得してない奴もいたが、なんか様子がおかしい。が、受付嬢に呼び戻されて、すぐに忘れてしまった。
「ささ、この紙に名前と年齢、性別をお書き下さい。職業も必須なのでよろしくお願いします」
「あの、さっきのは?」
「気にしないでください、ささ早く」
なんか誤魔化された。なんか笑顔が怖いです。なんででしょう?ともかく、用紙に自分の名前と年齢、職業を記入する。
――もちろん三歳と書いたり、本名を書いたりはしなかった。僕は仮にも貴族だし、本名を書いたらどうなるかわからない。なので記入したのは、
「アキバ・タクト様ですか、その顔で十九歳とは、ずいぶんと童顔なんですね……もしかして本当は女?」
という内容だ。嘘は言ってない。最後のにはちょっとドキっとした。でも今はちゃんと男になっている。問題無いはずだ。
「職業は……魔法使い!? わわ、すごいですね! どんな魔法が得意なんでしょうか?」
……魔法使いは珍しいのか。初耳である。僕はとりあえず無難に火魔法と答えておく。
「分かりました! その内容で登録しておきますね! 登録料として、1,000ディムルを頂きます。払えない場合、見習いとして1,000ディムル分雑用で稼いでもらうことになりますのでご注意下さい」
嘘発見器みたいなのは無いのか。僕はホッとすると同時に少し残念に思った。結構この世界は現実的であるようだ。僕は、受付嬢に銀貨を1枚渡した。
「登録が完了しました、こちらがギルドカードです。紛失の際には、再発行料として500ディムル頂きますので失くさないよう十分管理にはお気をつけ下さい」
受付嬢はそう丁寧に言うと、金属製のカードを手渡して来た。僕は受け取るとまじまじと眺める。カードには僕の名前と年齢、性別に職業、それにEという文字が刻印されていた。
ぶっちゃけ言い忘れていたが、この世界の文字はすでにリリアに教えて貰ったため、僕は既に読み書きが出来る。ふふふ。人間は不便なことがあるとすごいのだよ。僕はカードを見て疑問に思ったことを受付嬢に聞いた。
「このEってのはなんですか?」
「あっ、冒険者のランクとなっております。下からE、D、C、B、Aとなっていて、上のランクほど冒険者ギルドへの貢献度が高いギルド員ということになります」
ふむ、大体想像通りか。
「依頼は受けて行かれますか?もう昼もだいぶ過ぎていますが」
「今日は辞めておくよ。もう2時間もすれば日も暮れるしね」
僕ははなから今日依頼を受けるつもりは無かった。
まぁどれだけ時間がかかるものか分かったものではないし、何より一番の理由は、危険なことはしないとリリアとも約束をして出てきたということだ。
僕としてはもう今日は用はないのでそう言ってすぐに踵を返した。
「では、依頼を受ける際はいつでもいらっしゃって下さい!私の名前はアンジュといいます、今後ともよろしくお願いします!」
僕が後ろから声を掛けられて振り返ると、にこにこと。
少しおっとりとした印象の綺麗な亜麻色のセミロングヘアーの彼女は、花が咲くような笑顔で見送ってくれたのだった。
「おっとまちな!」
僕は無言で時空魔法を使って彼らを避けた。もう一度言うが僕にはそんなに時間がない。夕方には家に居なければいけないのだ。
こんな奴らの相手はしてられない。咄嗟のことなので彼らと10メートル離れた位置までしか移動できなかった。
「は? 消えた!?」
「ヒャハハハハハハ!! あいつどこ行きやがった!! おいソレイユ! どこいったんだぁ?」
「ん? 今誰かいただか?」
「「いや、確かにいたから」」
そんなバカなやり取りをするチンピラ3人組の後ろ姿が見えた。僕はそのままフェードアウトしようとしたが、3人組のうち一人が振り返ってしまった。
「ヒャハハハハハハ!! おい、あいつ後ろにいるぜぇ!!」
ヒャハハハハハハ! って口癖かなんかなのか?もうこいつウザすぎる。
僕はうんざりしながら彼らの方を向く。するとチンピラ3人組のうちソレイユと呼ばれた奴が前に出てきて威圧するように言った。
「おうおう、ニュービー君じゃないか。ちょっと俺らが稽古してやるから顔貸しな!」
「ヒャハハハハハハ! どうしたソレイユ! 急に威勢がいいじゃねぇか! あのねーちゃんがそんなに怖かったのかよ!」
「俺はねーちゃんが怖かったわけじゃねぇ! ただ、こいつが登録し終わって出てくるのをちょっと待ってやろうと思っただけだ!」
なんかさっきと言ってること違うよね。
「ボス! すごいだぁ〜!!」
ひときわ頭の悪そうなやつがなんか褒めてる。僕は軽く息を吐いて、言った。
「遠慮させていただきます。今日は、用事があるので」
言い切って逃げようとしたのだが、チンピラ達はまだ絡んできた。
「何行こうとしてんだよ! そんなに遠慮しなくてもいいんだぜ? まぁどちらにしろ拒否「……何してるの……」権は……ね……え?」
般若が居た。チンピラ3人組の後ろには豪鬼の如き顔をしたアンジュが立っていた。
ガシリ、とソレイユの首根っこ掴んだと思うと、他の二人も服の襟をつままれ、ギルドの中にズルズルと引きずられていった。
……。
まぁ、助かったから良しとしよう。うん。……アンジュさんは怒らせないようにしよう。
僕は冒険者ギルドを後にして、リリアへのお土産としておにぎりを買ったあと、そのまま暗くなるまで
えに家に帰ったのだった。