ついたぞ冒険者ギルド!!ん?……やっぱりテンプレですか?
僕は窓から屋敷の庭に飛び降りた。目の前には高い塀がそびえている。
この先は、まだ僕の行ったことのない「未知の世界」である。
人は初めての出来事には少なからずドキドキするものだ。僕も今、軽く緊張している。
すぅ、はぁ。
僕は深呼吸して、時空魔法を使った。
一瞬で塀の外に出た。目の前に広がるのはーー、裏路地だった。……ま、まぁ正面の門には守衛が居たので仕方がない。
なんともしまらないが、とりあえず通りを目指すことにして、薄暗い裏路地を歩く。
これがテンプレだったらゴロツキの一人や二人、出て来てもおかしくはないはずだが、貴族の屋敷の近くなのか治安がいいのかわからないが、出てくることはなかった。
建物の門を曲がると、すぐに明るいところに出た。どうやら通りに出たようだ。
思ったよりずっと人がいた。この伯爵領はかなり人口が多いようだ。人々の往来、店の呼び込み、馬車が通過する音。前世以来忘れていた、人々の喧騒に心を弾ませながら僕は通りの真ん中へ出た。
「へぇー、ここは商人が住んでる区画なんだな」
ここは商業地のようだ。数々の商店が立ち並んでいる。僕の家である屋敷もこの近くにたっているらしいことから、ここが街の中心地であることがわかる。とりあえず僕はぶらぶらしてみる。
「やっぱ中世ヨーロッパ風なんだな」
伯爵領はずいぶんと古風な街並みである。レンガづくりの家が立ち並び、3階建てより高い建物はない。
前世で見ていた味気ない街並みに比べ、モダンであると言えよう。
僕はそう評価を下し、今度は通りに出店する、屋台や商店に目を向けた。屋台にはお好み焼きのようなもの、まさに肉を焼いたもの、串焼きなど、見るだけで食欲をそそる美味しそうなものばかりだ。
そこかしこから香ばしい匂いが漂ってくる。
「おっ、あの串焼きみたいなの美味そうだな」
商店には主に生活雑貨が並んでいる。雑巾や、たわしなどはもちろんのこと、高価だが、石鹸もあるようだ。他にも服屋や八百屋にあたる店もあるようだった。
そんな感じで、商業地の通りを歩いていると、僕に声をかけてくる人物がいた。
「おい、そこの坊主」
「ここでリリアのお土産を買うか……、ぬっ」
「俺の飯……、食ってかないか」
すわテンプレか!? と身を強張らせた僕にかかった次の声は、予想とは違うものだった。
どうやらチンピラに声をかけられたわけではないらしい。僕は声をかけてきた人物に向き直った。
「飯……ですか」
大っきなおっちゃんだった。筋骨隆々で顔の彫りが深く、スキンヘッドで眉毛が薄い。
正直いってめっちゃ怖い顔をしていた。子供が見れば泣くような顔である。
このおっちゃんは、どうやら屋台の店主らしい。
「ああ、そうだ。とりあえず食ってみろ……」
そう言って渡してきものは……、握り飯だった。
…………………。
…………………………………!!
こ、米!? 僕は一瞬思考停止しながらもすぐに、前世から3年ぶりの握り飯にかじりついた。その瞬間、米の旨味が口いっぱいに広がった。
ご飯が進みそうな甘辛いタレがついたその握り飯は格別の味だった。
「う、美味いよ! おっちゃん!」
「そうか! 美味いか!」
「うん! もう一つ下さい! いくらですか?」
「そうかそうか、もっと食いたいか! やっとか! やっとこれの美味さをわかってくれるに人間会えた! ……お代なら10ディムルでいい」
おっちゃんが涙を流しそうな勢いで喜んでいた。
話を聞くとどうやら数日前にこの街にやってきて、屋台を開いたはいいが売上が芳しくなかったらしい。
昔東方を旅しているときにこの食べ物を食べて、その美味さに感動してそれを売る商売を始めることにしたのだとか。
「なんでだろうな……皆声をかけてもビクビクして寄ってこないんだ……、食あたりが怖いんだろうか」
……いや、それ絶対怖がられてます。この人は見た目で損するタイプの人間のようだ。僕は静かにおっちゃんの肩に手を置き言った。
「僕だけは……、分かってますよ」
そう言って、お代わりを貰うと、僕は満面の笑みで頬張る。なんだか周囲が注目記事している気がするが、気にも止めない。
「やだ、あれは恋の芽生えってやつかしら」「どっちがタチでどっちがネコなのかしら」「なかなかにスゴイカップルね」
気にしない、気にしない。
「おっちゃんごちそうさま。っとそうだ」
「どうした」
「冒険者ギルドに行く予定だったんです!」
「登録か」
「はい」
「そうか、頑張れよ……実は昔俺も冒険者でな、この握り飯もその時に初めて食べたんだ」
そうか、おっちゃんは冒険者だったから旅をしていたのか。
「へぇ!そうだったんですね」
「冒険者ギルドならこっから東だ、通りに面しているからすぐわかる」
「ありがとうございます。おっちゃん、また来るよ」
「ああ、待ってるぜ」
親切にもおっちゃんは冒険者ギルドの場所まで教えてくれた。僕はおっちゃんにお礼を行ってからその場を後にし、冒険者ギルドへ向かった。後に聞いた話だと、この後、急に店の売上が増えたそうな。
冒険者ギルドは、2階建ての大きな建物だった。中にはホール状のフロアがあり、半分ほど吹き抜けになっていた。
一階部分は受付となっており、酒場が併設していた。二階はギルドマスターの執務室などがあるのだろう。
僕が思っていたより、ずっと落ち着いた空間だった。酔いつぶれた冒険者などは今のところ見当たらない。
それどころか、依頼で出払っているのだろうか。冒険者らしき人達も見当たらなかった。
僕はそれは好都合とまっすぐ受付へ向かった。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
僕が言うと、受付嬢が対応してくれる。若くてかなり可愛い。
「冒険者ギルドへようこそ、登録でしたらまずはこちらの用紙に「ヒャハハハハハハ!! ガキが冒険者になるだぁ?」」
受付嬢の説明を遮るように、耳障りな笑い声が響いた。振り向くといかにもガラの悪そうなチンピラが、3人立っていた。
「ガキはママのおっぱい飲んでねんねしなぁ〜!! ヒャハハハハハハ!!」
今度こそテンプレですか?