準備が整ったので、外の世界へ出発……出来ませんでした
半年たった。僕は、例のアレを手に入れたことで精神安定を保てていることもあり、順調に「無垢な子供」として過ごせていると思う。
だが、今日はやってみたいことがあるのだ。この半年間で屋敷に居る人間の行動スケジュール、パターンは把握してある。
そして、この半年間で準備もしてきた。
「うん、ストックもだいぶ出来た。これならアレが出来そうだ。」
それは……。
「外の世界を、見てみよう」
そう、外に出てみるのだ。
そのための準備、だ。3年間家の中で過ごすのは、リリアが居なければ地獄のような時間だった。
暇過ぎて廃人になりかけた。して、その準備とはなにか。
それが、これである。僕はステータス画面を開いた。これが僕の今のステータスである。
クリス・ルバーノ
ヒト族
3歳 ♂(♀)
HP:2873/2873
MP:25431/25431
PW:533
DF:654
MD:1232
LK:777
スキル
愛嬌
魔力操作
魔力増大
創造魔法 残量:136/ーkg
時空魔法
だいぶステータスが上がった。MP以外は特に訓練した覚えはないので、単純に体が成長したことによって上がったのだろう。
だがMPに関しては違う。魔力増大のスキル効果を覚えているだろうか。僕はそのスキルの効果である限界まで魔力を使用すると魔力最大値が増えるという現象を、この半年間で実践していたのだ。
もちろんそれをやると体調を崩すので毎日ではなく、隔日でやったが。
そう毎日体調を崩していると、怪しまれる可能性があるのもそうだが、単純に物凄く気持ち悪くなるので毎日はしたくなかった。
で、本題がその魔力の利用先のことである。
僕は、これから外の世界に行こうとしているが、三歳児の身体のままでは、不都合が多い。
それで、創造魔法を使って自分の身体を大きくしようと考えたのだ。三歳の身体を成人男性の身体に。
だがそれには物質残量が足りなかった。だから魔力を使って物質をストックすることに努めた。
準備に半年かかったのはそのためだ。少しオーバーに貯めた気もするが、僕はこれしか自衛手段を持たないので、念には念を入れてのことだ。
そして、ついに僕は実行に移すことにしたのだ。
と、その前に思いついたことがある。僕は創造魔法で大きな姿見を作った。
そういえば自分の今の姿をまだ一度も見たことがなかった。この世界では鏡は高価なのか、屋敷内では一度も見たことがなかった。
「美幼女……ってやつ?」
正確には今は股ぐらにブツがあるので、女ではないのだが、気にしてもしょうがない。
初めて見た自分の今の容姿は、正直美系と言っても差し支えないものだった。母親譲りの銀髪に、両方とも美系であったからどっち譲りかはよくわからないが、二重でぱっちりとした目、子供っぽいながらもすっと通った鼻、形の良いふっくらとした桜色の唇が絶妙な配置で、僕の小さな顔に載っかっていた。
ひとしきり自分の姿を眺めて満足した僕は、今度こそ実行に移した。
「よし!やるぞ!!」
僕は自分の身体が成人男性の姿になるよう念じた。前世の、自分の、その姿へ。
(うおっ、なんか全身をあらゆる場所から引っ張られてる感じだ)
全身を引き伸ばされるような感覚にしばらく身を委ねる。僕はその感覚が収まると、静かに、目を開けた。
「おお、僕の身体だ……」
若干自分の中で美化されているような気がするが、間違いなく自分の身体である。
黒髪黒目、取り立てて特徴のない顔に、中肉中背といったところだろうか。
まぁ、美化されていると言ったとおり身長がかなり盛られているのだが。
僕は前世ではかなり身長が低かった。別にコンプレックスに感じていたことはないと思うのだが、深層心理では、そう感じていたのだろうか。
身体は問題なく大きくする事ができたのだが、それとは別に問題が発生した。
主に「絵面について」である。
今の状態は、身体は十六歳で三歳児の服を着ている状態である。これが意味することは……。
(やべ、服脱ぐの忘れてた! って、てか苦しっ、……クソォ!! ぬげねぇえええええええええええ)
大きな男がパンパンになった女児用ワンピースを着ている図の完成である。
各所が引き伸ばされ、身体のラインに沿うように張り付くワンピース。スカートの丈は伸びなかったからか、パンツが見えている。そのパンツもギッチギチになり股間が不自然にもっこりしている。
十人が見たら十人が通報するような奇妙かつ、変態的容姿であった。
(い、息が出来ない! リリア!いつもならここでタイミングよく登場するだろ!? 来てくれぇええええええええええ……、し、しぬ)
僕が動くこともままならず苦しみ喘いでいると、果たして、リリアは登場した。
「クリス様〜……ってあれ?」
「リ、リリア、いいところに! 早く僕をたすけて!」
「な、なななななあなた誰!? クリス様は!?」
リリアは僕をクリス・ルバーノとは認識してくれなかった。クソ! 姿変えてたんだった!
「僕はクリスだよ! リリアが知ってる!」
「クリス様は銀髪です! あなたは黒髪で、しかも身長が全然違うじゃないですか!」
あ、あれ? これ詰みじゃね? 死ぬしかないんじゃね?
「い、いいからとりあえず助けてくれ!」
「あ! それはまさかクリス様の服!? あなたクリス様に何を!!」
「違うわあああああああああああああああああああああ!!」
なに? あれなの? 僕は僕相手にアレコレした奴って認識? ロリコン変質者? ……絵面的にはそれで合ってるじゃん! 弁解不可じゃん!
「リリアぁあああああああ!! 今すぐ助けないとネコミミもふもふの刑だぞおおおおおお!! 僕はクリスだああああああ!!」
「そ、それはだめっ……はっ、それは私とクリス様しか知らないはず!? まさか本当にクリス様? なんでそのようなお姿に……」
「とにかく助けて!!」
「は、はい! いまお助けしま『パンッ』え?」
時間が停止した。
内側から押し広げようとする力に耐えられなかったのだろう。僕の服は儚くも破裂し、散り散りになってしまったのだった。
そして、僕の一糸纏わぬ裸身がリリアの前に晒される。
(oh…)
リリアの目が、段々下へと向いた。僕、クリスの下半身へと。
……だんだんと止まっていた時間が動き出す。リリアが大きく息を吸い込むのが見えた。
「ちょ、おちつ」
その後の行動を予期した僕が止めようとするも時すでに遅く。
「きゃああああああああああああああああああああああ!!」
リリアの甲高い悲鳴が屋敷中に響き渡った。リリアよ……、そういうのに耐性あったんじゃないのかよ。