一歳になりましたが問題だらけのようです
気付けば一歳になっていた。
頭も座り、何かを支えにしながら歩く事もできるようになった。なんてことはない、普通の赤ん坊なら誰でも出来るようになることだ。
母親は大喜びだったが。
……僕は親になるような年まで生きることが叶わなかったから、
あまりそういう気持ちは分からないのだが。子の成長はどんな些細な事でも嬉しいのだろう。
そういえば母親の名前はイリーナというらしい。イリーナは、商人の家の娘で貴族に嫁いできたらしい。
しかも年は二十歳だというのである。若い。
父親の名前もわかった。ジョセフ・ルバーノという名でこの一家の当主である。
中年の髭が似合うイケメンだ。その凄く……男らしいです。
貴族と一括りにしても位があるらしく、父ジョセフは伯爵位らしい。
他には、メイドさんがいる。メイドさんの名前はリリア。年は10代前半だろうか……黒髪のポニテにメガネが似合う美少女である。
僕がハイハイ出来るようになった頃から僕の側に居るようになった。これが今の僕の状況である。
家からはまだ出たことがない。
そんなこんなで僕はこの世界では裕福な家に生まれた、のだが。
一つだけ問題があった。
半年前に気付いたのだが、僕……女の子にうまれてきてしまったのである。
エエナンデ!?どうして!?と思っても仕方がなかった。
前世で男だったからと言って男にうまれて来れると思い込むほうがおかしいのである。ソレについては諦めるしかない。
だがしかし、女としての振る舞いを僕は全く知らない。前世の記憶のせいで、一人称が「僕」になってしまっているし、今は赤ん坊だから喋れないような年齢なので誤魔化せているが、いざ喋れる時になって、女言葉で喋れる自信がない。
(そんなの恥ずかしすぎる…!!)
そう思いながら悶ていると、部屋にリリアが入ってきた。
「クリス様、お召し物を替えるお時間です」
何というタイミング…!!何度も言うが中身は男である。しかも年頃だった。目の前には黒髪の美少女。
もういつものことなのだが、自分の着替えを見られるということに僕が体温を上昇させていると、不思議に思ったのか彼女はまた声を掛けてきた。
「クリス様?どうされました?」
そう言って下から顔を覗き込んでくる。
(グハァ!!なんという破壊力!!!可愛すぎる!!!!)
少し眉根寄せてそう聞いてくる彼女はそれはもう…prp…ゴホンッ、美人だった。
「……本当に大丈夫ですか?」
ピタリと動きを止めて固まった僕に、再度問いかけてくる。その言葉に我に返った僕は反射的に
「あっ、リリアさん大丈夫ですよ」
「へ?」
「…………」
「…………」
今度は彼女が固まってしまった。口が半開きで、メガネがずり落ちる。僕がいつも彼女に抱いていたクールなイメージが台無しだった。が、やっぱり美人はどんな状況でも美人なのだった。
それよりも、だ。
……やってしまった。つい喋ってしまったのである。
(何やってんだ僕!?)
しばし固まったまま見つめ合う。僕は冷や汗ダラダラである。この状況をどうしようか考え始めたところで、
「……し」
「し?」
「喋っったああああああ!?」
「いや、あの……その」
「はやくイリーナ様に知らせなきゃ!!」
「え!?ちょっ、待ってーー」
大きな声でそう叫んだあと、兎のような早さで出ていってしまった。
当然一歳になったばかりの僕には、追いつくどころか追いかけることも出来るわけが無い。
僕は彼女が出てった扉をポカンと眺めることしかでき無いのだった。
リリアがイリーナを連れて戻ってきた。両方向とも鼻息荒く興奮した様子である。ちょっと怖い。イリーナが血走った目で確認を取ってきた。
「クリス!!あなたが喋ったってホントなの!?」
ええはい。本当ですとも。
僕は一生懸命現状を打破する方法を考えていた。1歳児があんな流暢に喋れるのはおかしいのだ。
「ねぇ、しゃべってみて?」
イリーナが僕に催促してくる。僕が喋るのを聞きたいのだろう。だが喋るわけには……。
こてん。
僕は取り敢えず首を傾げて誤魔化すことにしてみた。
「…………」
「…………」
「ねぇ、ほんとに喋ったの?リリア、貴女の勘違いじゃないんでしょうね?」
いつまでも僕が喋らないので、少し不機嫌になったイリーナが、リリアを問い詰める。
「いえ!確かに聞きました!嘘じゃないんです!!」
リリアは少し涙目になって反論する。それでも喋らない僕を見て更に不機嫌になったイリーナは、
「でも喋らないわよ?嘘を付いたなら罰を与えないと行けないわね」
とリリアを責め立てる。
「いえ、私はそんな……嘘など」
更に涙目になったリリアがこっちに縋るような目を向けてきた。
(心が痛い!痛いよ!)
凄い罪悪感が湧き出てくる。見つめられながら必死に考え、悩みに悩んだ末に僕が選んだ解決策は……。
「マーマ?」
可愛らしい声でイリーナのことを呼ぶことである!!
「あら、ママですって!?きいた!?私のことママって呼んだわ!!」
途端に上機嫌になったイリーナは僕を抱きしめていい子いい子してくる。そう、これならリリアが嘘を付いたことにはならないし僕が日常会話ペラペラな事がバレなくて済むのだ。
「そうだ、お祝いしなくちゃ!今日はご馳走よ!料理長に頼んでこなきゃ!」
そう言ってイリーナは僕を一通りナデナデしたあと、部屋を出ていってしまった。部屋には先程の涙目とは打って変わって、微妙な表情をしたリリアと僕だけが取り残された。
……一難去ったが、この状況をどうしようか。
僕はリリアとの件についての後始末を考え始めるのだった。