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転生してクリスになりました?

 僕の死は突然訪れた。誰も死を予期することなんて出来ない、……寿命でもない限りは。

 トラックに轢かれた……そう認識したときには視界が真っ暗になっていた。


「ああ、死んだな」


 そう思い、その時を静かに待った。が、いつまで経ってもその時は訪れなかった。


 まだ自我が残っている、意識があると認識した僕は不思議に思った。トラックは大型だったし、下半身がちぎれとんだ僕は間違いなく致命傷だったはずだ。


 しばらくじっとしていたが、おそるおそる薄っすらと……目を開けてみる。と、その目に飛び込んできたのは見覚えのない女性の顔だった。僕は咄嗟に看護師だな、と思いここが何処の病院か聞こうとした。


 それにしても妙に距離感が近いような気がする。改めて正面から見つめて見ると、きれいな人だった。白磁のような肌に、アクアマリンのような透き通った瞳に白銀のブロンドヘアー、スッと通った鼻の下にはぷっくりと健康さが伺える薄紅色の唇。整った輪郭にそれらのパーツが完璧な比率で載っかっている。完璧な美女がそこにいた。


 僕はしばし見とれていたが、ふと我に返り先程しようとしていた行動を思い出す。そして声に出そうとして……気付いた。


 うまく言葉が出ない。それに妙に声が高い。一瞬、自分の声だとは理解できなかった。


 それでもなんとか喋ろうとして頑張ってみたが、結局僕の口からは「うー」とか「あー」とか言葉にならない声が漏れただけだった。これじゃまるで喃語だ。赤ちゃんにでもなってしまった気分である。


 そこで、女性が声を掛けてきた。日本語ではなかったのだが、不思議と意味が解った。


「あらあら、クリスちゃん起きちゃった?」


 クリスチャン!? 誰ですかねそれは。


 僕の方をしっかり見て言っているし僕の名前なのだろうか?


 しかし、僕には秋葉拓人という立派な名前があった筈だ。この女性は僕のことをだれかと勘違いしているのではないだろうか?

 

 正直僕には何が起きているのかさっぱり分からなかった。やっぱりここは病院じゃないのだろうか?自分はやっぱり助かってはいないとして、それなら何故意識があるのだろうか?ここが冥土いうわけでも無さそうだし……。


 考えに耽って、僕はある可能性に行き着いた。


 ――――これ、転生なんじゃないかって。


 昔、中学生の時に小説投稿サイトで流行っていたジャンルで……今は読んでいなかったが、その時は好んで読んでいた。シチュエーションが非常に似ていたのだ。


 そして、更にその可能性について考えようとして……急激に瞼が重くなってきた。


 もしこの身が本当に赤ん坊だとしたら、当然のことである。赤ちゃんはよく眠る。一日の四分の三は睡眠に費やすほどだ。

 

 心地よい微睡みにおちていくその直前に、


「あらあら、また眠くなっちゃったのね。よく寝て大きな娘に育つのよ」


という声が聞こえた。


 確信しました。


 僕は転生して赤ん坊になり、きれいな女性は多分僕の母親デス。エエナンデ!? どうして!? とは思いながらも。強烈な眠気に逆らえるはずもなく、僕の意識は闇へと落ちていった。




 次に目覚めた時も、母親であろう人の腕の中だった。母親であろう女性は聖母のような笑みでニコリ……と微笑み掛けてくるが、

僕は心中穏やかでは無かった。


 まだまだ、何故?どうして?といった感情が自分の中で渦巻いていたのだ。


(ええい、なんだってこんなことに!! 生きているってこと自体は有り難いし、嬉しいけども!!!)


 赤ん坊となったはいいがどうふるまえばいいかわからない。おまけに記憶が有るからますますどうふるまえばいいかわからない。僕は泣きそうだった。


 こうなったらヤケクソでぃ! っと感情の赴くままにとりあえず泣いてみた。


 声を上げて子供みたいに……というよりか子供なんですけど。


 すると、母親が少し困ったような顔をしたがすぐに笑顔になって、


「またおっぱいですか? よく飲むのね? いっぱい飲んで大きく育ってね」


 と言って、着ていたブラウスのボタンを外して胸をさらけ出してきた。


 そしてそのまま僕の口元まで胸を寄せてくる。薄ピンク色の乳首で形のいいおっぱいを見た僕は一瞬で耳まで顔を赤くした


(何という……羞恥プレイ!!)


 転生物のテンプレでよくあった展開である。実際に起きると物凄く恥ずかしい。


 僕も一応年頃 (だった)男子である。いきなりこんな刺激の強いものを見せられたら、変な気分になってしまう。


 僕が羞恥に悶えプルプルしていると、いつまでも飲もうとしない僕が心配になったのか、また声を掛けてきた。


「どうして飲まないのかしら? 顔も赤いわ……まさか! 病気かしら!?」


 そう言って手のひらでおでこに触れてきた。母親の手は柔らかくて、ひんやりしてて、気持ちいい。


 いくらか頭の冷えた僕は、心配をかけないためにも、変な風に思われない為にも、羞恥を捨てて母親の乳を飲むことにした。


 煩悩退散煩悩退散煩悩退散……


 乳を飲みだした僕に安心したのか、また微笑を浮かべて僕のことを眺めだした。


 こうして僕は、転生して赤ん坊クリスとなった。

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