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嫁(カッパ)シリーズ

嫁(カッパ)を洗いました

作者: まるだまる

どちらかというと、ナツメちゃんよりお友達話。

 また、ナツメの友人たちが天上家に遊びに来てました。


 ナツメの友人――猫又一族のミーコ。


 猫耳や尻尾はないけれど、人の姿をしているが中身は猫と言ってもいい。

 士郎よりも背が高く、長身で大きな胸をしていてスタイルもいい。 


 そのミーコがリビングにある大型のテレビの前で士郎の母、千里と格闘ゲームで対戦中。

 表情豊かなミーコに対し、千里は無表情。

 だが、それぞれの指は残像が見えるほどコマンド入力で慌ただしい。


 ミーコはレースゲームやパズルゲームは苦手だが、格闘ゲームの腕前だけは幼馴染でもある仲良し四人組ナツメ、カヤ、レミの誰よりもセンスがあった。士郎も格闘ゲームにそれなりの自信があったが、今のミーコに三割くらいの勝率しか得られない。


 ミーコは士郎に五連勝したところで、天上家ゲーム女王である千里に挑戦したのである。


 ミーコのキャラは連打で千里のキャラを襲うが、余裕で防御されている。

 千里側の体力ゲージは一向に減る気配がない。

 千里はというと、ミーコのキャラが連打で攻めてくるときのモーションを見定めて、軽く反撃。

 攻撃と攻撃のわずかな隙を突かれたミーコのキャラは、ほんのわずかに体力ゲージが下がる。  

 ゲージが下がったことで焦ったのか、ミーコは大技に出た。

 その焦りを勝機とみた千里はすぐさま攻撃に転じ、コンボ技へと繋げていく。

 

 1コンボ、2コンボ、3コンボと防御不能な連続攻撃が容赦なく体力ゲージを削っていく。


 千里のキャラが10コンボ目の大技を繰り出すためのモーション――力溜めに移った。

 これを食らえばミーコのキャラは確実に負ける。

 だが、それを見たミーコはにやりとして、八重歯を覗かせた。


「それを待ってたにゃ!」


 ミーコの指が素早くコマンド入力を果たし、ミーコの操るキャラは千里のキャラへと大技を繰り出した。コンボカウンターである。士郎に教えてもらったミーコの奥の手である。相手のコンボ中に入力することによって、絶大なダメージを繰り出す技である。


「勝ったにゃ!」


 ミーコは勝利を宣言する。


 だが、画面上のミーコキャラが繰り出した反撃技は、千里のキャラに防御され、勝利を確信していたミーコは「にゃんで?」と固まる。


「隙だらけよ」



 動きが止まったミーコのキャラに、千里のキャラから強烈な大技が繰り出され直撃する。

ミーコのキャラはその一撃を受けて、スローモーションに吹き飛ばされ千里の勝利で決着した。 



「うん。惜しかったわね」

 

「シロー君のお母さん。今のにゃんにゃ? 何で防御できたにゃ?」


「キャンセル技。入力中のコマンドを取り消す技よ。コンボ取り消して防御しただけ」


「そんにゃのあるの? どうやるか教えてにゃ」


 ミーコは貪欲に勝者に教えを乞う。

 千里はミーコのお願いに気前よく操作方法を教えるのだった。



 一方、士郎と他の三人はというと――庭で子供プールを囲んでいた。


 少しだけ水の入った子供プールの中に、ナツメが甲羅状態で浸かっていた。


「……はい。……たわし」


「レミちゃんありがとう。えーと、普通にゴシゴシ洗っていいの?」


 レミからたわしを受け取った士郎は、甲羅の中のナツメに問いかける。


『はい。大丈夫です。お願いします』


「士郎さん、わたくしたちがサポートしますから大丈夫ですわ」


 甲羅を何度か展開すると流石に汚れてくるらしく、ナツメが妖怪界にいた時は、家族でお互い洗いあっていたのである。甲羅を展開すると、顔や手足を出すこともできるが、全てには手が届かず洗えないので、他の人に手伝ってもらうのが通常らしい。

 河童一族に伝わるコミュニケーションの一つであるとナツメは士郎に教えた。

  

「士郎さんは初めてでしょ? わたくしたちにとって甲羅洗いは夏の定番メニューなんですの」


「……これやらないと……夏が来た……気がしない」


 レミは袖をまくり上げ、慣れた手つきで甲羅の筋目に沿って水をかけていく。


『泥んこ遊びとかしたあととか、よく洗ってもらったよね』


「泥と言えば、中学生の頃だったかしら。ナツメが甲羅のまま泥沼にはまった時は最悪でしたわ。気が付いたときには沈みかけてて、わたくしたち必死になって助けましたもの」


「なんで泥沼にはまってたの!?」


『……あの、脇道でこけちゃって、そのまま泥沼に……』

 

「まだ小学生だった頃、遠足の時ナツメが甲羅のまま山の頂上から転げ落ちて行って、先生方と一緒に必死になって捜索したこともありましたわ。崖下でひっくり返っていた甲羅を見つけたときはどれだけ安心したことか」


『カヤちゃん、もう止めてっ!』


 甲羅の中から甲羅が震えるほどの声でナツメが叫ぶ

 甲羅をポンポンと叩いてレミが呟く。


「……ナツメ。……基本ドジ。……覚えとくといい」


『あうううう。士郎様の中にある清楚で可憐な私のイメージが崩れていく』


「うん、分かるよ。ナツメ本当にドジだもん。甲羅って身に危険が及ぶと防衛本能で勝手に展開するってナツメ自身が言ってたし、一日に何回も家の中で甲羅が転がってるから、ドジなことしたんだろうなーって思ってた。ナツメが来た次の日くらいに気付いたかな?」

 

『とっくにばれてた!?』


 ナツメいじりはさておき、士郎、カヤ、レミの三人は分担して甲羅をゴシゴシ洗っていく。

 甲羅を洗ってもらっているとき、中にいるナツメは申し訳ない気持ちと心地よい気持ちの二つを覚える。

 周りから聞こえてくる丁寧に洗うたわしの音が心地よい子守唄のように感じるのである。

 

「……カヤ。……そろそろ」


「ええ。じゃあ、次はお腹を」


 カヤは甲羅の縁を掴むとひょいと持ち上げる。余りにも軽々と持ち上げるカヤの姿を見て、士郎は目が飛び出るほど驚く。


「ええええええっ!? 重くないの?」


「わたくし、鬼の一族ですから力は強いんですの。300キロくらいなら平気で持てますわ。ナツメの甲羅は150キロ前後ですし、ナツメの体重を合わせても軽いものですわ」


 カヤはあっさりと言ってのけ、甲羅を支えながら腹部を洗い始める。

 レミとカヤがナツメやミーコみたいに妖怪らしい特徴を士郎に見せていなかったので、二人が妖怪だということを失念していた士郎だった。

 カヤの力を見て、士郎は甲羅に水を流しているレミの後ろ姿をじっと見る。レミはぬりかべ一族だ。小柄な幼児体形をしていて、士郎の目にはどちらかというと座敷童が洋服を着ているように見える。

 レミにも妖怪特有の能力があるのだろうか、と士郎は疑問を浮かび聞いてみることにした。


「レミちゃんも何か能力あるの?」


「……ある。……試す?」


 そう言って振り返ったレミはホースをカヤに渡すと、ちょいちょいと手招きして、士郎を玄関に導く。

 玄関の扉を開け先にレミが中に入る。



「……入ってきて」



 士郎が玄関の中に入ろうとすると、玄関の入り口に見えない壁ができていて邪魔される。

 見えない壁を何度も手でペタペタと触り、士郎は感心してレミに向かって「すごい、すごい」と拍手する。


「……ぬりかべの力。……ただ……一つ問題ある」


「何?」


「……ここ。……通行止め。……多分一時間くらい」


「え、解除できないの?」


「……レミ。……半人前。……自力解除無理。……勝手に消える。……多分」


「最後、多分って言った? そこは自信持ってよ!?」


 

 士郎は元に戻ること祈りつつそのまま庭へと回り、レミは家の中を経由してカヤとナツメの待つ庭先へ移動。庭では残っていたカヤが、洗い終わった甲羅の腹部を水で流していた。



「カヤさん、ごめんね。一人でさせちゃったね」


「構いませんわ。士郎さん、レミの能力は地味だけどすごいでしょ?」


「そうだね。早く一人前のぬりかべになれたらいいね」


「レミが一人前のぬりかべに成長したら、きっと誰も越えられない壁を作って、ますます人を遠ざける姿が目に浮かびますわ」


「そこはなんとかしてくい止めようよ?」



 たまに鬼畜な発言するカヤだけに、迂闊な振りはできないと感じる士郎だった。


 後から戻ってきたレミが手に袋を持って庭に出てきた。

 袋の中から大太鼓の鉢のような棒4本とレジャーシートを取り出す。

 

 レジャーシートを広げ、棒を四隅に置く。

 セッティングができたところで、カヤがまた甲羅を持ち上げ、その棒の上に甲羅を置いた。



「天日干しですわ。ある程度乾燥するまでこうしておきましょう。ナツメは寝ているはずですの。甲羅洗いをするといつもナツメは寝てしまうんですの。しばらく起きませんわ」


 甲羅の乾燥を待つ間、カヤとレミからナツメとの思い出話を聞かせてもらう。

 主にナツメのドジ話だったが、カヤとレミの表情がナツメのことを本当に好きなのだなと実感させられる士郎だった。




 その頃、ミーコさんと千里の対戦はというと――




「うにゃあああああっ、駄目にゃっ! 勝てにゃい!」


「ミーコちゃん、まだまだ修行が足りないわ」


「うにゃあ、ミーコさん自信喪失……また今度お願いしますにゃ。顔洗ってでにゃおしてきます」


 うなだれて、士郎たちと合流しようと庭へ出ていくミーコだった。



 ミーコが庭に出た直後、千里はどっと肩を落とす。

 千里とミーコの勝負は紙一重で、実は千里をかなり追い詰めていたのである。


「……やばかった。ぎりぎりだった。あの子のみ込み速すぎ。次やばいかも。今日の夜にでも強者どもとネット対戦して鍛えないと。またあの世界に飛び込む日が来るなんて…………何か、燃えてきた」



 闘志を燃やしていると千里の携帯が鳴った。

 見てみると知らぬ相手からの電話番号。


 千里は庭で談笑している士郎たちの様子を見ると、リビングから隣の和室へと移動する。


「もしもし?――」


「――――」


「ああ、やっぱりあなただったの。携帯番号変えたの?」


「――――」


「もしかしたら連絡が来るかなと思ってたわ。一応言っておくけど、こちら側は何も動いてないわよ。河童さんたちは何を考えているのか知らないけど」


「――――」


「あらそう? まあ、今のところは問題ないわ。あ、そうそう。一つ忠告しとくけど、勝手にうちの息子に接触するのは止めてよね」


「――――」


「そう、いい答えだわ。じゃあ、また何か分かったら連絡ちょうだい」


 千里は通話を切り呟く。


「ん~、こっちが先に動いたか。これは……思ったよりも早いかな?」


 千里は新たな楽しみを見つけたかのようにニヤリと笑った。


 ☆

 

 一方、庭では士郎が甲羅に籠ったナツメを必死に説得しているところだった。

 ミーコにじゃれつかれ、豊満な胸の感触に鼻の下を伸ばしていたところを、起きたナツメに見つかったのである。


「だから、いやらしいこと考えてたわけじゃないって!」


『士郎様の馬鹿。知らない!』


「平和だにゃー」


「平和ねー」


「……平和」

 

 そんな二人を元凶を含むナツメの幼馴染三人は温かい目で見守っていた。

  


 お読みいただきましてありがとうございます。

擬人化した妖怪を考えると、そこそこキャラが作れそう。

天狗とか出したら、間違いなくR18作品を作ってしまう自分がいると思う。


   

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 嫁(カッパ)シリーズは面白くて。 個人的には、連載化を希望しますが。 でも、そうなると他の作品と同時並行になり。 他の作家さんの例を見ても、エターになる確立が高くなってし…
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