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 「ったく、何なのよこれ…………」


 彼女………菱垣知香はそうボヤキながら手に持っていた紙ファイルを机の上に放り投げる。


 僕はそこにハーブティーを置き、一言断ってからそのファイルを取る。


 少し捲ってみて、苦笑する。


 確かに、これは………


 「ね?全く馬鹿げてる」


 「やはり、強度と軽量化ですか?」


 「それは基本。篠滝君、そんな当たり前なこと言ってると馬鹿にみられるわよ」


 「はい」


 「まず、武装ね。とりあえずつけてりゃ良いって訳じゃ無いのに。主翼付け根のはやり方次第で空薬莢を排出できる。機首は論外ね。全く意味がない」


 「対爆撃機用に必要では?」


 「それが貴女の意見?」彼女は初めてこちらを見る。僕を魅了した瞳が心臓を捕える。一瞬、息が詰まる。それから気づかれないように深呼吸。


 態勢を整えた時には、彼女はもう此方を向いていなかった。


 「鳳流の12mmでは、エンジン回りの装甲を抜くのに時間がかかりました」


 「そのためのpackageじゃない。これも屑だけど。理由はわかるわよね」


 「前脚収容部」


 「そう」


 彼女は足を組んでハーブティーに手を付けた。その様子を盗み見る。


 「機銃二丁で最低でも80kg、機関砲二門で140kg。エンジンが800kg」彼女は指を折って数える。「1020kgね。操縦士が70kgで、ジャイロ標準機が4kg、脱出装置が6kg、プロペラ20kgか?1120kg」


 「パッケージだと?」


 「140kg減らせて、パッケージだと200kg位になるかしら。主脚をずらすか、パッケージをずらすかする事になる。パイロットとしてはどっちがいい?」


 「パッケージをずらして欲しいですね」


 「ちょっと待って、パッケージって、ポッド?」


 「半埋め込みですか?」


 「普通そうだと思うけど」


 「はあ…………胴体下のポッドのことだと思ってましたが」


 「なるほど……」


 彼女は目を瞑った。外界との接続を遮断している。


 4分ほど沈黙。ゆっくりと彼女は目を開けた。


 「速度と高度は良いのですか」


 「勿論。速度と高度は、言い方は悪いけどどうとでもなる」


 「流石ですね」


 「貴女はお世辞を言わない方が良いわね」


 「どこがおかしかったですか?」


 「そこでお世辞だと否定しないところよ」


 「なるほど」


 「馬鹿みたいに重くしない限り、大丈夫」


 「リバース・ピッチは?荷重の方向が逆になりますが」


 「飛行中に使う奴はいないわ」


 一人、飛行中に使ったパイロットを知っているが、黙っていた。


 「どの条件を削ればできますか?」


 「機首に20mmリボルバーカノン2門搭載、付与packageを搭載可能の二つを削るだけでもっと良くなる。一番いいのを教えてあげようか?」


 「何ですか?」


 「全部削る」


 「それはあまりにあんまりでは?」


 「そうね」


 また、沈黙。彼女はもうハーブティーを飲み終えている。


 飲みすぎても良くないので二杯目は注がないままにする。彼女から目をそらして、窓に目を向ける。


 「ねぇ」


 「何ですか?」


 「飛びたい?」


 「は?」


 「空」


 「……………………」


 「どうして?」


 「言えません」


 「私にも?」


 「申し訳ございません」


 「謝ってほしいわけじゃないの」


 「申し訳ございません」


 彼女はため気をついた。


 彼女も、空を見上げた。


 「地上攻撃は、戦闘機パイロットとしてどう思う?」


 「不本意です」


 「どうして」


 「攻撃機の仕事です」


 「どこに武装がついているのがいい?」


 「胴体です。主翼はつけてほしくない」


 「なぜ?」


 「ロールが鈍くなります」


 「ロールとピッチ、どちらが大事?」


 「ロールですね」


 「ピッチじゃなくて?」


 「ピッチは、襲うのに都合のいい性能です。ピッチは逃げるときに便利なので」


 「ワンサイクルに入ってしまえばピッチが重要になりますが。ロールが鈍いとシザースに入ったときに叩かれることになります。1対1ではピッチは強みですが、敵味方が多いとロールの鈍さは致命的です」


 「packageはポッドで中心線に吊るす。機銃は主翼付け根下側ね。主脚は主翼と胴体とどちらがいい?」


 「練習機じゃないのですから、内側に開く形式の方が」


 「機構はフィレットに入るわね。主脚は前から後ろに降ろす方が良い?」


 「どうしてですか?」


 「故障した時に、風圧で降りる」


 「うーん……」考える。今までそんなことになったことはない。「そんなに壊れやすいですか?」


 「時々ね」


 「なら、別にいいのでは?多分、旋回などでGを掛ける事になりますから。都市伝説だと思ってましたが」


 「故障が?」


 「Gを掛けて降ろすのが」


 「そう」


 「機銃さえ機首になかったら燃料も積めるのに」


 「主翼ではなく?」


 「トラクタなら主翼と重心位置が重なるけどね。プッシャの場合重心が主翼とカナードの間に重心が来るから、そこの前に燃料を積んで、主翼のと一緒に使ってバランスをとることになる」


 「鳳流はカナードにフラップがついていましたが……」


 「オールフライングにして、ミキシングを掛ける。JATOを使ったことは?」


 「ありません」


 「いると思う?」


 「爆撃を受けた時は搭載する時間はありませんし、攻撃を受けているときに上がっても撃ち落とされるだけです」


 「何をしていた?爆撃されているときに。航空機は節約していたわよね」


 「先に上がれる時がほとんどで、上がれないときは本を読んでいました」


 「防空壕に行かなかったの?」


 「優先的に狙われるので」


 「機首の武装は外すべきね。やっぱり。4発級の爆撃機を落とすとき、理想を言えば何ミリ欲しかった?」


 「30mm」


 「何門?」


 「えーっと…………、大抵、近づく前に護衛が寄ってくるので、高高度から一撃離脱を繰り返すことになります。撃った後、距離があるまま二機目に移るときもありますが、一度下にでて、上昇時に一撃」僕は手で機体の動きを表す。「一回長くて3秒ですから、毎秒15発、毎分900発は欲しいです」


 「何門?」


 「毎分450発を二門か、900発を一門ですね」


 「packageのポッド化、武装の削減を提言しておこう」


 彼女は目を瞑った。

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