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 地下水道の中を、走る。


 滑りやすいコンクリートの上、転びそうになりながら。


 息を吐き、周りを確認する。誰もいない暗闇。見えるのは、ランプの光が届いている範囲だけだ。


 このあたりでいいだろうか。天井周りにマンホールがないか確認する。早々に気づかれても困るのだ。見えるのは、汚れた壁面だけ。


 もう一度周りを確認してから、座り込み、トランクを開けた。


 中からあふれるように出てきた紙束。これが唯一の、最後のものだ。


 ポケットの中から黒い塊を出し、ビニルパックを破いて中に突っ込む。


 どさくさ紛れに基地から持ってきたものだ。


 ランプを消し、残っていた油をトランクの中に注ぎ込む。


 真っ暗になる。


 不意に、何か聞こえた気がした。


 耳を澄ます。だが澄ませば澄ますほど何も聞こえない。


 反響して、自分の鼓動と混じった声を聴くのは困難だ。


 だが、確かに聞こえる。


 息を潜める。


 ポケットの中からそっと煙草とライターを取り出す。


 口に咥え、火をつけた。


 息を吐く。ゆっくりと。


 これがもし最期なら、最後まで吸っていたい。


 その欲求を抑えて、私は煙草を落とした。


 わずかな静寂。靴の音。


 安堵。


 呼吸


 これで、いい、


 目を瞑った。


 開いていたって意味はない。


 叫び声。五月蠅い。


 それも、一瞬のこと。


 聞きたかった爆音に、僕は包まれた。

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