第9話
亮二が連れていかれてから、体育館の空気は再び強張ったように張りつめてしまった。しかし、だからと言って生徒の誰かが動くということもなかった。仕方がない。何かして打たれるよりは、黙ってこのまま動かない方が余程いい。誰しもがそう思っていた。そして、俺もその中の一人だった。
なぜこんなことになってしまったのか。犯人たちの目的はいったい何なのか。わけのわからないことが起こりすぎ、さらに友人が打たれてどこかへ連れていかれてしまった。動くことができなかった。そんな自分に怒りと惨めさを感じた。
そんな時だった。周りの生徒たちがざわつき始めたのに気付いた。意識の外からサイレンの音が届いてきた。警察が学校に着いたのだ。あれだけの爆発があればいやでも住民に気づかれる。警察が来ることはわかっていたが、実際は混乱が続いたためか、意識から外れてしまっていたらしい。
しかし、やっとの助けに俺たちは安堵した。これで助かる。ここから解放される。誰しもがそう思って喜んだ。
だがしかし、犯人たちもこうなることはわかっていたのであろう。そうに決まっている。あんなに爆発音が大きいのだから、警察が放っておかないことくらいこの男たちもわからないはずがない。それが証拠に、警察たちが到着したのが外の犯人から報告された途端、大きな爆発音と地響きが体育館まで伝わってきた。
「到着した警察官に告げる」
放送用スピーカーから犯人の声が響いた。このスピーカーは体育館はもちろん教室や校庭にも設置されているため、犯人の声は警察や生徒たちにも聞こえた。
「それ以上の校内への進入は禁止する。もし、侵入を試みたら、人質の命は保証できませんので、ご注意を」
それだけ言い終えると、スピーカーから「プツン」とスイッチの切れる音がした。