第4話
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朝岡泰助は、部下の白井と共に東健一の自宅に上がっていた。玄関で警察手帳を東健一の母親に見せ事情を話すと、ちょっと不安げな顔を向けて「どうぞ」と、小さな声で家の中に招いてくれた。客間に通され、ソファーに座るよう勧められると、東健一の母親は落ち着かない様子で、部屋の隅に立っていた。このままでは話が進まないと、朝岡泰助は「健一君を呼んでもらえますか。」と、母親に声をかけた。すると、母親は小さく返事を返して、健一を呼ぶために客間を出て行った。
少しすると、階段を下りてくる足音が聞こえ、客間の襖が開けられた。そこには、右腕に包帯を巻かれ、肩にかけられた状態の少年が立っていた。少年の表情は、少し強張っていた。
「こんにちは。君が東健一君だね。私は愛知県警の朝岡泰助です。東君に聞きたいことがあってやってきたんだ。少し時間もらえるかな。」
朝岡泰助が挨拶すると東健一も会釈をして挨拶を返した。そのまま東健一は、泰助の向かいのソファーに腰を下ろした。
「なんですか、話って」
「いや、気づいてはいると思うんだが、昨日解決した君の学校で起きた事件について少し調べたいことがあるんだ」
「事件ですか」
扉がノックされ、東健一の母親がお茶を持って入ってきた。母親は、脇からそっと朝岡泰助たちに持ってきたお茶を渡し、お盆を置いて東健一の隣に腰を下ろした。
「事件に関しては、あまり僕も把握してはいません。お役に立てるとは思いませんが」
少しの沈黙の後東健一が言った。
「いや、構わないよ。私たちもまだ捜査段階だからね。いくつか質問に答えてもらえれば結構だよ」
浅岡泰助は、先ほど受け取ったお茶を一口飲むと、「それじゃあ、さっそく質問に入ろうか」と言ってコップを置き、白井に手帳を出させた。
「まずはじめに、爆発が起きた時東君はどこにいたかな」
「その時は、校舎裏の非常階段の下にいました」
「非常階段の下。それじゃあ、そのけがは爆発が原因なのかな」
「はい。いきなり三階が爆発して、降ってきた瓦礫を防ごうとしたときに腕を怪我しました」
東健一は、そう言うと包帯の巻かれた右腕を左手で軽くさすって見せた。
「何で、東君はその時そんな所にいたのかな。誰かと待ち合わせとか」
「いえ、あそこにいたのは日課みたいなもので、特に意味なんてありません」
「日課というと、いつも非常階段の下にいたということかな」
「いつもというわけではありません。日によっている場所は違いますね。あの日のあの時間は、たまたま非常階段の下にいただけです」
「日によって場所が違うって言うけど、他にはどんなとこに行くのかな」
「ほかにですか。そうですね。屋上とか三階の渡り廊下とか非常口付近の階段下とかですかね」
白井のペンが止まると朝岡泰助は白井と目を合わせ、頷き合った。
「どうもありがとう。ちなみに、東君は爆発が非常階段のある三階以外にどこで起こったか知っているかい」
「いえ、知りません。三、四回爆発したのは覚えてるんですが、どこで起こったかまではわからないです」
「そうですか。どうもありがとうございました。東君への質問は以上です。ご協力感謝します」