第1話
『ぼくの理想のヒーロー。
一、強くて、カッコイイ
二、女の子のピンチを助ける
三、悪をやっつける
四、みんなの人気者
六ッ美小4年 井上 武 』
*
―七月二十日 金曜日 朝日新聞
『西尾高校襲撃事件解決!男子生徒(西尾高校在学二年生)がヒーローに!』
水曜日に起こった西尾高校の襲撃事件。午後十二時に起こった爆発から始まり、昨日夕方まで及んだ今回の事件は、生徒たち、特に在学中の男子生徒によって解決された。
犯人たちは、… 』
*
7月の渡り廊下、特に最上階の剥き出しになっている渡り廊下は、暑い。雨のように降り注ぐ太陽の光を右手で遮る。額から、背中から、体の至る所から汗が噴き出す。制服が肌に張り付いて気持ち悪い。しかし、時々海から心地いい風がこの渡り廊下を通り抜けることがある。だから、僕は毎時間授業が終わると、この渡り廊下に汗まみれになりながら立っている。
また、海から風が吹き抜ける。それを頬に感じるのと同時に、僕は視線の先に意識を集中させる。
「きゃっ!」
視線の先からは、女の子の小さな叫び声が聞こえた。
「おお!白か…」
にやけるのを隠すために、太陽に熱せられた廊下の手すりに顔を突っ伏す。足音が通り過ぎるのを確認してから、顔を手すりから勢いよく離す。
「あっちー!」
いいものを見るための代償は大きい。
始業のチャイムを聞きながら、僕は意気揚々と渡り廊下を後にする。その後、僕は何も無かったかのように授業に戻っていくのだった。
遠くの方からチャイムの音が聞こえる。目の前が、真っ暗だ。首筋に、強張ったような鈍い痛みが走る。先程まで遠くから聞こえていたチャイムが、だんだんと近づいてくる。
「ん、んん~…」
どうやら、授業中に眠ってしまったらしい。まあ、あまり珍しいことではないが、特にここ最近は居眠りが多くなっている。そろそろ先生に目をつけられそうだ。
椅子を膝裏で押しのけ、席を立つ。いつもと同じように、あの渡り廊下へ向かおうと教室のドアに手をかける。
「おい武。また、いつもの場所に行くのか?暑い中ご苦労なことだな。」
教室の外に出ると、後ろから突然話しかけられた。振り返ると、いかにも優等生という雰囲気の男が、にやけ顔で立っていた。
「なんか用か、亮二?俺は、お前をかまっているほど暇じゃあないんだが。」
「また、随分な言いようだな。せっかく忠告に来てやったっていうのに。」
「忠告?それってまさか…」
「そう。そのまさかだ。」
亮二は終始にやけ顔だった。
「マジか。どのくらいだ?」
「もう、大分広まってるらしいぞ。下手したら、今日か明日には谷口に捕まるかもしれないぜ。」
「そんなに!」
亮二の情報に驚き、声が上ずってしまった。慌てて周りを見回し、声を抑えて続ける。
「今回はやけに早くないか?移動して、まだ二週間だぞ。」
「金子のやつが裏切ったんだ。多分、また東に脅されたんだろうけど。」
「ったく。しょうがねえな。まだ、そんなに楽しんでないが、捕まると面倒くせえしな。」
「そうだな。また、今後いろいろ言われるだろうが、そのうち静かになるだろう。それまで、お互い辛抱しような。」
「へいへい。」
亮二の励ましを軽返事で返すと、とぼとぼとまた自分の教室へ戻った。