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迎えとブレスレット

ブックマークありがとうございます!

今回は長めですよ。

木漏れ日の優しい春。木陰の涼しい夏。赤のきれいな秋。白くてふわふわの冬。

それが、一回り、二回りと巡り巡った春の日。

あたしは、十二になった。最後に会った時の兄さんと同じ十二に。

あれから六年経ち、あたしは元気に変わらず孤児院にいます。

兄さんの迎えはまだないけど……。いつまでも待つつもりです。

寂しいけど、でも、孤児院のみんなは優しくてあたしの家族だから、大丈夫。


「おい、マウ!」


洗濯物を干していたら、後ろから声を掛けられた。

あたしはよく孤児院の手伝いをしている。今日だって朝から、いろいろやって今は洗濯物。

今日はぽかぽか陽気でお昼ねには最適、洗濯物だって乾けばお日様の香りがしそう。


「うん?何、クオ」


振り向いた先には、同じ孤児院のクオがいた。まだ、七つのくせに生意気な男の子だ。


「いつまで、干してんだよ。やっぱおまえトロイな」


ちょっとムッカとくる物言いだけど、ただかまって欲しいだけて知っているんだからね。


「もう、ちょっとで終わるから。終わったら遊んであげるね」

「は、はあ?!い、いつ、お、おれが遊びたいなんて言った!!」

「フフフ。わかった、わかった。あたしが遊びたいだけだから」


そう言えばまた何か叫んだが、いつも通りのことだからスルー。

洗濯物を全部干し終われば、達成感と満足感でいっぱいになる。

さて、まだ何かブーブー言ってるくせに近くで待っていたクオに近づく。


「さあ、何して遊ぶ?」

「おれは、別に遊びたいとかじゃないからな!おまえが、おまえが!おれと遊びたいからだから、し、しかったなくだからな!!」

「うん、うん」


また、ブーブー言いだしたクオを見ながら、何をするか考える。

かくれんぼ、おいかけっこ、どれも楽しそう。


「マウ!マウ!ああ、居た!大変よ!」


慌てた様子で、こちらにやって来たアンル先生。何か起こったのかな。


「どうしたんですか?」

「ああ、よく聞いて!ギルがギルシアが、あなたを迎えに来たの」

「え……」


兄さんが、迎えに来た……?でも、まだ先のことじゃ…。


「おい、ギルシアて誰だよ。マウを迎えにて何だよ」


あたしの服をクイ、クイとして尋ねるクオ。あたしはそれに答える余裕さえない。


「ああ、そうね。クオは知らなかったわね。ギルは六年前まで、ここに居た子なの。マウと一緒の日ここに来たんだけどね、そのせいか、二人はほんと仲良くて、ほんとの兄妹のようでね。訓練を受けに行く時、約束したのよ。マウを必ず迎えに来るってね。ギルはそのまんま、力が認められたみたいで騎士になっのよ」

「…じゃあ、マウは。マウは、ここを出て行くのか」

「…うん、たぶんね。マウもそれを望んでいるわ、クオ」


途中から横の会話にもついていけなくなるくらい、あたしは困惑していた。迎えに来てくれたのは嬉しい。でも本当なのかな。実は今日、エイプリルフールとかじゃないよね。それにほんとに、迎えに来てくれたならなんで手紙とかを事前にくれなかったのかな。一応、近状報告として文通してたのに。

ぐるぐる回る思考。今自分が何を考えているのかすら、わからなくたってきた。

ああ、もう。こうなったら!


「アンル先生。兄さんはどこにいますか?!」

「え…。ああ、たぶん表にまだいると思うわよ。ギルのこと知ってる子達に囲まれてたから」

「ありがとうございます!!」


うん、いきついた結論は、会ったほうが早い、だ。

孤児院の裏にいたあたしは、建物の回りを走って回り込む。

ここを曲がれば孤児院の表。

曲がればそこには、背の高い黒い人が数人の子達に囲まれていた。


「…に、いさん」


そんなに大きい声じゃなくて、むしろすぐに消えてしまうほど小さかったはずなのにその人は、こちらを振り向いた。

間違えるはずない、あの人は。


「兄さん…!」


走る一秒でも早く会いたかったから。徐々に近づく、ギル兄さんもこちらに近づいてきてくれる。

あたしは兄さんに飛び付く、兄さんはなんなくあたしを受け止めて、抱き締めてくれた。


「ほんとに、兄さんなんだね。迎えに…来てくれたんだね」

「ああ、待たせた。マウ」


優しい声。ああ、落ち着く。やっぱり兄さんといると落ち着く。

話したいことがあったはずなのに、今は何も言いたくない。ただ、無言でお互いを確かめるように抱き締めあった。


どのくらいそうはしていたかなんてわからない。やっと離れた頃には、何時間もたっていたように感じた。

昔からだけど見上げないと顔が見れないほどに、高くなった兄さんを見上げる。あたしがチビだからだけじゃない。

すると少し不器用な手つきで、あたしの目元を拭った。どうしてだろなんて思ったけど、すぐにわかった。あたし、泣いてたんだ。


「マウ、迎えに来た」


その一言だけで嬉しいのに、昔みたいに優しく頭を撫でてくれる。だから、また涙がでてくる。あたし、泣き虫かも。


「おい、おまえ!」


後ろから誰かが走ってくる音がしたと思うと、後ろから飛び付かれてそう叫んだ。急でよろけてしまったけど、兄さんが支えてくれた。


「マウはわたさないぞ!」

「え……」


何がどうしたのだろうか。急に飛び付かれて渡さないて。ああ、また頭がぐるぐるしそう。


「ええと。ク、クオ。どうしたの?」


何とか絞りだしたのは、そんな問いかけ。

頭だけ動かし後ろを見ると、兄さんをこれでもかと睨んでいた。たいする兄さんは、睨んではいないがクオを見ていた。でも、兄さんの目は鋭いから意図しなくてもそう見えてるかもしれない。


「マウ、この子は」

「…孤児院の子だよ。えっと、兄さんが出ていった後に来た子で、クオていうの」


兄さんはあたしから離れ、クオのそばで屈んだ。それでもクオより目線が高いけど。


「俺は、マウを迎えに来たんだ」


クオは兄さんを睨んだまま何も言わない。


「俺は、マウを奪いに来たんじゃない」

「…マウはわたさない」


どうもクオは、あたしを渡したくないらしい。よくなついたものだ。はじめの頃は、すごく警戒して近づくこともできなかったのに。


「マウがここを選ぶなら、そうするが……」


兄さんはチラッとあたしを見た。あたしがどちらを選ぶのか最後はあたしに聞きたいらしい。


「……あたしはね。この孤児院がみんなが好きだし、離れがたいけど。同じくらい兄さんが大好きで、あの日の約束を一度も忘れてないくらい。…ほんとは、どちらも一緒にいたいよ。でもそれは贅沢すぎる。だからね…………クオ。あたしは兄さんを選ぶよ」


あたしはみんなが好きでも、やっぱり兄さんのもとに行きたい。兄さんのそばにいれば彼のこともわかるかもしれないし。それに結局はいつかここから出ていかなければならない。兄さんのもとだって、いつか出ていくだろうけど。

クオはいつもの生意気な顔じゃなくて、若干目を潤ませていた。泣き顔なんてそうそう見れるものじゃないから慌ててしまう。


「ええとね!クオ、あのね!手紙だって書くし、時間ができたらまた来るから。クオやみんなのことは、忘れないからね。それに、兄さん今日すぐここを立つわけじゃないでしょ」

「ああ、三日後に出発する予定だ」

「三日。あと、三日ここにいるから」


ぎゅっとさらにあたしにしがみつく力が強くなったかと思うと、急に離れた。このきにあたしはクオのほうを向く。


「……おれも、大きくなって騎士になったら、マウを迎えに行く!その時は結婚しよう!」


………。

その場が、しーんと静まった。

あたしも何を言われたのかわからなかった。なんとか回した頭で、子供によくある年上のお姉さんなんかに抱く思いだろうと解釈した。

でも、なんと答えよう。やっぱり子供相手なんだから。


「…ありがとうね。楽しみにしてる」

「約束だからな!!」


実に晴れやかな顔で笑うから、ちょっと罪悪感。



あのあと、固まったままの兄さんをなんとか戻して、孤児院の中に入った。

院長先生と正式に孤児院を出ていく話もした。もちろん、孤児院の子達にもあたしが出ていくこともちゃんと話した。そしたら、ほとんどの子に泣かれたり抱きつかれたりした。

兄さんとクオの二人の関係は、なんかあんまりいいとも悪いとも言えない、微妙な感じ。


今日は、孤児院を出ていく日。

三日なんてあっという間で、誰かが時計の針にいたずらしたんじゃないかなんて、思うほど。

今は朝日がまだ出る気配もないけど、もうすぐ出るかなてくらいの時間帯。そうまだ、夜に近い朝方なのだ。

あたしがなぜ起きているかというと、目が覚めてそのまま眠れなくなったのだ。寝れずすることもないから、最後だからと一緒に寝ていた子達の寝顔を堪能していたが、外の空気が吸いたくなったから今は孤児院の裏の林の中。

ほんとは建物の外を回るだけにしようと思ったけど、気づくと林の中に居た。

不思議とそれが可笑しいなんて思わなかった。


まだ春だからこの時間は、少し寒い。

でも、足は止まらず歩いていく。どこに向かっているかなんてわからない。

どのくらい歩いたかな。わからなくなった頃、開けた場所に出た。


川。


あの日の川だった。思い出す。兄さんが出ていった年の初夏のことを。

あの日、あたしは変わった。世界の見方を生き方を。それを気づかせたのは、夢や幻か現実どちらかわからないルーレと名乗る黒く不思議な魔女。しかも、ひどく美しい人。

あたしは最後にここに来たかったのかな。

川辺へと行き、屈んで水に触れてみる。さすがに冷たすぎる。


「…マウ」


急に響いた声は、なぜかしっかりと耳に残っていた声。美しい声。

その存在を確かめたくて急いで振り返ろうとするが、なぜか動きは緩慢で。

やっと振り向いた先には、あの日と何一つ変わった様子のないルーレが立っていた。六年という歳月がほんとに流れたのか疑わしいほどに変わっていないのだ。やっぱりこの人は幻なのかもしれない。


「約束どうり、会いに来たの。…ねぇ、マウ。右手を出してくれない」


いつの間にか、ルーレはあたしの前に立っていて、あたしは無意識に右手を伸ばしていた。


「ありがとう」


差し出した右手の手首には、きれいな緑色の石が付いたブレスレットが巻き着いていた。

とてもシンプルなのもので、緑色の石と焦げ茶色の紐だけで出来ていた。


「きれい」

「これは、いつかあなたの役に立つわ。……ねぇ、あなたは何も考えず、過ごせばいいわ。その時が来れば、私が手伝ってあげる」


何かの暗示のようにそれは、あたしの心に染み込んでいく。

どういうことと、聞く前に。


一陣の光が差した。


朝日が顔を出したのだ。まだ、完全に明るくなるには遠い。


「それじゃあ、また、いつか」


あの時と同じように、消えていく声。あたしは慌てて振り向くけど、そこにはルーレはいなかった。


「夢じゃ……ないよね」


前と違ってあたしの手首にはブレスレットがある。朝日を受けてきらきらと光ってきれいだ。


「そろそろ、帰らなくちゃ」


あまり長居すれば、あたしがいないって騒ぎになる。それは困る。



すっかり日は昇り孤児院の前には、ここを出ていくあたしと兄さんとあたしを見送るみんながいた。

みんなあたしにお別れや遊びに来てと言う言葉を言ってくれる。あたしもそれに一つ一つ答える。


「マウ!約束忘れんなよ!」

「………うん」


ちょっとじゃない、かなりの罪悪感。周りは微笑ましそうに見てるよ。

別れの時間は、とても早く過ぎた。もう行かないといけない時間。


「みんなバイバイ!手紙書くし、また来るからね!」


手をこれでもかと大きく降って、歩き出す。

進みながら何度も何度も振り返ってしまう。名残惜しいな…。


「マウ。足下、気おつけろ」


王都へは、馬車で一日半かかるらしい。いくら王都に近いと言っても、途中に山があるのだ。そこを迂回して行くと時間は嫌でもかかる。

孤児院のある町で見つけた乗り合い馬車にはそれなりの人数が乗っていた。


「大丈夫だよ」


何を隠そう、あたしは馬車は初めて。だから兄さんは、あたしを心配そうに見てる。相変わらずの過保護だ。

兄さんと並んで座る。少し経った頃、馬車は進みだした。お世辞にも乗り心地は良いとは言えないが、初めての身としてはちょっと感動。


ガタガタ揺れる馬車に揺られながら一日半の長旅を終え王都、ウェストラに着いた。うう、お尻痛い。

はじめてくる王都は広くて大きくてきれいで、キョロキョロしてしまう。でも、すぐにハッとする。田舎者ぼいよね。兄さんは別段気にしていなかったけどあたしは止めた。

ただでさえ兄さんは目立っているのに、あたしのこんな姿まで見られたら兄さんの評判まで下がる。


兄さんは、190はあるんじゃないかというくらいの長身で、黒いさらさらの髪は少し長くて鬱陶しそうにしている。鋭くてよく睨んでいると勘違いされやすい髪と同じ色の黒目。でも実はとても整っていて美形なのだ。服は相変わらずのシンプルな黒。でも、上質な物。もっと色みのあるものを着たらと聞いたが、いい返事はこなかった。

改めて見ると、あたしとの差を感じる。あたしはチビでまだ130代しかない。髪と瞳は特徴のない茶色。髪型もただのショートヘアー。顔だって地味め。服は孤児院で貰ったもの。孤児院を出るからといつもより良いものを貰ったが。

うん、差があるよ。ちょっと一人で落ち込んでしまう。


「…どうかしたか」

「へっ…。な、なんでもないよ!」

「そうか」


落ち込んでいたのバレたらしい。変な気使わせちゃったよ。

そう嘆いていれば。


「!?」


あたしの手なんかより大きくて豆だらけの手が、すっぽりあたしの手を包んだ。

兄さんを見るが特に何もない。

嬉しいな。昔みたい。兄さんと過ごした頃を思い出す。自然に笑みが浮かぶ。


「兄さん」

「なんだ」

「何でもない」


そんなやり取りすら嬉しい。

長旅の疲れもたくさん歩いた疲れも手を繋いだことで、忘れてしまう。我ながら単純。


「マウ着いたぞ」


やっとたどり着いた場所は、王宮の近く。

なんでもここら辺は王宮に仕える人達が、暮らすために王宮側が整備した所らしい。騎手や兵士だと孤児院出の人もいるから結構破格の値段で家が買えるとか。でも独り身の人は寮みたいな所で、共同生活する人が多いらしい。

兄さんはあたしと暮らすために騎士で稼いで家を買ったみたい。

その家は、二人で住むにはちょっと大きめででもそこまで大きい家じゃない。


「……なかなかの家だね。兄さん頑張ったね」

「気に入ったか」

「うん。ありがとう兄さん」


ここで兄さんとの生活が始まるんだ。ちょっとわくわくだな。

よし。

あたしは扉まで歩いて振り向く。


「ただいま、兄さん」


兄さんは驚いた後、少しだけ口元を緩ませて。


「おかえり、マウ」


あの春の日から六年後の今。

兄さんとの二人暮らしが始まります。

何が起ころうとあたしはめいっぱい楽しみます。

これでプロローグは終わりです。


この回は書くの楽しかったです。クオや手を繋ぐシーン、『ただいま』『おかえり』と言い合うシーン、どれも楽しかったです。この兄妹だから書けたものもありますし。


そして次から、本番です。

物語がどうなっていくか楽しみにしていて下さい。


読んでくれた方ありがとうございます。

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