扉の『鍵』
「そりゃ〜、そうでしょうよ」
光葉からサクラと共に扉をくぐれなかったことを聞くと、ギンはあっけらかんとそう言い、ケラケラと笑った。
「どういうことだ? 」
「教えてあげてもいいけど、貸しが二つになるわよ。いいかしら? 」
「かまわん。教えてくれ」
光葉が答えると、ギンは
「そ〜ね〜、サクラちゃんが借りを返してくれるなら教えてあげてもいいけど」
と視線をサクラに投げる。
サクラはギンが何を引き換えにしようとしているのか恐ろしいと思った。
しかし、サクラを『帰す』話をしているのだから、食われることは無いだろうとも思う。早く帰りたい。その気持ちがサクラを大胆にした。
「わかりました。こちらに来てから光葉さんにはお世話になりっぱなしですし、私に出来ることならなんでも言ってください!! 」
ギンはその言葉を聞くと、嬉しそうに手を打ったが、光葉は頭痛を起こしたかのように額に手をあてて低く唸った。
「妖狐の一族はヒトから嫁取りを慣習としていたな。まさか、サクラを嫁に迎える気じゃなかろうな? 」
「さあね。後のお楽しみ。」
ギンは意地の悪い笑顔を光葉に向ける。
サクラには、二人が仲良くじゃれているようにしか見えず、まるで他人事のようにポカンとその様子を眺めていた。
そして、まだ何かを言いたそうな光葉を無視して、ギンはサクラに向かい合った。
「もののけと共に異界の扉をくぐったヒトが、元の世界に戻るには『鍵』が必要なの」
「鍵……ですか」
「どんな鍵だ。どこにある? 」
サクラと光葉が聞き返す。
「も〜、せっかちなんだから。今その説明してるんじゃない。
それでね、その『鍵』っていうのは、ズバリ!来るときに一緒にくぐった『もののけ』よ」
つまり、サクラが元の世界に戻るには『翠』に共に扉を一緒に通って貰わなければならないということだった。
しかし、黒猫の翠とは光葉に助けて貰う直前に別れてしまった。
しかもサクラは気絶していた間の事だ。
手懸かりは、ーーーー黒い毛皮、翡翠の瞳、そしてねこまたであろうということだけだった。
「ギンさん、ありがとうございました。私、翠を探します」
「ちょっと待て、俺も行く。サクラ一人では危険すぎる」
「うふふふ。また困ったことがあったらいらっしゃいね」
屋敷を辞す前にギンはサクラだけを呼び寄せ、何かを耳打ちした。
「……あ、はい。わかりました。」
「というわけで、サクラちゃんが無事帰れることになったらよろしくぅ」
そして、ギンはニコニコと二人を見送った。
光葉とサクラはまず光葉の家に戻り準備を調え、『ねこまた探し』をする事となった。