翠の行方
「この石から翠の妖力を感じます……でも、どうして。今まで感じたことなかったのに……」
光葉はサクラの見鬼の才能が開花し出したのだと分かった。
薬を飲ませる為とはいえ、口づけをした際に微量の妖力がサクラに流れ込み、それを刺激したのだということも。
「店主、この石はどこで手に入れたのだ」
「こいつを買ってくれたら話してもいいよ、お兄さん」
男はニイッと口を横に引いて笑った。尖った牙が覗いて見えた。
「分かった。こいつを貰おう」
「まいどありぃ〜」
銭を払うと光葉は、店主の男に再度問いかけた。
男は銭を懐にしまうと、質問に答えた。
「二日前に飢えていた黒猫に、握り飯と交換に造らせたのよ。お陰でいい商売になった」
懐を着物の上から撫でさすり、ニンマリと笑う。
「その黒猫と逢ったのはどの辺りだ」
「そうだな、キツネの里へ行くと言っていたな……なんでも誰かの子孫を助けるためにキツネに嫁入りしたヒトに会いに行くとか……興味なかったんで余り詳しくは聞いてなかったんですがね」
「ふむ。その子孫とやらを助けるために黒猫は異界に来たのか……。存外にいい情報だったな。店主、ありがとう」
光葉はさらに幾つかの銭を礼に渡すと、その場を離れた。
「光葉さん、今のはどういう……」
「行き先は分かった。急ぐ事はないが、記録を調べてくれている火車殿に連絡を入れておこう。サクラ、他に見たいものは無かったか?」
「大丈夫です」
サクラは逸る気持ちを抑えて、力強く答えた。
「サクラの異界の扉の鍵殿は葛葉殿……つまりギンのところに向かっている」
「え?」
「つまらぬ回り道をしたもんだ」
光葉は額に手を当て、クックッと笑った。
「葛葉殿の奥の間には人間の世より嫁いで来られた女性が住まわれている。恐らく子孫殿の事で、その方に会いに行くのであろうよ。今夜はこちらにお世話になって、明日ギンのところへ参ろう」
サクラは光葉が差し出した手を握り、賑やかな通りをキョロキョロ楽しみながら、火車の屋敷に向かって歩いた。
光葉は、楽しげに通りの店先を見ながら歩くサクラを、幾分寂しげな感情の見える眼差しで見つめていたのだった。




