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異界の扉  作者: 紅葉
異界の扉
18/47

出発の朝

「おはようございます」


御世話になったお礼にと奥さんの朝御飯作りを手伝わせて貰った。


水汲みは桶の重たさにフラフラするし、竈の火をおこそうとすれば、煙でゴホゴホ……。これ、お手伝いになってるんでしょうか?


本来は子どもの仕事だっていうんだから、太郎くん偉いな〜。

太郎くんは私のやることを隣でヒヤヒヤしながら見守ってくれたけど、見るに見兼ねたらしい奥さんは、野菜を洗う手伝いを任せてくれた。


選手交替して、早速てきぱきと自分の仕事を片付ける太郎くん。

やっぱり邪魔してたんだね。ごめんね。


年相応に可愛いところも発見したけど、初めて森で会ったときからしっかりしてるな〜って、思っていたのよね。

『自分の仕事を持つ』って、子どもを成長させるんだなぁ。


さて、野菜洗いは私でも家のお手伝いでしていたから、自信あるよ!!

井戸の水汲みさえ出来ればね!!


うぐぐ……。

滑車が付いていても、水を汲んだ桶は重たい。


奮闘していると、後ろからにょきっと手が生えて、ロープを引くのを手伝ってくれる人が……。


「光葉さん、おはようございます」


束ねていない黒髪がさらさらと肩にかかって、胸元の合わせからは、ムッキムキではないものの、しっかり筋肉が付いているのが分かる程度にはだけていた。

寝間着の浴衣姿が無駄に色っぽいです。

目のやり場に困っちゃうね。


「おや、真っ赤だ」


ニヤニヤとからかいながらも、汲み上げた水を、野菜洗い用の桶と、自分の顔洗い用の桶に注ぎ分ける。


「朝から仕事してましたから、暑くて!! 」


取り合えずそういうことにして、視線は野菜にロックオン。

菜っ葉と大根を洗うことに集中した。



朝ごはんは、ごはんに大根のお味噌汁、菜っ葉のお浸し、焼いた川魚。


河童だからってきゅうりばかり食べていると思っていたのは偏見でした。

でもやっぱり、きゅうりはみんなの

大好物らしい。





こっちの世界じゃビニールハウスがないから季節のものしか食べられないんだそう。

本来それがいちばん美味しいし自然の姿なんだけどね。


無事に帰れたら、うちの家庭菜園のきゅうりを送ってあげたいな。


朝ごはんを戴いて、片付けを手伝ったら、いよいよ出発の準備。


奥さんからは、朝炊いたごはんで作ったおにぎりを持たせてくれた。


お医者さんである旦那さんからは、何種類かの薬草と薬を頂いた。

フムフム。傷薬、解毒薬、熱冷ましですね。

前みたいなことが、またあるかも知れないからって心遣い。本当にありがとうございます。

でも、あんなこと度々あったら嫌だーー!!


心遣いを風呂敷に包んで、肩に持つと、いざ出発。


皆と並んで見送ってくれていた太郎くんがトコトコ寄って来た。

無言でグーに握った右手を差し出す。

「サクラ、やる」

何かな〜と手を差し出せば、手のひらに落ちてきたのは、紐を付けた昨日の妖石のペンダントだった。淡く青色に光っている。


何だか偉そうな口調が可愛い。

朝の仕事のドジっぷりからすっかりタメ口になってしまったようです。


「ありがとう」

膝をついて両手でぎゅっと太郎くんを抱き締めた。


「すっかりお世話になり、ありがとうございました」

「お気をつけて」

「おねえちゃん、またきてね」


別れの言葉を交わして、光葉さんの首にしがみつく。

背中と膝裏を支えて横抱きにされると、もうすっかり日が高くなりかけた大空に舞い上がった。


いざ、『猫又の里』へ。

翠がいたらいいなぁ……。



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