河童の宝物 1
光葉はギンの屋敷から辞すと、その敷地を出る前にサクラの肩に簑を着せかけた。
「これは、『隠れ簑』と言ってな。これを着けると周りから見えなくなる。ただ、気配を消すには本人の修行が必要だし、もののけどもは鼻が利くから、まあ気休めだが」
「やっぱりもののけは人間を食べるんですか?さっきのギンさんって方も人を食べるようには見えなかったんですけど…… 」
「ギンも人間は食わない。奴は妖狐というキツネの種族の中でも、稲荷の神に仕える神狐を輩出する家柄の当主だ。神に仕える神狐には妖力より霊力が高いものが選ばれるが、霊力は人間と交わってこそ現れる。だから当主は代々ヒトから嫁を迎えている。
だが、ギンはそれを拒んでいるようだがな」
サクラの脳裏に先ほどのやり取りが浮かんだ。そして、まだお礼を言っていないのに気がついた。
「光葉さん、戻ってきてくれて、迎えに来てくれてありがとうございました。」
「いや、こちらこそ不覚だったとはいえ、置いていってすまなかった。心細かったろう?」
見上げる位置にある光葉の目は真っ直ぐサクラを見つめていた。その目はとても優しい。
「ところで、ギンとの内緒話はなんだったのだ?」
「あーー、人間の世界に行きたい所があるから案内して欲しいってことでしたけど……まずかったですか」
ちらり、とサクラは光葉の表情を窺った。
「ギンがどこに行きたがっているのか見当はつく……が、サクラと二人きりでは行かせられん、俺も行く。さて、お喋りは終わりだ。着くまでいい子で黙っててくれ」
光葉はサクラを横抱きにすると、翼を広げて空に舞い上がった。
腕の中でサクラはいつのまにか光葉を信用して身を預けている自分に気づいた。最初から何故か光葉はサクラに優しかった……そこまで考えると、父以外の男の人に抱っこされていることが恥ずかしく、何故かドキドキしてきた。
意識し始めると、ウブなサクラは真っ赤になって空中にいるのも忘れ、じたばた暴れだした。
急に暴れだしたサクラに光葉は驚いて落としそうになる。
「サクラ!頼むから静かにしていてくれ」
「ごめんなさい」
慌ててサクラは謝る。黙っててくれと言われたのをすっかり忘れていた。
その声に反応したか、遠くからもののけが近寄ってきた。その数およそ200……
わらわらと群がってやってくる姿にサクラは思わず「ひぃっ」と声にならない悲鳴を上げた。
光葉はと言うと、視線はもののけたちを見据えたまま、片手でサクラを支え懐から団扇を取り出した。
「なんでっ?団扇……? 」とサクラは思ったが、光葉は答えることなく、周りとの間合いをはかると、団扇をひと煽ぎした。
すると、軽く煽いだとは思えない突風が起こり、風圧でもののけ達は四方八方に散らばった。
「逃げるぞ」
光葉は高度を下げていく。
眼下には黒い森とその間を雄大に流れる川があった。
「キュイ? 」
河原で遊んでいた河童の子ども達は空を見上げたーーーー




