2話 「竜」
俺の名前はリュウト=アルブレス。まだ20になったばかりの新米剣士だ。
ここに封印されていると言う竜神の力。正直眉唾な話であるとは思う。
だが、邪竜神は真実存在した。・・・ならば、対する竜神も存在したのかもしれない。
俺はそんな馬鹿げた話に賭けてみた馬鹿な奴だということだな。暗い洞窟をランプの明かりを頼りに進んでいく。
魔法の研究が進んだ今では明かりをつける魔法「ライト」はそれこそ子供であっても使える魔法になる。それゆえに使われなくなり古道具屋でただ同然で売られていた物を買い取ったというわけだ。
なんで? って・・・それは俺がライトさえも使えないからだ。
その哀れみに満ちた目はやめて欲しい・・・。
さて、いま俺の前には巨大な扉がある。幸い扉自体は開いている。問題は罠の類がないかどうかなのだが・・・俺には解除どころか有無を見分けるスキルもない。分岐もなかった以上進むしかないんだが
「うお!?」
・・・ふ~、突然扉が光った時には驚いたが、特に何もないようだ。さぁ、先に行くとしようか・・・。
「ふむ、どうやら我が試練を受ける資格はあるようだな・・・」
「ぐぉぉぉおおおおお!!!」
突然響き渡る轟音。恐る恐る先を確認すると広場があり・・・そこにいたのはドラゴンだった。どうやら先ほどの音はドラゴンの鼾だったらしい。奴の足元には転がっている骨は、おそらく俺と同様のことを考えた者たちの成れの果てだろう。
ここで命を惜しんで逃げ出すようならここまで来てはいないが、同時にドラゴンと戦って勝てるとは思えない。そもそも、そんな力があるならこんな場所に来る前に空中城に乗り込むさ!
・・・つまり、俺のとるべき手段は一つしかないってことだな。
抜き足、差し足、忍び足。・・・情けないなんて言わないでくれ。折角寝ていてくれているんだ。そこを利用しない手はないだろう?
・・・こつ~ん。うっかりと蹴っ飛ばしてしまった小石はころころと転がっていき、よりによってドラゴンの鼻先に当たり・・・
「ぐぉ!?」
ドラゴンの体格からして非常に小さなはずのその衝撃も当たった場所の所為だろうか、その眠りを妨げるには十分だったらしい。
「ぐぉぉぉおおおおお!!!」
今度は鼾ではなく、咆哮だ。打つ手は一つ!それは・・・逃げるぞ!!
そしてまだ寝ぼけているのか、動きに精彩を欠くドラゴンの横をすり抜けるように無事に広場を抜けることに成功した。ふ~、死ぬかと思ったぞ・・・。
「ふむ、ドラゴンと偽りの屍に怖気つく臆病者ではなく、戦いを選ぶ愚を冒す自信家でもなく、並のものなら身動きさえ出来なくなる咆哮を聞きながらあの判断力。・・・我が最終試練にまで駒を進めるものは久しぶりだな」
ドラゴンの広場を抜け、しばらく道なりに進むと壁が徐々に人工的なものへと変っていく。そして・・・
「ここは神殿か?」
洞窟の最深部は神聖な雰囲気の神殿だった。だが、肝心の竜神の力とやらは見当たらない。目の前にあるのは巨大な竜の石像だけだ。
「やはり、所詮は伝説だということなのか?」
「良くぞ来た。汝は我が力を得ることを望むものか!?」
響き渡る威厳に満ちた声。内容から考えて声の主は竜神なのだろう。だが、その姿はどこにも見当たらない。
「どこだ!!どこにいる!?」
「何を言う?我はそなたの目の前にいるではないか?」
目の前?・・・ってことは??
「あなたが竜神なのか?」
俺は石像にそう問いかけた。
「厳密には光の竜の力を預かりし者である。光の竜は神ではなく、すでに滅んだ」
そうか・・・だが俺は神の力が要るのではない。目的を達成できるなら力の質など問いはしないな。
「今一度問おう。汝は我が力を得ることを望むものか!?」
ただで渡してくれるとは思ってはいない。だが、なんとしてもその力・・・貰い受ける!
「ああ!俺にはその力が必要なんだ!!」
「ならば我を打ち倒し、汝の力を見せてみろ!!」
その言葉と共に洞窟全体が揺れたかと思うと、竜の石像の目に光がともった。