10話 「竜神の血、その真価」
「さて、いつまでも偲んでいてもしょうがないでしょう? 少し大事な話をしましょうか」
内心に複雑なものを抱えながらもレヴァートを送っていた俺たちにレーチェルが話しかける
「大事な話?」
レーチェルの大事な話は結構怖いと思いながら俺が返した言葉に
「どっちかというとアキちゃんにね。アキちゃん、あなたはリュウトくんの血を飲んだことを知っているのかしら?」
「えっ!? 私がリュウトの血!? いつ!!?」
そういえば言っていなかったもんな。あまり気持ちいい話でもないだろうしな
「三百年ほど前にだ。ほら、アキが不老を求めて暴走したことあったろ? どうやら俺の血には回復の力があるらしくてあの時に使った。今回も使おうとしたんだが、二度は効かないらしくてな」
あえて話すことでもないとは思っていたが、逆に隠しておかなければいけないことでもない。ここは素直に話すべきだろう
「回復の力ね・・・竜神の血の力はそれだけじゃないわよ」
「「えっ?」」
俺たちの声が重なる。いや、声なき驚きを出しているメイも含めれば三人というべきなのだろうか? 確かレーチェルは先代の血を飲んで強くなった的なことをカーミラが言っていた気がするが、アキも強くなったりするんだろうか?
「色々あるんだけどね、一番の力は不老の力よ」
「「はいぃぃぃ!?」」
また二人の声が揃った。メイなどは思わず天井を見上げている。アキから見れば、あんな無茶をして求めた不老。俺からすれば止めた理由の大部分は危ないからというのもあるが、俺と同じ地獄を味あわせたくなくて止めたものが意図せず俺自身が与えていたなど笑い話にもならない
「アキちゃん、あなたはこの三百年の間に体が成長したかしら?」
レーチェルのその言葉にアキがじっと自分の胸を見る・・・なぜそこを見るんだ、アキ
「・・・大きくなってない」
「不老の力っていうのは簡単に言えば時間経過に対する変化をなくす力よ。老いも成長も時間により変化という意味では同じもの。当然ながら外的要素による変化はあるけどね。あなただってリュウトくんだって特訓すれば強くなるでしょう? 元々、竜神が自分とともに戦う仲間を作るための力だったって説もあるわ」
告げられる事実に頭が痛くなる。それってまさに俺が回避したかった状況そのものじゃないか。というよりもだなぁ
「レーチェル・・・何故それを俺に言っておかないんだ」
「あら? 言ったでしょう? 『その力は強すぎる。ひょっとしたら死者さえも蘇らせるかもしれない。生者の運命を破壊するかもしれない。本当にあなたが大切な、助けたいと思うものだけに使いなさい』って」
「確かにそれは聞いた! だが、情報が足りなすぎるだろ!?」
いまさらどうしようもないとはいえ文句ぐらいは言いたくなる。三百年もアキと共にあった命を支える力だもんなぁ。いまさら竜神剣で斬ってしまうと何が起きるかわからなすぎる
「そうか・・・私これでリュウトとずっと・・・」
成長しないと分かった時はこの世の終わりみたいな表情していたが、今は何やらうっとりと体を抱くようにしているしなぁ。なんかリデアは『どういうことよ!』とか『期間限定の貸し出しだったはずよ!』とか叫んでいるけど聞こえていないみたいだし。こういう時はメイが・・・ダメだ、まだ放心状態から戻ってきていない
「それにね、その力はまだあなたの中で眠っているはずよ。探してみなさい、意識して自分の中からね」
リデアの叫びは聞こえていなかったのにレーチェルの声はしっかり聞こえたようで真剣な顔で目を閉じて
「・・・ひょっとしてこれ? うん、感じる。暖かい、リュウトの力。ずっと、私の中にあったんだ」
「あなたが冥王の・・・レヴァートの洗脳の力に多少なりとも抵抗できたのもそれのおかげでしょうね。ずっと守っていてくれたのよ、リュウトくんの力がね。だったらもうわかっているでしょう?」
レーチェルにしては珍しく
「何か変なことを考えていないかしらリュウトくん!?」
「な、なんのことだ?」
いくら何でも反応速すぎるだろ!? っていうか当たり前のように心の中を読んでくるな! あ~、レーチェル『らしく』語りかけられた優しげな声にアキがしっかりとうなずく
「お願い、力を貸して。私はもっと強くならないといけない・・・リュウトのために」
頼むようにそういったアキの体が光り輝いて! 間違いなくアキの力なのに、なぜか俺自身を感じる不思議な光で
「アキちゃんはリュウトくんと違って力の使い方はばっちしだからよ。自分の中に眠っている力に気が付けば、どこにそれがあるのかを理解できれば引き出すのはわけない話だわ。それが本当に正しいことなのかどうかは私にもわからないけれど」
優しげに嬉しそうに見つめていたレーチェルの顔が最後に少しだけ寂しげに曇る。同じように竜神の血で強くなったレーチェル。仲間としてそれなりに複雑なものがあるのかもしれないな
「大丈夫、私はこの力と付き合っていける。この力と共に生きていける。だからリュウト、私をあなたの役に立てて」
これからますます波乱に満ちた未来が待っていそうな気もするが、とりあえずアキが嬉しそうだから良しとしておくか?
というわけで不老組(リュウト・リデア・レーチェル・カーミラ・リリィ・ルーン・・・アイが入っていないのはちょっとした秘密があります)にアキが加わりました! あくまで不老であって不死ではないですけどね
リデア「ぐぬぬぬぬ! まさかアキが不老の力を手に入れるなんて計算外だわ」
え、えっと何故かリデアは悔しそうなんですが
リデア「当然でしょ!? エルフなんて八千年ぐらいでいなくなるから、その間だけ兄さんを貸してあげてもいいと思ってたのよ! 不老なんて冗談じゃないわ! 兄さんを盗まれちゃうじゃない!!」
そもそもリュウトはリデアの所有物ではない・・・というと凍らされそうなので黙っておきましょう。さて次回は第六部のエピローグ(予定)長かった物語の区切りをお楽しみください
リデア「ア~キ~! ぜ~ったいに兄さんを返してもらうんだからね~~~!!」




