5話 「闇の暴走」
「なるほどな、それで怒りのあまりにって訳か。その口調はルナの真似っていうことか?」
「その通りさね。あたしの怒りも憎しみも悲しみも・・・目的だってずっとあの人のものさね。もっとも自分の本当の喋り方なんてもう忘れちまったさ」
再び戻ってきた漆黒のリリィの世界。俺の問いかけに当然のように答えるはリリィ・・・だが、納得のいく答えじゃないな。
「何が怒りも悲しみもルナのものだ。それはお前自身の弱さだろうに・・・それをあの人に押し付けているだけだろう?」
気持ちはわかる。わかるが認めてはいけない・・・世界はリリィが絶望しているほどには汚いものばかりではない。よりよい明日に変えるべき動くは正しい。けれどそれを力ずくでやっていいはずがない。まして諦めて壊す権利など誰にもあるはずがない!!
「それがどうしたんさね? 坊やがどう思おうとあたしは止められないさね。それに今ならば坊やにもあたしの思いがわかっているはずさね!」
!? 黒い球体? あたりがすでに闇その故に目立ちはしないが、アレは危険だ・・・絶対にあたるわけには!
「逃げるさね? それは正解さね・・・あたしが逃がすと思っているならば・・・だけれどもね!」
っ!? 避けられない!? ・・・? なんだ? 別に何ともないぞ? こんなものだというのか? ・・・ならば俺がこの空間を壊して、すべてそう、全て壊しつくして!? なんだ? 俺は何を考えた?
「あはは、効いてきたみたいさね! あの過去を見たのならば、あんたの精神状態もあたしに近くなるのさね! ならば、あたしの悪意と絶望そのものを受けて・・・無事で済むさね?」
壊す・・・いや、違う・・・壊す・滅ぼす・・・くっ、落ち着けよ・・・全て俺が壊す・守る・壊す・壊す・・・壊す!!
「やっぱり坊やは『あの存在』の影響を受けているようさね。深い怒りと絶望は暴走を引き起こす・・・さて『あの存在』の力のごく一部が流れ込んでいる坊や相手にどこまであたしの力が通じるかしら」
さっきまでが坊やの試練とするならば、これはあたしの試練ということになるのさね? 『あの存在』に本気で勝とうと思うならば、この暴走は必ず克服させなければいけない。もしも・・・あたしが負けるようなことがあったら後のことは頼むさね、ルーン。
「さぁて、さっきまでの坊やならば死は免れないとこさけど、今の坊やはどうさね!? 追いやる闇の底より来たりし火よ、哀れな獲物に終わりなきダンスを! 『ダンシングヘル』!」
吹き出すは漆黒の火。エルフの嬢ちゃんたちが使う光の火とは性質が全く違う火さね。こっちは純粋な破壊力重視・・・さぁ、どう動くさね坊や?
「・・・火など・・・吹けば飛ぶものだ」
はっ、なるほどさね。でもね、この火をただの一振りで消し飛ばすのは坊やぐらいのものさね。次元崩壊位の衝撃じゃびくともしないはずなんさけどねぇ・・・悪いさね、ルーン。あとの計画はあんたに任せたさね。ふふ、これもあんたの忠告を聞かずに先走った所為さね。ふふ、せめてこの状況にする前にあたしの封印ぐらい解いておくべきだったさねぇ
「あたしももうずいぶんと長く生きたさねぇ、今更惜しむ命もないさね。だけど・・・坊やを正気に戻しておかないとこの先の計画も何もなくなっちまうのさね!」
だから、あたしの命に代えてもこの場は戻ってもらうさね!
「スト~ップよ、リリィ。まったく、だから今は本気でかかるなって言ったでしょう? まだ坊やにこれをやるのは早いわよ・・・いつかは乗り越えないといけない壁だけどね」
・・・だというのになんだってあんたが来るのさね、ルーン。
「何を馬鹿なことを言っているのさね。ここはあたしが責任を持つさね・・・あんたまで巻き込まれたらそれこそ・・・」
「フフ、そうねぇ・・・たしかに封印状態の私とあなただけではちょっと辛いかもしれないわね。でもね・・・きっと彼女も来るわよ?」
彼女? 考えるまでもないさね。こんな馬鹿げたことに首突っ込んでくる女なんてあいつしかいないさね。
「初めからあてにされているっていうのも気に入らないけど・・・悪いけどリュウトくんも、そしてあなたたちも今の段階で退場されるわけにはいかないのよね」
まったく、相棒であるルーンならばともかく異物のくせに当たり前のように私の世界に侵入してくるなんて・・・あれから5000年でどれだけ強くなったというのだが。やっぱり、同じ『目的』でもあんたの思いの方が正当だってことかしらね・・・光の女神様?
「いつから気が付いていたんさね?」
「あら? あれだけドンパチしておいて私に気づかれないとでも思ったの? それは私を舐めすぎ・・・さて、お喋りはここまでよ!」
そうさね、今だけのスペシャルチームで未来とやらを勝ち取ってやろうさね!!
さて、これを予想していた人はどれだけいるか! 僕は確実にいないと思います^^
リデア「そりゃいないでしょうね・・・。1人でもとんでもないのが3人チームを組むってどういうことよ!? 世界でも滅ぼすつもり!?」
まぁ、3人ともやろうと思えばできますけどね・・・。っていうかリュウトやアシュラ、それに君だって世界を滅ぼすぐらいのことはできるでしょうに。
リデア「ま、まあね。単純に周囲には影響が出ないようにしているってだけで枷を外せばそれぐらいの威力は・・・。もっともやっても誰かが結界で防ぎに来るでしょうけどね」
まぁ、そうなるでしょうね。そして今回の状況はリュウトに流れ込んでいる力が彼女たちを上回っているということなのです。
リデア「なんなのよ、そのとんでもない力って。それにわざわざそんな状態にして元に戻そうとするなんて」
普通に考えればそうですね。しかし! 今でなくてもこれはリュウトが・・・そして彼女たちが越えねばならない試練なのです! ってところで次回に続きます!
リデア「あ、こら~~~!! 待ちなさいよ! 兄さんはどうなるのよ~~~~!!」




