3話 「妖樹の森」
息を切らせてやってきた東の森。森の入り口からでも見えるあの大きな気が目的の木よね・・・凄く遠そうだけど頑張らなくちゃ! 僕・・・じゃなくて私は女の子でいたいんだ! うう、私もどんどん侵食されてきてるみたい。早くしないと・・・ブルブル。
「・・・妙だな。」
とアシュラがぽつりと呟く。・・・ついあの大きな胸に目がいってしまうのは女の子としてなのか男の子としてなのかどっちなんだろう?
「どうしたの?」
話す言葉も考えることもいちいち気をつけてないと男の子の言葉遣いになっちゃう。・・・気にしすぎなのかもしれないけど気にしてないと私が消えちゃうようで怖い。たぶん、リュウトもだよね。
「いや、この森の植物たちは噂に聞く魔界の食肉植物たちの特徴に近い。・・・危険ゆえに魔界では根絶やしにしたはずだが?」
・・・えっ? な、なんか凄くいやな予感がするよ、それ。
「いや、それはどうやらビンゴらしいぞ。・・・よっと。」
リュウトが私の事を軽々と吊り上げる。女の子になっても力、強いんだね・・・じゃなくて! 私が立っていたところに突き刺さっている触手は何!? ひょ、ひょっとして森全体が・・・
「ちっ、さすがにこれだけの量をさばくのはオレでも時間がかかるな。リュウト! アキ! 邪魔な奴だけ相手にして突っ走るぞ!」
「わ、わかったわ! え~い! ファイヤーボール! うう、なんで天界に魔界の植物がいるんだ~~!!」
「どうせ、天使か神の誰かが研究用に持ってきた奴が自生したってところだろう。・・・やりそうな人に心当たりがあるわ。」
うう、僕もリュウトも男の子の言葉遣いと女の子の言葉遣いがごっちゃになってきちゃってる。・・・なんでアシュラは変らないんだろう? と、とりあえず
「レーチェルさんの馬鹿ぁ~~~!!」
「クシュン・・・風邪かしら?」
「レーチェル様が引くわけないじゃないですか。きっと文句言われているんだと思います~。レーチェル様が研究が終わったからって放っておくからあんなことになっているんだから~! 天使や神さえも最近は近づけないんですよ~。」
「・・・他の神や天使が軟弱なのよ。」
「はぁはぁ、こ、この先が例の大樹だよね」
「ええ、もう見えてるしね。問題は・・・」
「この分厚い木の壁というわけか。オレが殴ってもつらぬけんとは・・・。」
でもどんなに堅くても所詮は木! ここは僕に任せてよ! あれ? 僕って元々は自分をなんて呼んでいたっけ? まぁ、いいか。
「真紅なる業火よ。我が命の火を糧に偽りの生命となれ! ファイヤーバード!! ・・・そ、そんな!?」
集中した8匹のフェニックス・・・森ごと燃やしてしまうかもという懸念はあったけど、まったく燃えていないなんて信じられない!
「アキ! 逃げて!!」
えっ、リュウトの声? うわっ? 何この触手の群れ! こ、この、触るな!
「はぁぁあああ! ・・・アキ、大丈夫?」
「あ、ありがとう。リュウト。」
すぐにリュウトが触手を斬ってくれたから助かったけど、あのままだったら身動きできなくなってた。だけど、この壁を何とか出来ない限りはいずれは・・・それに迂回しているような時間があるとは僕たちの現状を見る限りとても思えないし。・・・もう、女の子の言葉遣いが出来なく、使いたくなくなっている。
「ちっ! 次から次へと! 修羅・・・雷鳴撃!」
一つ一つは怖くない。数だけが厄介となると、攻撃範囲の狭いアシュラは戦力として効果が薄い。爪に宿した雷で広げた火花なんてそれこそ焼け石に・・・のレベルだ。
「リュム! お願い、力を貸して! 竜神流! 風竜斬!!」
リュウトが必殺の風竜斬を壁に対して撃ってみたところ深く剣が沈みはしたみたいだけど、貫通までには至っていない。いくら女の子になって多少筋力が落ちてるとはいっても、どれだけ分厚いんだ!? おまけに引き抜いたそばから修復もしているみたいだ。こんなときこそ僕の出番なのに・・・
「いけぇ! フレイム!!」
全力で撃ってしまったらそれこそ皆、燃やしてしまう。肝心な薬の実も・・・それどころか僕たち自身も危ない。もっと、もっとうまく出力調整さえ出来たらこんな苦労はないはずなのに!
「ふぅ、まいったわね。もう時間的な余裕はなさそうだし・・・アシュラはまだ言葉も変ってないし大丈夫そうね。いざとなったら力ずくでも食べさせてもらえるかな?」
「いや、どうやらオレは男だろうと女だろうと言葉遣いが変らんというだけのことらしい。・・・思考の方には変化が多少はあるな。」
・・・つまり本当に時間がないってことか。躊躇している暇はないね。
「リュウト、アシュラ・・・失敗したらごめん。」
まさに命がけだというのに・・・2人はあっさりと頷いてくれた。
「命など今までだってオレたちは散々賭けてきたはずだが?」
「私は信じているわよ? それにあなたに殺されるなら本望だしね。」
だから・・・絶対に失敗できない。
「我が思いの形は常に一つ・・・汝の力を借りて・・・」
「アキ! 危ないわ!!」
えっ? うわぁぁあああ! 詠唱に意識が集中している隙に近づいてきた触手に口をふさがれて、いや・・・足も手もがんじがらめにされてしまった。りゅ、リュウト! た、たす・・・
「アキ、今たす・・・きゃ! こ、このどこを触って・・・くぅぅうう!」
「リュウト! 何をやって!? くっオレにもか! は、離せ! 毛並みが乱れる!!」
アシュラがそんなことを気にするってことは大分侵食されているという・・・いや、今はそんな場合ではなくて! 後ろが見えないからよくわからないけど、2人とも捕まってしまった!? やっぱり肉弾派の2人は女性化は結構影響があるのかもしれない。・・・胸の重量とかでバランスが変っていたりとか。
だめだ・・・僕が! 僕が守るんだ!! ギリギリと歯を食いしばる。バキィといい音をたてて口を押さえていた触手を噛み砕けた! できるかどうかわからないけど・・・いや、絶対に成功させる!
「大いなる火よ、風となりて走れ! 最大出力! 範囲濃縮型! エクスプロージョン!」
元々基本技の中では6属性中最高威力の爆発火炎魔法エクスプロージョン、それも詠唱つき、魔力フル放出・・・範囲は僕の周りだけにとどめておいたからキミたちは耐えられると思うし触手は焼き払えるだろう。でも・・・僕はここまでかな?
う~ん、完全に変化しきってしまっているようですね。さぁ、彼らはタイムリミットまでに・・・
ママナ「そ、そんなことの前にアキがまずいことになっているよぉ!? た、タイムリミットは別にいいんでしょ? 前回のレーチェルさんの話では!」
まぁ、そう言っていたけど? 彼女は騙しやごまかしはするけどそういう嘘はつかないから、あの話は本当だろうと・・・
ママナ「うう、リュウトが元に戻ったら・・・ううん、戻らなくても悲しむよぉ。アキは生きてなくちゃ駄目なんだから~!」
・・・アキがいなくなったらキミがリュウトの傍にいられるかもよ?
ママナ「えっ? ・・・はっ! そ、そんな誘惑に誤魔化されないもん! あ、アキは私の友達で仲間でリュウトの・・・だから絶対生きてないと駄目なの~~!!」
と、悪魔なのにママナは本当にいい奴だということで今回はお開きです~。
ママナ「こら~、アキが無事かどうか言ってから行きなさい~~!!」




