3話 「まずは・・・」
円形に整えられた試合会場。半径は500mといった所だろうか? さすがに大規模な広場として作られているだけのことはある、戦うには十分な広さだな。
相対するは口元に僅かな笑みを浮かべたアシュラ。無愛想で感情など殆ど表に出さないアシュラとしては最大級の喜びの表現といってもいいかもしれない。
「くっくっく、ようやくこのときが来たな。言っておくが手加減などせんぞ。死んでも怨むなよ。」
「当たり前だろ? だが、安心しろ。俺の剣は竜神剣だからな・・・まともに当たっても (リュムの力で)死にはしないさ。」
お互いに口に出す挑発的な言葉。だが、それを気にすることはない。もっと口汚くののしったとしても、それは同じだったろう。なぜなら・・・この場に立ったときからお互いに言葉など意味を成していないのだから。
「ではまずは・・・」
「ああ、小手調べといこう・・・か!」
返事を返すと同時に突撃する俺。そして、ぶつかり合う衝撃・・・なんのことはない、アシュラも同じように突撃をしていたと言うだけのこと。
見物客は驚いたろうな。ふとそんなことが頭をよぎる。・・・開始の合図もなしで始まった試合。だが、俺たちにとっては当たり前のこと。これは試合であって試合ではないのだから。そう、実戦と同じ・・・お互いが顔を合わせたときから戦いは始まっていた。
まったく同じタイミングで突撃をし、ぶつかり合ったオレたち。これだからこそ、こいつとの戦いは面白い。こんな小手調べ程度の戦いでもな!
認識しづらい角度からあごを狙った一撃をリュウトはしゃがんで避け、連続して放った足払いはバク転で距離を置きながら避ける。そして即座に
「竜神流! 竜爪閃!」
すでに定番となった3本の風の刃で追撃を避けつつも攻撃してくる。刃の間をすり抜けるように突撃したオレを僅かな時間で体勢を立て直したリュウトの剣が迎え撃つ。
くっくっく、そうだ。これでこそリュウトだ。こいつは元より技術はあった。いきなり得たパワーに振り回されていたこともあったが、今ではパワーと技術を両立している。そして
「やはり、貴様との戦いは格別だな!」
「お前にとっては手ぬるい戦いじゃないのか?」
「相手が貴様以外ならそう思っただろうな!」
にやりと歪む口元。それは奴も同じだ。そう、オレと奴は同類だ。奴が嫌いなのは『相手を傷つけること』だ。つまり戦いそのものはけして嫌いではないと気づいてはおらんのだろう。
そもそも奴は竜。竜とは自然の脅威の化身だ。・・・つまり奴の本質は守り手ではない。破壊者なのだ。しかし・・・この攻防、どれだけの奴が見えているのやら、小手調べとはいえすでに音速は越えた速度ではあるのだからな。まぁ、そのようなことはどうでもいい、今は
「ふん、貴様はこれをどう受ける!」
リュウトの構える竜神剣の腹を蹴りながら反動で距離をとり、オレは雷で出来た網・・・雷の基本技『ライオネット』・・・を3つ投げつける。そう大した技ではないが奴はどう対処する!?
「舐めるなよ! アシュラ!!」
リュウトのとった行動は確かに意外だった。そしてこれ以上なく有効な手段でもあるか。奴だからこそできること・・・3つに分裂させた竜神剣を『ライオネット』に投げつける。見た目は網とはいえ雷だ・・・剣、金属に当たればバチバチと火花を散らせつつも帯電するだけ。
「ふっ、オレ以外になら有効だったかも知れぬな。」
上級者の戦いは本気でなくても面白い。それは攻撃が防御であり、防御が攻撃でもあるからだ。おそらく風の力を使ったのだろう、突然に3本の帯電した剣はオレに対して突撃してくる。・・・いや、背後にも2本あるな。逃げ場はなく、3本は受けることも出来ぬ・・・オレ以外ならばな。
「・・・お前の体は一体どういう構造をしているんだ?」
帯電した3本の剣を普通に受け止めたオレに呆れるように奴はいう。ふん、このオレの体にオレが手加減して撃った雷などが効いてたまるか。
「そんなことは知らんな。」
なんにせよ、剣を手放した今がチャンスだな。分裂をさせ、距離がある今ならそう呼び戻せはしまい!
「ちょっと甘く見すぎだな、アシュラ!」
ぬっ? オレのクローを初めから持っていたかのごとく受け止める竜神剣。・・・そうか、5本ではなく6本に分裂させていたというわけだな。
「手元に一部でも残っていれば融合は簡単さ。俺とてあれから色々特訓も研究もしているからな。」
そうだろうな。以前の、魔界での戦いの時にはまだ分裂やこれほど素早い変形は出来ていなかった。くっくっく、やはりお前はオレの同類だ。強さを求め、僅かな間により強く成長してくる!
「ま、油断して突撃してきたお前に一撃と考えてた俺も甘いってことだな。受けるので精一杯だったよ・・・さて、じゃあそろそろもう一段階レベルを上げるとするか・・・リュム! 第一封印、解除!」
「ほう? 早々にばてたら許さんぞ?」
「ああ、安心していいぞ。」
ふん、この状態を長時間維持できるようになったというわけか。・・・面白い! さぁ、より楽しき戦いへと進もうぞ!
リュウトとアシュラの戦いは大抵この小手調べから入りますね^^ どっちも勝ち負けよりも楽しいかどうかで戦っている奴ですのでいきなり全力! とはならないのでしょう。
ヤマト「あ、あれで全力じゃないっていうのが驚きです! 師匠に僅かとはいえ特訓を受けた僕も見るのがやっとでした。きっと一般のお客さんで動きが見えている人はいないと・・・」
まぁ、普通じゃ無理だろうね。あいつらの戦いは人間の領域じゃないから。会話だって実はアレ思念波でやっているって設定だったり。余計なことだから作中には出てないけど音じゃ遅すぎるんだよね。・・・とはいえ、あの場にはレーチェルがいるんだよなぁ。
ヤマト「? どういうことです??」
かなり特殊なオリジナル融合魔法を数多く使うし、魔法の道具や機械も大量に持ってる。戦いの様子をスロー録画するぐらいはやってのけるだろう。
ヤマト「ああ、なるほど! でもそんなの流れていなかったような?」
あとで売る気なんじゃないか? 隣にいるのがアキだからなぁ。っていうかアキ、メイ、レーチェルが計画に関わっているっていう時点で僕は何が起きても驚かないぞ。
ヤマト「確かにそうですね・・・。で、この後は2人のちょっと本気ぐらいですか?」
そういうこと。そのちょっと本気で並どころか上級悪魔クラスが手も足も出ないレベルなんだけどね・・・。では次回をお楽しみに~♪




