8話 「お味はいかが?」
フフフ、私が正式に名前を名乗ったらリュウトったら固まっちゃった。
優しい笑顔も真面目な顔も怒った顔も見たけど、吃驚した顔はまだ見てなかったのよね。
本当のことを言うとね、部下たちに指示を出した後にこの計画だと私の身分が必然的にばれることに気づいてちょっと焦ってたんだ。だから周りからばれるよりは私からばらそうと思ったんだけど・・・。
自分でもなんでそんな風に思うのかわからないんだけど、リュウトには今までどうりのリュウトでいて欲しいの。敬語なんか使って欲しくない。エルフの女王アキ=シルフォード=エルファリアじゃなくて一人の少女アキ=シルフォードを見て欲しいの。・・・駄目なのかな?
「こ、こんな場所で女王を呼び捨てにしてしまった。・・・これは火あぶりか?それとも拷問か?」
吃驚した顔から徐々に青ざめていったリュウトが漏らした言葉が私の耳に入る。ああ、なるほど・・・そんなことを気にしてたんだ。クスクス、確かに周りの反応はそんな感じね。でも、そんなのは・・・
「皆のもの! このものは先のダークエルフ討伐でも世話になった私のプライベートの友人である。また、人であるゆえに上下関係もありはしない。言葉遣いは見逃してやってくれ」
って私が一言言えばそれで解決だもん。エルフの仲間はそうはいかないし、普通の人間にそれを言うわけにもいかないんだけど、リュウトは功績もあるから大丈夫!
「と言うわけだ。下手な敬語など使ってくれるなよ、リュウト」
可愛くニッコリと笑いたかったんだけど、たぶんニヤリって感じだったと思う。う~ん、立場も明かしたけど、やっぱり本当の自分は出せないわね~。・・・今までずっとこんな私をしか見せてないから子供っぽいところ見られたらなんて思われるか・・・怖い。
「わかったよ、アキ。俺も固苦しいのは嫌いだから助かった」
よかった・・・。リュウトは私の立場を知ってもやっぱりリュウトだった。思わず涙が出そうになって私は慌てて告げる。
「ほ、ほら! そんなとこに突っ立っていないで存分に楽しんでくれ!」
ひょっとしたら女王としてはふさわしくない言動だったかもしれない。でも私が女王になってから初めて心から楽しいと思える誕生パーティだったの。
「あ! すまぬな、そなたも空腹だろう。まずはこの料理を食べてくれ」
つい楽しくてお喋りばかりに興じてしまったけど、リュウトは旅の途中だったんだからおなか空いてるよね? 勿論パーティだから料理なんていくらでもあるんだけど、リュウトには一番にこれを食べて欲しかった。私がリュウトをもてなす為に初めて作った・・・この料理を。
「お! 助かる。こんなうまそうな料理を食べるのは初・・・!!!!!!」
何故かリュウトは一口、口に入れた瞬間に青ざめて音もなく倒れたちゃったの!
「お、おい! リュウト!! 誰かすぐに医務室へと運ぶのだ!!!」
「ど、ドクター! そ、それでリュウトはどうなのだ!?」
医務室に運び込んでも青い顔で苦しそうにしてるリュウトの手を握りながら私はドクターに詰め寄る。
「落ち着いてください、女王様。ただの食中毒ですよ。エルフ族の食べ物の中には人間には不向きなものもありますから。・・・それ以前の原因なきもしますが」
最後の一言が少し気になるけど、とりあえずリュウトは無事ってことよね?
「では、リュウトは?」
ふむ、どうやら女王様はこの人間の若者のことが・・・。ならば、ここは気を使うことにしましょう。
「もうしばらく経てば気がつくでしょう。申し訳ないのですが、私も少々用がございまして・・・ここをお任せしてもよろしいでしょうか?」
一瞬唖然とした顔をした女王様だったが、すぐに顔を赤くして承諾してくれた。
わかりやすいお人ですね。もっとも本人が未だに自分の気持ちに気づいていなさそうですが。
赤い顔をしながらドギマギとリュウト殿を見ている女王様を残し、私は医務室を出て行く。・・・しかし、あれだけ丈夫そうな若者を一口で昏倒させるほどの『味』の料理ですか。調べてみたい気もしますね。
今回からはあとがき付きです。
アキ「何故いきなり付け始めたのじゃ?」
キミを含め、これからキャラたちも増えてきますからね。ショートコントもやりやすいと^^ しかし、ここでぐらい素の自分で話さない?
アキ「たわけ、リュウトにも見せていないのに貴様などに見せるか。」
・・・一応作者なんだけど
アキ「知らん!」
ああ~・・・怒って帰ってしまった。あれでは素直に甘えられるようになるのは当分先ですね。