5話 「恐怖、振り払い」
「お、来たか・・・ヤマト。」
前の試合のときに使った鉄の棒で肩をトントンと叩きながら、師匠は緊張感のない声で言う。このときはちょっと疑問に思ったけど、後から思えばより変化をきわださせるためだったのだと思う。
「はい! あの、師匠・・・。」
「わかってる。じゃあ、早速はじめるか!」
突然、爆発が起きた。少なくても僕にはそうとしか思えなかった。ビリビリと感じる威圧感。一瞬で全身に鳥肌がたった。膝がガタガタと震えて立っているのが精一杯だ。そして、なによりも
「どうした? 本当の戦場の殺気はこんなものじゃないぞ?」
師匠の顔は変っていないのに、その目が怖く感じる。鬼神もかくやというような強烈な殺気。師匠の持っていたのはただの鉄の棒だったはずなのに、僕には鋭利な刃物に見える。怖い、逃げたい! 心からそう思う、でも!
「ほう? 戦うか?」
「はい! 私は逃げません! ここで逃げたら二度と戦えなくなってしまう。もう、剣士とは名乗れなくなってしまう!」
何故か、師匠の顔がニヤリと笑った気がした。
いい覚悟だ。実のところ、ここで逃げるというのも立派な選択肢だ。少なくても生物としては正しい判断だと思う。だが、初戦で逃げ癖がついては戦士としては死んだも同然だな。擬似的とはいえ俺の殺気に耐えたなら殺気に気押されることは今後そうはないだろう。
「なら! 俺に一太刀入れてみろ! 出来たならば合格だ!」
ガタガタと震える足を必死になだめつつ、真っ直ぐに俺を睨みつけるヤマトに俺はそういう。さぁ、期待にこたえて見せてくれ! 俺の自慢の弟子ならばな。
「はい!」
足がもたれそうになりながらも必死に俺に突撃してくるヤマト。無論、俺から見ればあまりにも遅い斬撃だ。真正面から受け止め、力任せに弾き飛ばす!
「うあっ!」
弾き飛ばされ、血の気の引いた顔で・・・なおかつ俺を睨みつける。そうだ、それでいい。先ずは戦う意思を見せろ! そうしたならば、実力はおのずとついてくる。・・・思えば、あの時の先代の心境はこんな感じだったのかもしれないな。と、俺は遠いあの日。俺が竜神と呼ばれることになるあの日のことを思い返していた。そう、今ならばわかる。いかに石像に身をやつしていても当時の俺ごときに負けるほど先代は弱くはなかったはずだ・・・ということぐらいな。
「はぁ!」
気合と共に飛び掛ってくるヤマトの姿が俺を現実へと引き戻す。負けてやってもいい・・・こんなことを思う戦いは初めてだな。だが、もう少々付き合ってもらおうか。
俺はまたも力ずくで弾き飛ばす。ヤマト・・・のではなく俺の力で少し鉄の棒にガタが来てるのがわかったが、別に気にすることではない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
荒い息が森の中に響く、その姿はきっと俺の今までの戦いに重なる。俺もまた、こんな無茶な戦いを繰り返してきたものだからな。もっとも、俺が生き残っているのは仲間たちのおかげに過ぎないが。
「どうした!? この程度で終わりなのか!?」
「いいえ! あまり、あなたの弟子を舐めないで下さい!!」
売り言葉に買い言葉のような応酬。つたないながらもフェイントを混ぜ、僅かな間に剣筋を向上したように思えるヤマトの攻撃。ギシギシと受け止めた鉄の棒が悲鳴を上げ始める。そろそろ潮時かな?
今度は弾き飛ばすのではなく、ヤマトの力を利用して自分の方へ引き倒す。
「うわっ!?」
思っても見なかった事態に困惑の声をあげながらヤマトが倒れる。だが、その目はけして死んでないな。
「まだまだ! えっ!?」
剣を・・・いや、ただの鉄の棒だが・・・収めた俺にヤマトが困惑する。
「勝負ならついたさ。ほら・・・」
俺が見せた指の先から滴り落ちる赤い液体。
「じゃ、じゃあ・・・」
「ああ、合格だ。」
「や、やった~~~!!」
歓喜の声をあげていたヤマトだが、しばらくするとおずおずと俺に聞いてきた。
「あ・・・あの~、明日からもここで鍛錬していいんですよね?」
その言葉に俺はふうと一息吐き
「もう免許皆伝されたつもりか? まだまだお前には教えなくちゃいけないことはあるつもりなんだが?」
「そ、そうですよね! これからもよろしくおね・・・がい・・・します・・・」
気が抜けたのかヤマトは嬉しそうに話しながらも眠り込んでしまった。本当は免許皆伝でもよかったんだがな。まぁ、もう少し面倒を見てやるとするか。
しかし、やはりまだまだなんだろうな。俺は自分の指から滴り落ちる赤い液体を舐めとる。
「・・・辛いな。」
自分の剣が当たったかどうかもわからなかった・・・か。まぁ、俺とヤマトの実力差を考えたら仕方ないことかもしれないが。俺は内ポケットに入っていたタバスコのビンを見つめながら苦笑するのだった。
リュウトとヤマトの師弟の関係はどうだったでしょうか? ヤマトもいずれは立派な戦士に成長するかもしれませんね。
アキ「うむ、それはいいだろう。だが、何か忘れていないか?」
忘れているもの? いや、特にないと思いますが?
アキ「私の出番はどこに行ったのだ!!?」
ああ~、そういえば1部2章で初めて出てきて以来、まったくアキが登場しない章はこれが初めてですね。
アキ「そのとおりだ! 私はヒロインなんだぞ!? 私とリュウトがいてこその『竜神伝説』なのに・・・。」
あははは、まあ次の章ではアキは目立ちますので・・・。えっと、これが予定表です。
アキ「ムッ・・・ちょ、ちょっと待て! こ、これは・・・!」
じゃ、次回予告お願いしますね~。
アキ「ウムム・・・何ゆえこのようなことになったのか? 忙しい仲間たちが全員揃った場でおこなわれた話とは? 次章竜神伝説第3部4章『悲鳴に注意! 夏の夜の百物語!』わ。私は幽霊など怖くない・・・ぞ? えっ? きゃあああああ!!」