5話 「8月7日」
お日様が顔を出して、雀がチュンチュン。朝のまどろみの時間・・・う~ん、幸せ。
「お~い、朝だぞ~。」
う~ん、もうちょっと~。
「お~い、起きろ~。」
誰よぉ、私を起すのは・・・あれ? 私は一人でうちで寝てたよね? そぉっと開けた目にうつったのはリュウトの顔のドアップ!
「うきゃあああ~~~!!」
「ちょ、人の顔見て悲鳴上げるな。」
耳を押さえて文句を言うリュウトだけど、文句いいたいのは私の方!
「起きたらそんなに近くに顔があったら誰だって吃驚するよぉ~。なんでリュウトが私のうちにいるのぉ? それ以前になんで場所知ってるのよぉ?」
「毎日この森は走っているからな。仲間の気配ぐらいは感知できるさ。」
なんなのよぉ、そのプライバシーのかけらもない探知能力は?
「さて、おはよう、ママナ。」
「ん、おはよう、リュウト。」
ここは迷いの森の中の私のお家。旅をしてた頃はリュウトたちに美味しいご飯を食べて欲しくて早起きしてたけど、本当は結構お寝坊さんな私。朝のまどろみって本当に気持ちいいよねぇ。今朝はリュウトのおかげで台無しだけど。
「しかし、ママナってこんなところに住んでいたんだな。」
「ん? 立派なマイホームでしょ? ちゃんと表札だってあるし雨も防げるよ?」
このベストポジションを確保する為に森の魔物たちとどれだけの抗争があったことか。フフ、実は私この森では結構な実力者だったりするの。
「表札って、この木についたママナって傷か? 雨を凌げるっていうか雨しか凌げないというべきなんじゃ?」
「もう! リュウトは私のうちを馬鹿にしにきたの!」
そりゃ、アキの宮殿と比べたら見劣りするけどぉ、確かに私の家は何の加工もしてない大木の枝の上だけど・・・私自慢のマイホームなの!
「いやいや、今日はママナの誕生日だろ? パーティのお誘いにな。」
あっ・・・そういえば今日は私の誕生日。祝ってもらったことなんて一回もない。だから、気にもしていなかった。そうか、今日誕生日だったんだ。
「ほら、みんな下で待ってるぞ。」
その言葉に下を向くと、アキが! レミーが! コーリンさんがいた。
「私のため・・・に?」
「勿論。」
ニッコリと笑うリュウトの顔が嬉しくて、私は木の下に飛び降りた。
「みんなぁ~! ありがとう!!」
「こら、先に私たちから祝いを言わせてくれ。ママナ、誕生日おめでとう。すまぬな、メイもと思ったのだがさすがに2人同時には抜けれなかった。」
笑顔で言われたおめでとう。初めて言われたその言葉に心がジ~ンって温かくなる。大丈夫、メイさんの思いもちゃんと伝わってる。
「まーちゃん、水臭いよ~! わたしリューくんに言われなかったら知らなかったよ? ごめんね、わたしの方もレーチェル様は忙しくて、お兄ちゃんは俺がいないほうがいいだろうって。でもね、はい! これプレゼント! わたしたち3人からだよ。お誕生日おめでとう!」
レミーが渡してくれた青い宝石のペンダント。そういえば、誕生日プレゼントなんて貰ったことないかも。でも、コクトさんも気にしなくていいのに。私、もう気にしてないよ? だって、こんなに幸せなんだもん!
「ママナさん、私からもお祝いを言わせてください。お誕生日、おめでとうございます。アシュラ様はあのとおり素直じゃない方なのでここには来られませんでしたが、プレゼントを預かってきております。」
そういってコーリンさんが手渡してくれたのは小さな石?
「魔族の守り石だそうです。まぁ、お守りみたいなものですね。」
くすっ、きっとブスってした顔で『これでも持っていけ』なんていう風に渡したんだろうな。でもちゃんとわかるよ、ありがとう、アシュラ。それにコーリンさん。
「さぁ、ママナのために作ったんだ。たっぷり食ってくれ。これが俺たちからのプレゼントってことで。」
リュウトの言葉通りに森の中に出来た立派なバイキング会場。目移りしそうなぐらい一杯の、美味しそうな料理たち。
「私も手伝いたかったのだがな・・・これでは私は何も出来ていないではないか。」
よかった・・・アキは手伝っていないのね。気持ちだけで・・・本当に気持ちだけで嬉しいよ、アキ。
一口、パクって食べる。凄く美味しい、でも・・・それ以上に嬉しい。
「おいおい、泣くほどの出来じゃないと思うぞ。」
私の目から零れ落ちたのは大粒の涙。でも、大げさだなんて思わない。だって、これは私がいつか夢見た夢の光景。
遠いあの日、私は何時も一人だった。一応悪魔らしい私はこの辺りの魔族に比べれば格上。だけど、闇の者らしくない光の者たちを傷つけられない私は異端児だった。
誰も私の傍にいてくれなかった。闇からは疎んじられ、光からは恐れられ、私は何時も一人だった。そんな私の運命を変えたのは・・・
「うわ~~~~!!」
突然聞こえた男の子の悲鳴。実はね、ちょっと興味本位で覗きに行っただけなんだ。でも、あの子の・・・幼いリュウトの涙目になりながらも懸命に戦おうとしてる姿に感じるものがあったの。きっと、後ろに居た女の人・・・まだ少女と言っていい頃のマリアを守ろうとしてたんだよね?
私ね、正直言って悩んだよ? 助けるべきなのかどうか・・・だって私は闇だから、だってあなたは光だから。
「お、お姉ちゃん?」
なのにね、気がついたら助けてた。あなたは初めはキョトンとしてそのあと私が魔族だって気づいてちょっと怯えたよね? あの時、あの瞬間だけは思ったんだ。やっぱり、私はずっと一人なんだなって。でもね・・・
「ありがとう! 魔族のお姉ちゃん!」
あなたは、すぐそう言ってくれた。逃げたように思えたマリアが大人たちを呼んで来るまでのほんのちょっとした時間だけだけど、私にとっては初めて孤独を感じずに済んだ時間だった。 そのあなたが大きく成長して、私どころか世界を守れるぐらい強くなって・・・でもあの頃と何にも変らない。助けたはずの男の子に本当は助けられた私は、その子が連れてきた仲間たちとこうして笑いあえる未来をもらえた。最高の・・・最高の贈り物だったよ、リュウト。
「ほらほら! 一口で泣いてないでもっと食ってくれ。」
ふと気がつくと、私のお皿には料理が山積みになっていて・・・た、確かに美味しいけど、これは多いよぉ~。
「もう! 私、こんなに大食漢じゃないよぉ!」
「え~、リューくんのご飯美味しいよ?」
どっと笑いが溢れる。こんな事、あの頃には想像もつかなかった。絶対に一生ないと思っていたこと。ううん、それよりももっともっと大きな幸せすぎる夢。みんなあなたが連れてきてくれた。だからね?
「リュウト・・・チュ。」
飛びつくように抱きついて、ほっぺにチュ。
「ま、ママナ! リュウトは私の物だ! そなたへのプレゼントじゃないぞ!!」
「ええ~!? いいじゃない、今日ぐらいは!」
「うう~、わかった・・・今日だけ、今日だけだぞ! それ以上は認めんからな!!」
「いや・・・そもそも俺の意見は?」
「「関係ない!」」
あははは、私こんなに幸せだよ。本当にありがとう。大好きだよ、リュウト。
8月7日、太陽のような笑顔のまぶしいママナの誕生日です。
ママナ「えへへ、最高の誕生日を貰ったよ。でも、私の回想もうちょっと細かくてもいいんじゃない?」
あ~、実は番外編でママナとリュウトの出会いは少しですけど書いているんですよね。ですので、ここではこのぐらいでと
ママナ「ホント!? だったら許す! えへへ、結構一杯出来事あったんだよ、私とリュウトもね!」
そこらへんを知るとママナの評価も変るかもしれませんね。では次は
ママナ「9月の15日! 私と関わりがありそうなあの人の誕生日だよ~。みんなお祝いしてあげてね♪」




