4話 「5月27日」
「さて、これで本日の内容は終わったようじゃな。」
「いえ、女王様・・・まだ重要な案件が残っております。」
ある日の執務室での会話。今日話し合うことは全部終わったはずなのにお姉ちゃんがそんなことを言い出したことから今回の話は始めるの。
「ムッ? まだ何かあったのか?」
「はい、近々来るリュウト殿の誕生日をどう祝うか・・・です。」
「・・・メイよ。それならば内々で慎ましくやればよかろう。リュウトはそのほうが喜ぶ。このような場所で話し合うことではなかろう?」
呆れたようにいった私にお姉ちゃんは首を振って
「いえ、リュウト殿は2度にわたって世界を救った英雄です。2度目は世界的には知られてませんし、諸事情でリュウト殿がここにいることもまだ知らせておりませんが、エルファリアのものにとってリュウト殿は女王様に並ぶ英雄。いえ、英雄という計りのみならば女王様以上なのです。」
それは勿論そうだと思う。実力は言うまでもなく、あの個性的なメンバーをなんだかんだ言いながら纏め上げてきたのはリーダーのリュウトだ。私なんてリュウトと同格に持ち上げられるはずがない。
「リュウト殿の誕生日は国のものはよく知っております。国家として何もしないというわけには行きません。」
そうか、そうよね。でも、リュウトは絶対堅苦しいのは嫌いだろうしな~。
「私と同じようなものはきっと嫌がるぞ。」
「無論そうでしょう。女王様のは形式的な儀式を含んでおりますが、リュウト殿にそのようなものはありません。皆の前に出て、皆と共に楽しんでもらえればいいのです。普段は資金のことにはうるさい議会も予算請求が回ってくるのを待っております。あの様子なら少々の額でも即座に判子が押されて返ってくると思われます。」
それだけ楽しみにされているってことか。うん、リュウトは照れるかもしれないけど人気があるのはいいことだよね? それに私としてもちょっと嬉しいし。
「そうか・・・ならば」
「う~む。」
話には聞いていたが、右を向いても左を向いても俺の名前ばかり。なんなんだ? あの「祝! リュウト様ご生誕記念」っていうのぼりは? 俺はそんなに大したことをやったつもりはないのだが?
「そう思っているのはそなただけじゃ。そなたは紛れもなく英雄。胸を張っておれば良い。」
いつもながら俺の心情を正確に読み取ったらしいアキがそんなことを言う。だがなぁ~、あちらこちらに出てる屋台。それもリュウト焼きやらリュウト饅頭やらリュウト人形やら・・・俺は許可した覚えはない。じゃなくて、これじゃあまるで祭りだな。
「しかし、凄い人数だな。本当に祭りみたいだぞ?」
「それだけそなたが慕われておるということじゃ。それに堅苦しいパーティなどやるよりはこちらの方がそなたに合うじゃろう?」
まぁ、確かに堅苦しいパーティなどよりはこっちの方が俺らしいな。しかし
「案外本人が混じっていても気づかれないものだな。」
「皆、自分たちが楽しむことに必死だ。それにそなたが公式に現れる時間ではないゆえに、そうそう気づかれん。気づいてもそれに自信がなければ騒ぎはしないものだ。」
なるほど・・・逆を言えば自信があるものなら騒ぐんだよなぁ。さっきから妙な視線を感じるんだが?
「間違いないわ! きゃ~~! ここにリュウト様がいらっしゃるわよ~~~!!」
ちっ! やっぱりか!!
「お、おい! 隣にいるの女王様じゃないか!?」
「あ、ああ。間違いない!」
「ああ、リュウト様と女王様。まさにベストカップルよね~。」
あっという間にできる人だかり・・・こうなったら
「逃げるぞ!」
「えっ? こら! どこを触っておるのだ! 降ろせ~~!!」
とりあえずアキを抱きかかえて人だかりを強行突破する俺だった。・・・しかし俺はどこを触ったっていうんだ? 人がいなくなったところで思いっきりアキに殴られたんだが? う~ん、わからん。
「ではこれより、リュウト様よりお言葉をいただきたいと思います。」
広場に響き渡るアナウンス。その言葉にみんな一斉に中央にある壇上に視線を向ける。そこにいたのは優しそうな、まるで女の子のような気もしなくもない顔の人。きっと、あの人がリュウト様なのね。
リュウト様は壇上から皆の顔を見渡して・・・きゃ! 今、視線あったよね? リュウト様にとってはきっと記憶にも残らない一瞬。でも、名前なんて知っているはずもないただの一エルフの私には大切な記憶。
「皆、今日はありがとう。正直、俺なんかのためにこんなに集まってくれるなんて思わなかった。」
リュウト様の謙虚すぎるお言葉。私から見れば少なすぎるぐらいだと思う。だって、世界を2度も救った英雄だというのに・・・この町のエルフしかいないだなんて。
「恥ずかしながら、俺は依然剣を振るうことしか能のない男だ。剣では・・・本当の平和も幸せも築けない。」
静まり返る会場。リュウト様は一体何を言おうとしているのだろう?
「俺はもっと多くの笑顔が見たい。もっと大きな幸せが見たい! だから、皆の力を貸してくれ! 本当の幸せを作るのは一人一人の笑顔なんだから!」
わぁ~~~!!! と広がる歓声。リュウト様が私たちを必要としている。私たちの幸せを望んでいる。それが凄く嬉しくて、そして・・・あの人が二度と剣など振らなくてもいい世界を築くのは私たち一人一人なんだって気づかされて、私はいつの間にか涙を流してた。
「今日は大いに楽しんで笑って帰って欲しいと思う。それが俺の最高の誕生日だ!」
わぁ~~~~~~~!!!! さっき以上の歓声。心優しき竜神様、あなたが私たちの幸せを望むように・・・私たちもお祈りします。あなたの心からの幸せが永遠に続きますように。
「ふう、結構疲れるものだな。」
「まったく、そなたは謙虚すぎるぞ。」
苦言を呈しながらもうれしそうにするアキ。そして
「さて、私からの誕生祝はこれからだぞ?」
ニッコリ笑った顔はたまらなく可愛かった。そう、顔は・・・な。
「おっかえり~、リューくん♪」
部屋に帰るなり出迎えたのはレミー?
「そなた、どこから入ってきた?」
「ん、あそこから。」
レミーが差した場所は・・・割れた窓。レミーなんでお前は窓を割って入ってくるんだ?
「そなたという奴は・・・で、何をしにきたのだ?」
「今日はリューくんの誕生日だからね、お祝いに料理作ってきたんだよ。」
停止する俺の体。レミーの・・・料理?
「ムッ! 駄目だぞ、リュウトは私の料理を食べるのだ!」
アキの・・・料理?
「ム~! わたしのだよ~。」
「私のを食べてくれるよな!?」
あはは、前門の虎、後門の狼って奴か? ついでに左右から熊とライオンでも来てないか、これ?
「うむむ・・・」
まぁ、どっちを食べても毒ならばせめてアキの方を・・・
「うむ、美味いか?」
ああ、倒れそうなぐらいにな。・・・くぅ、さすがに倒れるとアキを悲しませるか。すまん、レミー・・・キミをだしにさせてくれ。
「おお~、わたしのも食べてくれるなんて! そんなにおなか減ってた?」
ああ、きっと・・・もう当分食いたくない・・・な。
「りゅ、リュウト!? レミー! そなたは何を食べさせたのじゃ! リュウトが倒れてしまったぞ!」
「ム~! きっとあーちゃんの料理の所為だよ~!!」
薄れゆく意識の中思う。2人とも美味い料理とはいわない・・・せめて食べられるものを・・・。
「お気づきになりましたか?」
「ドク・・・ター?」
かすんだ視界の中に浮かんだのは人のよさそうな笑みを湛えたドクターの顔。俺は・・・生きてる?
「あの状態から1日で意識が戻るとはさすがですね。普通の患者ならさじを投げているところですよ。」
軽く言うドクターだが、きっと本心から言っているのだと思う。ああ、生きてるってなんて素晴らしいのだろう・・・。
ええっと、リュウトは生きている幸せを噛み締めているようですね(汗)
リュウト「誕生日にこんな形でその幸せを噛み締めるのは不幸だと思うのだが?」
気にしちゃいけません。特にアキとレミーがいる限りは・・・。
リュウト「・・・はぁ、悲しい現実だな。」
本人たちに自覚がないって言うのが致命的ですよね。味見しているんだろうか?
リュウト「していながら気づかないから教えようがない。別に味オンチって訳でもないと思うんだけどなぁ?」
・・・食べてもらう喜びに浮かれて気づいていないのかもしれませんね。では、次は・・・
リュウト「次回はちょっと日付が飛んで8月7日。太陽のような笑顔がにあうあの子だな。」