3話 「5月1日」
「で、協力して欲しいの。」
「・・・つい最近聞いたようなセリフだな。」
「もう! レミーと一緒にしないでよ。」
ちょっとすねたその顔だけ見れば可愛いんだけどな。相談内容ってのが・・・
「メイの誕生日なんだろ? 普通に祝えばいいじゃないか。」
「駄目! 仕返しするの!」
そんなところはホント子供っぽいんだよなぁ、アキは。メイはアキの誕生日の時にちょっと驚かせようとしただけで悪意はなかったんだが。
「協力してくれるよね? リュウトだって共犯だったんだから。」
あ、あはははは・・・アキ、いつも思うんだがその目本当に怖いから。
「してくれるよね?」
「・・・わかった。」
すまん、メイ。俺にはアキはとめられん。
そして5月1日
「女王様、お呼びですか?」
コンコンといつもどおりの規則正しいノックが聞こえる。リュウトの部屋のドアを叩くお姉ちゃんのノックだ。・・・なんでいつもリュウトの部屋なのかは聞かないで欲しい。
「入ってよいぞ。」
「一応ここの主は俺のはずなんだが?」
そんなの知らない。元々この宮殿は私の物なんだしね。・・・そんなことより準備はいい?
「では、失礼して。・・・えっ!?」
パンパンと響く音。この前レミーから貰ったクラッカーって奴を一斉に鳴らす。そして
「「ハッピーバースデー! お姉ちゃん(メイ)!」」
ささやかだけど温かいリュウトの料理。まさかケーキまで作れるとは思っていなかったけど。そう、先ずは家族としてのお祝い。・・・仕返しはその後。
「ささ、お姉ちゃん飲んで? 今日の主役はお姉ちゃんなんだから。」
宴も盛り上がってきたころに私はお姉ちゃんのグラスにコポコポと注ぐ。演出は上々、こんな状況下ならお姉ちゃんだってきっと気づかない、疑わない。だから、リュウト・・・そんな顔をしないでよ?
「あら、ありがとう。・・・アキ?」
笑顔で一口飲んでお姉ちゃんの顔が曇る。そりゃそうよね、だって
「これただのお水よ?」
「うん、私それがお酒なんて言ってないよ?」
お姉ちゃんが怪訝そうな顔をする。その横で
「さぁ、リュウトはこれを飲んで。」
アシュラに譲ってもらったワインをリュウトに注ぐ。アルコール好きのお姉ちゃんにはこれが一番効くでしょ? それともこのお酒奪いに来る?
「ふ~ん、まぁいいわ。」
えっ? お姉ちゃんみたいなアルコール好きがこんな状況我慢できるわけが・・・
「アキ? あなた勘違いしてない? 私は別にお酒じゃなくちゃ嫌なわけじゃないのよ? アルコールが入っていてもいなくても私は酔えないから同じなのよ。ただその味が好きってだけ。別にお水だって嫌いじゃないわ。」
・・・私、間違えた? それとも、そう思わせることがお姉ちゃんの策? わ、わからないよ~!?
やっぱり、私じゃお姉ちゃんを出し抜くなんて出来ないのかな? なんて思っていたらとんでもない乱入者が現れた。トラブルの女神とでも言うべき彼女。彼女の行動を読むなんて出来るわけないけど、いくらなんでもこれは想像の範囲外だったな。
「ん? この気配は?」
真っ先に気づいたのはリュウト、そして彼が後ろを向いた瞬間に
「めーちゃん! おっめでとう!!」
ガッシャ~ンと窓を突き破って入ってきたのはレミー。たしかにレミーにはお姉ちゃんの誕生日教えていたけど、こんな風に乱入してくるなんて。というより窓壊さないでよ!
「うう、なんでこんなところに窓なんてあるの~!」
そりゃ、あるでしょ窓。窓じゃなかったらどこから入ってくる気だったのよ? 外にはドアはないんだよ?
「んぐ?」
あ、そうそうリュウトは? いきなり乱入してきたレミーに吹き飛ばされていたけ・・・ど? リュウト~~~!!!
「そ、その・・・リュウトくん?」
「いや、これは吹き飛ばされた衝撃で・・・」
窓を壊して乱入してきたレミーちゃんに吹き飛ばされてリュウトくんは私の方へ・・・その、お互いに口がぶつかって・・・。
「リュウト~~~!! なんでお姉ちゃんとききき、キスなんてしてるのよ~~~!!」
「い、いや! これは事故だ! アキだってわかっているだろ!?」
アキとリュウトくんの声がどこか遠く聞こえて・・・
「でも! よりによってなんでお姉ちゃんなのよ! 男の人の手を握ったことがあるかどうかすら怪しい人なのに!!」
遠く聞こえて・・・アキ? 今なんて言った?
「言ってくれるわね、アキ。誰の所為でそんな寂しい生活を送っていると?」
「私の所為だって言うつもり! お姉ちゃん!!」
アキに責任を押し付ける気はないけど、一因はたしかにあると思うのよね。それに
「あんな形でファーストキス失った私の気持ちはあなたにわからないでしょう!!!」
リュウトくんと本当に愛する人と出来たあなたには絶対わからないわよね?
「あ、あのわたし・・・帰るね?」
背後ではレミーちゃんが慌てて逃げ帰り
「あはははは、なんで俺はこんな怖い場所にいるんだろう?」
乾いた笑い声を上げながらリュウトくんが現実逃避していたりするけど関係ないわ。
「お姉ちゃん、久しぶりよね? こんな風に喧嘩するの。」
「そうね、思い出させてあげるわ。あなたの姉の偉大さを!」
バチバチとお互いの間に火花が散っているのが幻視できるほどに高まる気合。こんな誕生日、こんなプレゼントも乙なものね。久しぶりに思う存分喧嘩しましょうか!?
「今日こそは勝たせてもらううわ、お姉ちゃん!!」
「あなたが私に勝てたことあったかしら?」
そして翌朝
「ま、また・・・勝てなかった。」
「お姉ちゃんの偉大さ、わかったかしら。」
「あはは、俺の・・・俺の部屋はどこだ?」
朝日が昇るころ、疲れて倒れたアキと勝利を噛み締めている私。それにつかれた笑みのリュウトくん。部屋は・・・跡形もなく吹き飛んだみたいね。
「さて、さすがに今日のお仕事はお休みかな? リュウトくんは部屋がなおるまで野宿お願いね。」
「あ、あの・・・」
「乙女のファーストキスを奪った罰としては破格だと思うけど?」
「わかりました・・・。」
ま、こんな誕生日もありでしょう。それに・・・相手がリュウトくんならちょっと役得?
5月1日はメイの誕生日。ハチャメチャな誕生日もメイらしいというところでしょうか?
メイ「まさかとは思うけど、私の誕生日がこの日なのは・・・」
メイデーだからですね♪
メイ「やっぱり・・・。まぁいいわ、でも相変わらずレミーちゃんはインパクトのある登場を。」
今回の元凶・・・というよりも大概のトラブルはこの人の所為なんですが、一番被害を受けない辺りがトラブルの女神たる由縁ですね。そして、常に最大の被害者はリュウトなのです。
メイ「ん~、今回は私じゃない?」
そこらへんの判断は各個人でお願いします。さて次回の日付は5月27日。
メイ「彼の誕生日は(番外編で)公表済みね。我らがヒーローの誕生日はどんなことになるかしら?」




