2話 「4月2日」
某日
「というわけで協力して欲しいの。」
わたしの言葉にみんな黙って顔を見合わせる。だ、駄目なの?
「ふむ、私たちも世話になったし、協力するのは構わないのだが・・・」
「相手があの方となると・・・」
「なかなかに難題だよなぁ。」
うう~、やっぱりそうなんだ。ごめんなさい、わたしに案がないからだよね?
「「「おまえ(そなた、あなた)の計画じゃないっていうのがせめてもの救いだが(ですが)。」」」
・・・ム~! それどういうことなの~~!!
そして4月2日
ふう、とため息一つ。今年も憂鬱な日がやってきたもんだわ。肉体的には歳をとらないとはいえ、一つ年齢が増えることには変らない。かといって歳を気にしてるなんて思われたくないからパァ~っと騒ぎたいところだけど、自分のパーティの指示なんてしたくない。そして、指示なしに勝手に動くような彼らでもないのよねぇ。
でも実はちょっとだけ希望もある。さすがお調子者って言うべきか、あのレミーが私に隠れて何かやっているみたいだから。リュウトくんたちも巻き込まれているみたいだし、期待するなって言う方が無理ね。だからそれ以上は見てないわ。先に知っちゃったら面白みが半減しちゃうもの。・・・はぁ、何だかんだいって私も楽しみにしちゃってるってことか。
「あの・・・レーチェル様。」
来たわね。さて、いったい何をやってくれるのかしら?
「どうしたの? 今日はあなたにお仕事任せてないはずだけど? 特訓でも受けに来たのかしら?」
何にも知らない振りをしてそんなことを言う。でも、なんで特訓の一言で青ざめるのかしら? 私がやっている特訓なんて・・・精々死亡確率40%程度の奴なんだけどな?
「あ、あの・・・そうじゃなくてレーチェル様、今日お時間ありますか?」
「今日? そうね、珍しく何の予定も入ってないわ。」
嘘ね。何の予定も入っていないんじゃない。予定を入れなかったんだから。そのためにちょっとここ最近無理までしてね。
「よ、よかったぁ~。じゃあ、ちょっとこちらに来てください♪」
とたんにパァ~と明るく微笑むレミー。しかし、私が普段忙しいって知っていながら私の予定を最後に聞くなんて計画に穴があるわね。・・・ひょっとしたらリュウトくん辺りが読んだのかもね。この日は無理にでも予定を空けているんじゃないかって。あの子ならそれぐらいはやりかねないわ。
「まぁいいわ。今日はあなたに付き合ってあげる。」
これも嘘。意地っ張りな嘘ね。本当は・・・凄く楽しみにしてたんだから。
「さぁ、入ってください。」
レミーに促されて入った部屋。正直これはちょっと吃驚ね。かなり広めの大部屋なのは勿論わかっていたけど(なにせ、私の神殿の部屋なんだし)その大部屋が綺麗に飾り付けられてる。昨日見たときは何もなかったわよね? 短時間にこれだけやるのは大変だったと思う。アキちゃんとメイちゃんあたりかしら?
そして、テーブルに並べられた料理の数々。天界の料理とは違う・・・というよりも私も知らない料理ばっかりね? ってことはこれを作ったのは・・・。
「これを作ったのはあなたかしら? リュウトくん。」
「ああ、レミーやアキに任せるわけにはいかないからな。だが、よくわかったな?」
そうね、レミーやアキちゃんが作った料理なんて出したらパーティが始まったとたんに地獄絵図になるわ。
「私も知らないお料理ばかりだったからね。そんな料理を作りそうなのはあなたぐらいなものだわ。」
「確かにな。最近は既存の料理も勉強はしてるが、元々俺の料理は見よう見まねで作ったオリジナルだからな。」
そうね、でも凄く美味しいって評判なのよ? あなたの料理って。うん、下手に専門家に作らせるよりもよっほど楽しみだわ。
「ところで、レミーは何をやったの?」
「レーチェルを呼びに行っただろ?」
・・・えっ?
「それだけ?」
なんで顔を背けるのかしら? はぁ、なんで一番の首謀者が一番何にもやってないんだろう。そうね、レミーに任せたら何をしでかすかわからないからね。
「それだけだ。・・・今はな。」
含みを持たせるわね? あ~、なるほど、司会もあの子なのね。
「は~い! みんなおっまたせ~! 今からレーチェル様のお誕生日会をおこないま~す! えっと・・・レーチェル様いくつだろう? よくわからないけどたくさん歳のお誕生日会を・・・きゃあ! 冷た~い!!」
突然、天井から降った冷水がレミーを濡らす。勿論やったのは私。誰がたくさん歳よ!! 私はあなたのお兄さんと同じぐらいの歳なんだけど?
「うう~、ひっどいよ~。えっと、後は自由です! あ、出し物も一応あるから期待しててね~!」
そうね、このぐらいいい加減な方が私には向いてるわ。アキちゃんのとき見たく堅いのはね~。まぁ、あれはアキちゃんも嫌そうだったけど。あれ? あれは・・・
「祝いだ・・・受け取れ。」
「あなたも来てくれたのね。アシュラくん。」
不機嫌そうに顔を背けながら、ワインを押し付けるアシュラくん。彼の所有してるワインは上質なものばかりだから嬉しいわ。
「ふん、リュウトの奴に頼まれてな。」
フフ、あなたは誰になんと言われようとも望まないことをするような人じゃないでしょうに。
「くっ! 最近、魔界の連中が何を勘違いしたのか厄介ごとをオレのところに持ち込んでくる。指導者の真似事も嫌気がさしてきてな、こういう口実に逃げてきただけだ。」
という口実で遊びに来たんじゃないの? 実際嫌々やってる仕事なんでしょうが、それでも頼られたらやってしまうのがあなただしね。もっとも、ここにきたのは私じゃなくて彼らと楽しむためでしょうが。
「ほら~! 次の出し物はアーくんだよ~!」
「・・・オレは出し物なんて出来ないぞ。」
「じゃあ、歌でも歌おうよ~。わたしも一緒に歌うから!」
レミーに引っ張られていくアシュラくん。フフ、本気で抵抗する気なら方法なんていくらでもあるでしょうに。ここは私のために用意された私だけのためではない空間。集まってくれた人が思い思いの方法で楽しんでいる。ほら、向こうでも
「そなたが作った料理は相変わらず美味いな。」
「そういってくれると作った甲斐があるというものだ。」
「やはりたまには私も作って・・・」
「・・・いや、キミは普段忙しいだろ? そんなこと考えなくていいから。」
こんな感覚、こんな感情何時以来だろう? もう随分感じていなかった。ライオスが死んで以来私は生きながら死んでいたようなものだから。彼を助けられなかったことを悔やんでひたすら自分を鍛えてきた。特に回復の力を。でも・・・
「レーチェル様! 楽しんでくれてますか?」
満面の笑みを湛えるレミー。あなたは私に助けられたって言うけど、本当に助けてもらったのは私なのかもしれないわ。回復の力の本質は他者を癒すのではない。自分自身の心を癒す術・・・あなたにはまだまだ教わること多そうね。
「レミー! 私も歌うわよ!」
「えっ、え~!? レーチェル様も~!?」
「あら、私の歌だってなかなかのものよ? アキちゃんには敵わないけどね。」
私はきっと目を閉じていたのね。楽しもうと思えば楽しめるものはまだまだ一杯あったわ。私はこれからもあなたたちを導くし、導かれていく。ライオス、私と私の新しい仲間、見守ってちょうだい。
4月2日はレーチェルの誕生日! ということでどうだったでしょうか?
レーチェル「なんで4月2日なのかしら?」
いや、前日がエイプリルフールじゃないですか。さすがに当日はさけて、翌日にと。嘘とまやかしで生きてるような人というか、それを楽しんでいるところがありますしね。
レーチェル「へ~、嘘とまやかし?」
あなたはある意味マリアの同類ですから。やることは彼女よりも過酷ですけどね♪
レーチェル「ふ~ん・・・じゃあ、あなたの存在も嘘にしてあげましょうか?」
えっ? ・・・では今日はこの辺で・・・みぎゃぁぁぁぁ!!
レーチェル「さて、次は5月1日みたいよ。日付的に考えると彼女かしら?」




