6話 「また会うために」
迫り来る火炎球。私はその痛みと恐怖を僅かでも紛らわせようとぎゅっと目をつぶる。前方から受けた衝撃によって私は背中から地面に倒れて・・・あれ?熱くない? それとも私もう死んでいるのかしら??
恐る恐る目を開けた私の視界に飛び込んできたのはリュウトの顔。・・・って私、リュウトに押し倒されてる!!!??
「きゃぁぁぁぁああ! 何をするのよ~!!」
思わぬ事態にリュウトの頬を思いっきりひっぱたいて・・・あれ?ひょっとしてリュウトは私を助けてくれたの?
「ご、ごめん! とっさにかばったんだが、そこまで気が回らなかった!」
あ、いや・・・これは完全に私が悪いと思うんだけど、そこで謝っちゃうのがリュウトらしいというか・・・。
「いや、私の方がすまぬ。そなたは私を助けてくれたのいうのに・・・」
「? 俺がアキを助けるなんて当然だろ。俺は剣士、前衛だ。マジシャン、後衛のアキを守るのが役割だからな。むしろ、アキを危険な目にあわせたことを謝るべきだろ?」
この人はどこまで優しいのだろう。その危険だって元はといえば私が戦いを止めてしまったから・・・隙を作ったのはわたしだというのに。
「それにアキの歳相応の姿を見せてもらったって言う役得もあったしな」
と、明るく言うリュウト。・・・歳相応? えっと、なんか言ったっけ??『「きゃぁぁぁぁああ! 何をするのよ~!!」』・・・あ~! 私ったら!私ったら~! なんてことを口走っちゃったのよ~!!
「わ、私だって焦ることはある!! いいか! そのことは即座に忘れるのじゃ! 絶対だぞ!!・・・ほら!いつまで私の上に乗っているのだ! さっさとどくのじゃ!」
「はは、わかった、わかったよ。・・・・いてっ!?」
朗らかに笑いながら立ち上がろうとしたリュウトの顔が歪む。
「リュウト!?どうしたのだ!!」
体の前面は特に怪我は見当たらない。ならば、問題があるとしたら背中だろう。慌てて起き上がりリュウトの背中を見ると・・・リュウトの背中は一面酷いやけどが出来ていた。
「リュウト・・・これは・・・」
自分でも血の気が引いているのがわかる。きっとリュウトには真っ青な顔をした私が見えているだろう。
これは全て私の所為。私のために戦ってくれて、私の所為でピンチになって、私を守って受けた怪我。・・・なのに! なんでリュウトは私に笑顔をくれるの!? その笑顔が凄く嬉しいと思う自分自身が恥ずかしい。でも、それでも私のために受けてくれたこの怪我さえも愛おしい・・・はっ!? 私は一体何を考えてたの?
「すまぬ・・・私のためにこんな怪我を・・・。本当なら私が治してやりたいのだが・・・私には回復系の魔法は使えないのだ」
それが本当に・・・本当に悔しい。
「だから、気にするなって。回復が使えないのは俺も同じだしな」
そうなの・・・リュウトも使えない。つまり、治す手段なんてないってことじゃない!
「こんなのは、ほっとけばすぐ治るレベルなんだからそんな顔をするなって!」
・・・えっ!? わ、私の目には結構重症・・・適切な処置をすれば死にはしないだろうけど、少なくても動けるような怪我には見えないんだけど。人間って凄いのかも!
本当に新しい服を着て、平気な顔で歩いているリュウトに呆れつつも、やっぱり安心した。でも、私たちの目的はすでに果たされた。果たされてしまった。もう一緒にいる理由はない。
私には帰るべき場所と女王の責務があり、リュウトも何らかの目的を持って旅をしているのだろう。だからここでお別れ。きっと、もう出会うこともないのだろう。それがたまらなく悲しくて、胸が痛い。まだ一緒にいたいって、私の心が叫んでいるのがわかる。
でも、別れの時は確実に迫っている。私の耳にはその声がはっきり聞こえたから。・・・エルフの耳が他の種族よりいいのがよかったのか、悪かったのか。でも、私は自分でこの時を告げなくてはいけない。
「リュウトよ、すまぬが私はここで共の者を待たねばならぬ。これほど恩のあるものに何も礼をせんのは心苦しいのだが、ここでお別れだ」
「礼なんかいらないさ。俺は俺が助けたいと思ったから助けただけなんだから。・・・またどこかで会えたらいいな!」
リュウトはなんでもないようにそう言って・・・振り向きもせずに歩き去っていく。そうよね、リュウトにとっては私は旅の途中で出会った一人のエルフに過ぎないものね。
・・・ん? また会えたら?? リュウトが行った方向を考えると、迷いの森を抜けるのよね?私は森の中を直線的に帰るけど、リュウトは街道を通って・・・しかも案内所によっていくとなると・・・うん! 時間的に凄くいいタイミングじゃない!!
「女王様~!! ここにおられましたか~~!」
ようやく私と合流した部下たち。文句の一つもって思ったけど、必死に探したらしく息切れしてる様子を見てそれはやめておいた。
「女王様!大丈夫でしたか!?」
「心配は要らぬ。ダークエルフの討伐もすでに終わっておるぞ」
おお~!!と響く歓声を無視して私は彼らに告げる。
「さて、今回役に立たなかったそなたたちにかわりに少々やってもらいたいことがあってな」
ふふ、リュウト・・・もう少しだけ私に付き合ってもらうわよ♪