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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
3部1章『エルファリアの日常』
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4話 「優しさという罪」

 本日も気持ちのいい快晴! んじゃ、さっそく鍛錬にでも・・・


「リュウト殿・・・よろしいですか?」


 メイ? 周りに誰もいないのにこの言葉遣いをするってことは・・・メイドとして話がしたいってことか。それもかなり真剣な。


「・・・何があった?」


「いえ、何かが起こったわけではないのです。起きたのはもう・・・ずっと昔のこと。ただ、今日は女王様に会っていかれて欲しいのです。」


 朝のこの時間はアキも忙しい時間帯。だから俺たちは朝から会うことは今までなかった。それを・・・


「わかった・・・。執務室に行けばいいのか?」


「いえ、本日は職務はお休みです。出来るような状態では無いでしょうから。本日は・・・その、命日なのです。」


 あのアキが職務が出来なくなるほどの? たしか両親を事故で亡くしたと聞いていたが。


「両親の・・・か?」


「いえ、亡くなったのは私たちにとっては赤の他人です。ですが、女王様にとっては親の死よりも堪える死であったというのもまた事実です。」


 親よりもなお? 親友か? それとも恋・・・


「クスッ、リュウト殿が思うような関係ではありません。本当に何の関係もない、本来なら顔を知ることさえなかっただろう人たちなのです。」


 俺はよほどおかしな顔をしていたのだろうか? ほんのちょっとだけ笑顔を見せた後、すぐに真面目な顔をしてそう告げた。しかし人『たち』か。


「申し訳ありません。私の口からこれ以上言うわけにはいきません。女王様のおられる場所の近くまではご案内しますので、あとは・・・」


 本人に聞けってか。それも近くまではってことはその場には行けない。もしくは行きたくないか。


「わかった。じゃあ案内してくれ。」


「はい。申し訳ありません、私では女王の・・・あの子の傷を癒してはあげられないの。」


 彼女が最後に見せてくれたのは女王の右腕ではなく、本心から妹を心配する姉の顔だった。




 森の中にひっそりと、しかし綺麗に磨き上げられたその墓。その前で跪き祈る少女。その顔は泣いているようで・・・いや、涙は流れていなくても彼女は間違いなく泣いているのだ。だから、声なんてかけられなかった。それでも止まらなかった足が草を踏む音で彼女が気づくそのときまで。


「誰じゃ!!」


 気づいた彼女がビクッと震えた後、叫ぶ。こんな姿、あの旅の戦いの中でなら何度か見た。だが、平和になったあと、日常ではこんな強いアキの感情は見たことが無い。それほど強いのに・・・彼女の思いがわからないなんて、今までありはしなかった。


「驚かせて悪い。俺だよ。」


「リュウト・・・。お姉ちゃんに聞いたの?」


「ああ、ここにいるから会って行けってな。理由は・・・聞いてない。」


 その言葉に「そう」とまるで息を吐いただけのように告げた。知られたくない話なのか、自分で話したかったのか・・・それとも両方なのか。俺には判断がつかない。


「ここに眠っているのはね・・・私が殺してしまった人たちなの。聞いてくれる? 愚かな女王の愚かな物語。」


 そういうアキの顔は泣いているのか、笑っているのかさえわからなかった。何もいえなかった。だから、コクリとうなずくことをその返事とした。




 あれは・・・そう今から400年ほど前のこと。私が女王に選ばれてすぐのことだったわ。私とお姉ちゃんは数人の兵を連れて、息抜きをかねた視察に出てたの。そして町の入り口辺りで・・・


「ん? お姉・・・メイよ、アレはなんじゃ?」


「女王様? どうなさいましたか・・・アレは魔物!? 女王様、危険です、こちらへ・・・」


  私が見つけたのはね、当時のこの森では結構危険な魔物だった。といってもこの子はすでに深い傷を負っていて、そのままほおって置いても死ぬだろうことは誰の目にも・・・だったけどね。


「ま、待つのだ! まだ生きておるではないか。それに何の悪さもしてはおらん。殺してはならん。」


「女王様・・・わかりました。では、森に追い払うだけにしましょう。」


 どっちにしてもその子が助かるはずなんてなかった。だから私のは何の意味も無い行動。ただ、目の前で死ぬのを見たくなかっただけ。だから、お姉ちゃんもあえて反対はしなかった。そう、本当だったらそんな無意味でも可愛いわがままで終わった話だった。


 そのころの私はね、女王の責務なんてほんのちょっともわかっていなかったと思う。まだ幼い私に国を指揮する力なんてなくて、実際に業務をやってたのはお姉ちゃんと前王の側近たちだったの。だから、時々目を盗んで森に遊び行ってた。そう、あの視察の数日後もね。


「あれ? あの子はあの時の?」


 そこで見つけてしまったの。視察の時に追い払った傷を負った魔物。そして手元にはお姉ちゃんが作ってくれたよく効く傷薬。


「むう、このままじゃ死んじゃうの。えへへ、このお薬はね、よく効くんだよ? 私のお姉ちゃんの作った秘薬なんだから!」


 きっと私は哀れんだのでも可哀想だと思ったのでもない。ただちょっと、自分が良いことをした気になって喜んでいただけ。それが後にどんな結果をもたらすかなんて考えもしなかった。うん・・・リュウトにはもうわかってるよね? この物語の結末が。


 そのさらに数日後、エルファリアに一匹の魔物が侵入した。もちろん、私が怪我を治してしまったあの魔物よ。今のリュウトなら、私なら・・・きっと何の苦もなく勝てる相手よ。でも当時は違った、私たちを守ろうと戦った数人の兵が・・・その子に殺された。私が何の気なしに、自分の心の為だけに! 傷を癒したりしなければ死ななかったはずの人たち。彼らを殺したのは・・・私なの。


「・・・主人のために泣いてくださってありがとうございます。・・・女王様。」


 死んでしまった兵の1人の奥さんの言葉。私は未だに忘れられない。それに私は彼のために泣いたんじゃない。自分のしてしまったことが怖くて泣いていたの。


「主人は女王様をお守りすることを誇りに思っていました。・・・ですのであの人は誇らしげに笑っておりますわ。」


 言えなかった。あなたの旦那さんは私の所為で・・・私のわがままの所為で命を落としたんですなんて・・・。だって


「ねぇママ~、パパどこに行っちゃったの? いつ帰ってきてくれるの?」


「パパはね・・・もう帰ってはこれないのよ。うう・・・」


 そんな場面を見てそんなこと言えない。彼女たちの為じゃない・・・私がなんて言われるか、それだけが怖かった。


 彼女らは何も知らない。ただその夫が、父が命を賭けて戦い死んだ。知っているのはこれだけ。ううん、あの子はそれさえも知らなかった。だから全ては私の気のせいなんだけど、私にはまるであの人を返せ、パパを返せって睨まれているように感じた。怖かった、凄く怖かった。わかるでしょ? 私はそんなことをしてなお・・・自分のことしか考えられなかったような女よ。幻滅した?




 俺は・・・彼女になんていってやればいいのだろう? 無論、幻滅などはしていない。当時、人で言うなら11歳の女の子にそこまでのものを背負えという方が無理だと思う。だが、彼女の選択が間違いであったこともまた事実なのだ。そして、メイがアキの傷を癒せないのは彼女もまた責めているのだろう。あのときに万全を期して追い返しなどしなければこうはならなかったと自分自身を・・・。


「リュウト、お姉ちゃんが実は凄く強かったの覚えてる? あれはね、今度何かあったら自分が戦うんだって・・・密かに特訓してたんだって。私は本当に一番悪い私は・・・泣くことしかできていなかったというのに。」


 アキは笑っていた・・・勿論、おかしくてでは無いだろう。馬鹿だと思う自分自身をあざ笑って笑う自嘲の笑み。それが酷く痛々しい。


「今年はね、今までよりもっと苦しいの。だって、もしあの兵の立場があなただったら? 馬鹿な小娘がほんのちょっと気分を良くしたい為にやった行動であなたが死んでしまったら? 私は絶対にその子を許せないと思う。そんなことを考えちゃう私が凄く醜くて、余計辛い。」


 ポツリ、ポツリと森に雨が降る。さっきまで、あんなに晴れていたはずなのに・・・きっとこれはアキの涙だ。


「アキ・・・確かにキミは間違えていたかもしれない。だが、それはただの結果論だ。ひょっとしたら、誰も傷つかず、魔物もエルフも死なずにすんだ未来もあったかもしれない。」


「そんなこと起きなかった! 実際に・・・死んでるのよ。」


「わかってる。よく『神ならざる身では』なんていうけどな、人やエルフどころか神の末端らしい俺だって未来のことなんてわからない。俺が良かれと思ってやったことは、ひょっとしたら事態をより悪くしただけなのかもしれない。そんなことは誰にもわからないんだ。」


 彼女の気持ちはよくわかる。なぜなら、それはきっと俺が姉さんたちに持っている負い目と同じもの。俺が竜神の力なんて求めなければ、あの時孤児院に帰っていなければ・・・なかったかもしれない悲劇。そうであった保障などありはしないが、それはアキも同じ。だからメイは自分を責めているんだ。誰が見ても助からない・・・だが、もしもは0ではない。自力で生き残る、アキでなくても誰かが助けてしまうかもしれない。そんなもしもを忘れていたのはメイも同じだから。


「以前キミは言っただろう?『本当に自分勝手な人なら他人の傷みなんて気にしない。』って。自分の行動で傷ついた人を思い泣けるキミ。その悲劇を繰りかえさないって頑張っているのは俺だってわかる。そんなキミを誇りに思いこそすれ、醜いだなんて絶対に思わない。それは・・・きっとキミの民も同じだよ。キミが思っている以上にみんなアキを知っている。そんな優しいアキだからこそついていきたいと思う。支えたいと思っているんだ。」


「私・・・私・・・!」


 いつの間にか泣き出したアキを俺は胸に押し付ける。その涙を見られたくないとアキは思っているのだろうから・・・。きっと、彼女の傷は生涯癒えない。俺の傷がけして癒えることの無いように。でも、ほんの少しでも痛みを消してあげることは出来るはずだ。叶うならば・・・その痛み、全部俺にくれよ? キミと一緒なら耐えられないものなんて俺には無いんだから。


 降りしきる雨の中、俺は天を見上げる。もしも、もしも本当に全知全能の真の神とでも呼べるものがいるなら聞いてみたい。彼女の優しさは罪なのですか? 優しさと呼んではいけないものなのですか? と。もっともそうだと答え様ものなら神とはいえ、無言で切り捨てさせてもらうけどな。

え~、どうやら生きて再会できたようでなによりです。彼らと付き合うと人間ってなかなか死ねないものだと実感できます。


メイ「馬鹿なことを言っていないで物語のこといいなさいよ」


いえ、今回の話に関してはこれ以上は何を言っても蛇足でしょう。答えなんて元々無いのですから。


メイ「そう・・・ね。この先は受け取る人次第か。」


はい、アキをより好きになってくれる人もいれば嫌う人もいるでしょう。どっちが正しいわけでもありません。


メイ「だからこそ、あの子の傷はけして癒えない。・・・女王なんて立場でなければ優しい子ってだけで終われるのにね。」


悪意がなくても人を傷つけることは出来る。ゆえに力あるものは・・・なんて話はいまさら僕が言うことでも無いでしょう。さて、ちょっと重くなっちゃいましたね。次回はリュウトの日常をお楽しみください♪


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