2話 「看病」
「アキ! 大丈夫なのか!?」
きゃあ! バタンと乱暴に扉が開け放たれたかと思ったら聞こえてきた第一声はそんな大声。リュウト~、私を驚かせてショック死でもさせようって言うの~。
「お、驚かすでない。なんと聞いたかは知らんが、ただの風邪じゃ。心配することは無い。」
「か、風邪? い、いや! 風邪は万病の元って言うぞ! 下手にこじれたら最悪命まで・・・お、俺は病気相手にどう戦えば!?」
なんでリュウトが戦うのよ。戦うのは私だよ? それに私があんな話し方をしたように・・・ここにはもう2人、私たちの会話を聞いて笑いをこらえてる2人組みがいるのよ~!
「大丈夫ですよ、リュウト殿。そうならないために私どもがいるのですから。では、私どもは邪魔になるようですからおいとましましょうか。」
「そうですね、ドクター。では女王様・・・お薬ちゃんと飲んでくださいね。」
一応真剣な顔を取り繕ってはいるものの笑いをこらえてるのが丸わかりな2人・・・ドクターと看護婦のルルが足早に出て行く。そして、残されたのは私とリュウトの2人だけ。なんだろう、なんか妙に緊張する。
「なぁ、アキ・・・。」
「な、何? リュウト。」
「ん? 薬飲むんだろ? 俺、水とってこようか?」
ああ、そうか。でも、あの薬は・・・
「あのね、水差しはそこにあるんだけど・・・」
「あ、本当だ。なら早速飲んで・・・どうした? アキ。」
うう、こんなこといったら笑われちゃうかな?
「あ、あのね・・・リュウト、笑わない?」
「勿論。俺がアキの何を笑うって言うんだ?」
本当? 信じてるんだからね、リュウト・・・。
「あのね、ドクターのお薬ってよく効くんだけど・・・凄く苦いの。」
だから飲みたくないな・・・ってどうしたの、リュウト? そんなに体を小刻みにゆすって・・・
「・・・くっく・・・あはははは・・・あっはははははは! あ、アキ・・・苦いから飲みたくないって! 小さい子供じゃないんだから!」
あ~! 笑わないって言ったのに! う~、どうせ、私は子供みたいだよ~~~~!!
「う~、もう・・・リュウトなんて嫌い!」
「あはは、ごめんごめん。・・・でもな、アキ、俺としてはじゃあ飲まなくてもいいよ。とは言ってやれないんだよなぁ。」
えっ? えっとお薬と水差しもって近づいてこないで・・・。りゅ、リュウトなんか怖いよ?
「ほら! 口開ける!」
モガッ! い、嫌! そんな無理やり・・・苦! 苦いよぉ~! み、水・・・ってなんでリュウトが飲んでるのよ!?
「なん・・・うちゅ・・・?」
えっと・・・今の何? リュウトの顔が近づいてきて、私の口に水が・・・え~~~!! 今、私リュウトとキスした!? 口移しで水飲まされた!? 顔が・・・ううん、全身がかぁ~って熱くなって・・・もう! 余計熱が上がっちゃってるじゃない!!
「苦かった?」
「そ、そんなの吹き飛んじゃったよぉ~~。」
むしろ、甘かったっていうか・・・。うう、もし死ぬとしたら風邪じゃなくてリュウトの所為だよ~!
「あれ? なんか私、眠く・・・」
「本当によく効く薬みたいだな。・・・おやすみ、アキ。ゆっくり眠ってくれ。」
「うん、おやすみなさい・・・。」
う・・・ん。今・・・何時?
「アキ、起きたか?」
「リュウト? もしかしてずっといてくれたの?」
何時かはわからないけど、辺りが暗くなってるから1時間や2時間じゃないんだろう。私、迷惑かけちゃってるな。でも・・・なんか嬉しい。
「病気で辛い時に目が覚めて一人っていうのは辛いものだからな。何、俺も一緒に休めたってことでいいんじゃないか?」
嘘、下手だよね。リュウトがちっとも休めていないことなんて私だってわかるよ? でもね、そんなリュウトの思いが凄くあったかいの。
シャリ、シャリ・・・って何かをむくような音がする。
「リュウト?」
「ちょっと早いけどもう時期夕飯どきだからな。少しでもいいから食べておけ。」
「うん! 食べる!」
リュウトがむいていてくれたのはリンゴ。何の変哲も無い普通のリンゴだけど、凄く美味しく感じた。結局私は大きめのリンゴを3つも食べてリュウトを呆れさせた。
「まったく、食べれないようだったらすりつぶしてやろうかと思ったけど、必要なかったみたいだな。」
「あ、それも食べてみたいかも。」
「いくつ食べる気だ? まぁ、食べられるに越した事は無いけどな。本当にアキは果物好きだよな。」
なんて笑いながらまたリュウトはリンゴをむいていく。・・・たしかに私は果物好きだけど、今の食欲は・・・それだけじゃないんだよ?
本来は結構手間のかかるすりリンゴだけど、リュウトは風の魔法を使って器用に作ってしまった。この手の出力調整は私よりもうまいかもしれない。
「うん・・・美味しい。」
「好きなだけ食べてくれ・・・」
その言葉に甘えて私はさらに3つのリンゴを食べることになった。
「もう、おなかいっぱい。」
「満腹になるまで食えるんなら心配はなさそうだな。」
言葉では呆れたように言うリュウトだけど、心底安心したって言う顔が全部語っちゃってるよ? 私がどれほどあなたに心配をかけたのかを。
コンコン・・・と控えめにされたノック。そして
「女王様、起きておられますか?」
お姉ちゃんの声だ。私がいない分の負担は全部お姉ちゃんに乗っちゃっているはず。まだきっと忙しい時間のはずなのに・・・
「・・・入ってきてくれ。」
「では・・・ちゃんとご飯は食べれたようね?」
入ってくるなり、食器を見て微笑んでくれるお姉ちゃん。私、お姉ちゃんにもこんなにも心配かけてる。
「汗かいちゃったでしょ? 着替えてしまいましょう。」
「ありがとう。・・・あの、リュウト?」
「リュウトくん、あなたは結婚前の女の子の着替えを見ていくつもり?」
「ご、ごめん!!」
慌てて出て行くリュウト。なんだろう? 体は辛いのに、ううん、辛いからこそかな? 心が凄く温かくなる。みんなの優しさが凄く嬉しい。
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「こんな時ぐらいはね。それに本当はルルが来るはずだったのを代わってもらったのは私なのよ。・・・でも、これからは倒れる前にちゃんと自分で休まなきゃ駄目よ。」
「うん、ごめんなさい・・・。」
お姉ちゃんと入れ替わりにまたリュウトが入ってきて・・・おなかがいっぱいになったからか眠くなってきて・・・
「う・・・ん?」
「悪い、起してしまったか。」
どうやらリュウトははだけた掛け布団を直そうとしてたみたい。辺りは真っ暗、もう夜中だよね?
「ううん、偶々だよ。それに・・・もしかしてリュウトずっと起きてた?」
「ナイトが寝てたら役にはたたないだろ?」
そこで起きてたってはっきり言っちゃうのがリュウトだよね。やっぱり、起きてたんだ・・・。
「ごめんね・・・。」
「いいから・・・ほら、もう一眠りしておけ。」
「う・・・ん・・・。」
ちゅん、ちゅん・・・雀のさえずり、優しい日差し・・・朝?
「おはよう、アキ。」
「おはよう、リュウト。」
やっぱりリュウトは徹夜しちゃったのかな。そういう疲れがまったく表に出ないリュウトだからわかりにくいけど。
「で具合はどうだ?」
「うん、もうバッチシ!」
薬のおかげ? ・・・ううん、きっとみんなの優しさのおかげで風邪は完全に治ったみたい。
「そうか、でも無理はするなよな。」
「へへ、ありがと。でもね、看病凄く嬉しかったよ。もし、リュウトが倒れたら私がしてあげるんだから!」
「ほ~う? ならどうにか風邪を引いてみるか。病気などここ最近無縁なんだが・・・。」
「こら! わざと引くようなまねしたら許さないんだから!!」
変わらない毎日の中のちょっとした変化。きっとこれも幸せの証。
誰しも経験があるだろうこと。アキも十分に堪能したようです。
アキ「あらためて言われると恥ずかしいがな。だが、またの機会を楽しみにしてしまいそうだ。」
まぁ、風邪を引きたがる子供の心理って言うのは大体こんな感じですね。
アキ「なっ!? わ、私が子供だっていうのか!?」
子供でしょう? まだ(人間で言うなら)15歳なんですから。おまけに4年相当分は女王様として子供らしいこと出来て無いんですから甘えておけばいいんです。
アキ「・・・そなたにそのようなことを言われるとは・・・。ふむ、これからは優しくしてやらねばならぬか。」
メイ「と、女王様に思わせるための作戦かと存じますが。」
なっ!? そ、そんなことは思っていないぞ!!
アキ「そうか・・・感心して損した! 今までどうりの扱いで十分だ!!」
ひ、酷い・・・。本心から言ったのに・・・。
メイ「このほうが何かと面白いですので・・・私が。」
・・・鬼・・・悪魔・・・ヒギィ!