5話 「足手まとい」
「ふざけるな! 俺もアキのことは詳しくは知らない! だがな、こんな心優しい子が戦いの場に来る。それ自体がどれだけ勇気の要ることか! 貴様程度にアキを馬鹿にする権利などありはしない!!!」
リュウトの怒声が・・・ううん、殆ど咆哮と言ってもいい声が響き渡る。その声は何故か竜の姿を幻視してしまうほどに・・・。
正直な話、あのダークエルフの言っていることはもっともだと思う。この戦いは本来私の戦いのはずで、リュウトもまったく関わりがなかったわけではないみたいだけど本来は戦う必要性もなかった・・・のだと思う。だというのに私がやったことといえば初めの名乗り上げぐらいで後はいきなり仕掛けられた炎に対応することも出来ずにリュウトに助けられて・・・今はこうして震える体を抱きしめていることぐらいしか出来てない。・・・完全に足手まといだよね。
「うぉぉぉぉおおおお!!」
先ほどの咆哮の気迫のままにリュウトはダークエルフに斬り込んでいく。それはエルフ族の中でもかなりの使い手であるあいつを追い詰めるほどのものだったけど。
「くっ! この・・・小僧! なめるなぁ!!!」
けれど、そこはダークエルフもさる者と言ったところ、素人目に見ても剣技は奴の方が上、魔法などはきっと比べるまでもないのだと思う。・・・リュウトは魔法を使えるのかしら?
「うわっ!?・・・だが負けはしない!」
リュウトはすでにかなりの手傷を負っている。でも彼の目には怯えもひるみも見えない。彼は戦うことが怖くないのだろうか? ・・・そんなはずはないよね? リュウトとは出会ったばかりだけど私にはわかる。彼は戦う事が好きな戦闘狂ではけしてない。むしろ、戦いそのものは嫌っているようにさえ見える。それでも傷つくことを恐れずに戦うのは・・・それ以上に大切なものがあるから?
だったら・・・私にも! 私にも譲れないものがある!! エルフの誇りなんて本当はどうでもいい! だけど、国の皆は!私を信じてくれる人々は絶対守らないといけないの!!
「これでとどめだぁ!!」
そうはさせない! 私だって・・・戦える!
「ファイヤーボール!!」
「何!?」
リュウトの背後から撃った火の基本技(各属性ごとに4つある誰でも使える技)の一つである私のファイヤーボール(火炎球を前方に撃つ魔法)はダメージこそ、そう大きくはないけど体制だけは大きく崩すことが出来た。
「どうした?お前の相手は元より二人。私を意識からはずしていいはずがあるまい。・・・後は任せたぞ、リュウト」
本当は感謝で一杯なのに・・・こんな風にしかいえない女王の立場が恨めしい。ううん、立場に縛られて自分を出すことを出来ない私の弱さが情けない。
「おう!任せろ!」
だというのにむしろそれが当然とばかりに斬り込んでいくリュウト。そして、その一撃はたしかにダークエルフに致命傷を与えたの。・・・そう思ってしまったことが間違いであったのだけれども。
「これでチェックメイトだ!」
「待て! リュウト!!」
そう、私はこのタイミングで戦いを止めしまった。もう十分に勝負はついた・・・そう思ってしまったから。
「・・・アキ?」
怪訝そうな顔をするリュウトを置いて私はダークエルフに語りかける。
「この傷では助かるまい。だが、最後の言葉ぐらいは聞いておいてやるぞ」
きっと、これは私の慢心。自分が最後にエルフの仲間として裏切り者にも慈悲を見せてやったという自己満足を得たいが故の・・・。そして、その結果は
「ならば聞かせてやろう・・・馬鹿めだぁ!」
ダークエルフの最後のあがきは相打ち覚悟・・・いえ、完全に相打ちを狙った命の全てを攻撃に転化した巨大な火炎球による一撃だった。
この位置じゃ二人とも・・・。ごめんねリュウト、私、最後の最後まで足手まといだった・・・。